スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2

ふぁむ・ふぁたる

 じきに休憩が終わるという頃、初めて訪れたロケ地の散策に出た担当俳優を探し歩くマネージャーは、森を通る小径のはたにしゃがみこんでいる大きな後ろ姿を発見した。
 「蓮?何してるんだ、そんな所で」
 呼びかけると蓮は、木の根方に屈んだ姿勢のまま振り返る。し、と口元に指を当てて。
 「静かにして下さい、怯えちゃうでしょう」
 「は?」
 不得要領な顔の社がそれでも何となく忍び足になって近付くと、蓮は視線を戻して何かに頷きかけるような動作をした。
 「よしよし、大丈夫だよ。こわい人じゃないからね」
 「…???」
 社の頭上でクエスチョンマークが肥大化の一途を辿る。できるだけ足音を忍ばせて担当俳優のすぐ背後に行き、身を屈めて手元を覗き込む。
 そこには、
 ちまっ。
 と、
 くりっ。
 とした小動物がいた。オレンジっぽい茶色の、やわらかそうな毛皮。体より大きいくらいの、ふさふさの尻尾。
 「へえ、リスだ。かわいいなあ。まだ子供…」
 思わず笑顔になって蓮を見返れば、そこには彼さえ見たこともないほどの甘やかな微笑が静かに深く輝いている。
 「……」
 「社さん?」
 赤面絶句してしまったマネージャーに、俳優は仔リスに手を伸ばしたまま視線だけ向けた。
 「あ、いや…えっと…お前、そんなに動物好きだっけ」
 こほん、と社が咳払う。蓮はまた小動物に目を落としながら苦笑した。
 「まあ、確かに好きですけど。でも何だか、この仔には特別惹かれるものがあると言うか」
 言いながら彼は、手近に落ちていたドングリの実をリスに手渡した。しかしそれが固すぎるらしく、いかにも苦労してがじがじと齧りつく仔リスの前歯はドングリの表面を引っかくばかりだ。
 「ああ、ちょっと貸して」
 蓮は小さく微笑むと、指先で仔リスの鼻先を掻いてからドングリを取り上げた。それをぱちんと握りつぶし、改めて与える。
 ぱあっと、リスが笑うものならば確かにその仔リスは笑ったと思われた。ちいさな両の前足をいっぱいに伸ばして木の実を受け取ると、大事そうに胸に抱えて蓮を見上げる。ありがとう、と人間なら言っただろう。
 「どういたしまして」
 声なき意思を受け取ったか、俳優はにっこり微笑んだ。
 リスはぺこんと頭を下げるような動作をして、早速おやつに取り掛かった。ひびの入った殻を仔細に眺め、割れ目の一番深い部分に前歯を入れる。こりこりこり…せわしないけれどかわいらしい音が響き出した。
 「かしこそうな仔だなあ」
 感嘆する社に、蓮がすかさず言った。
 「かしこいですよ。人を見る目もありますしね」
 「うん?」
 「見つけたのは俺じゃないんですよ。でも、他の人がいる間はずっと隠れてて、一人になってから俺がそっと呼んで見たらおずおず出て来たんです」
 「へえ…」
 自慢してるのか?と社は信じがたく思う。蓮が。あの敦賀蓮が、仔リスに自分だけ懐かれたんですよ、と。
 マネージャーの心中を知らず、長身の俳優は微笑のまま話を続けた。
 「変に騒ぐ人間は嫌ですよね、それは。とは言え、俺のことも最初はだいぶ警戒してましたけど。それで俺ばっかり見ながら歩くものだから、枝から落ちかけて。そこを助けたら、にっこり笑ってくれたんです。もう、可愛すぎて…!」
 「れ、蓮?」
 担当俳優がプライベートでそんなに熱を入れて話すところを見たことがない。マネージャーはほとんど奇異なものを見る目で隣にしゃがむ青年を見た。しかし蓮に気にした様子はない。ドングリを食べ終えて切なそうに殻を見る仔リスに手を伸ばし、さすさすと鼻先を撫で始めた。
 小動物はきょとんと彼を見上げ、小首を傾げる。これだけでも十分愛らしいのだが、ちょっと考えた末に彼女(としか思われない)は、すり、と大きな手のひらに頭をすり寄せた。
 ぴっしゃあああん。二人の青年を、何かが貫いた。
 「………社さん」
 「う、うん…?」
 「この仔、連れて帰っちゃ駄目でしょうか…」
 「あ…いや、どうだろう…?別に、誰かが飼ってるわけじゃないと思うけど」
 冷静に考えれば、必ずしも推奨される行為ではない。しかし。しかし、この仔リスの破壊力の前に、一体誰が抗えると言うのか。
 社の喉がこくりと鳴る。
 「じゃあ…賭けてみる、とか」
 「賭け、ですか?」
 「ああ。お前とこの仔の運命に、さ。
 「この仔が、今日のロケが終わった時にここにいるか、呼んで出てきたら連れて帰る。逆なら諦める」
 分の悪い賭けではある。ロケの終了まではまだ何時間もあるし、暗くなればこの子は巣に帰ってもう出て来ないことだろう。しかし蓮は、小さく頷いた。
 「わかりました、そうします」
 そして仔リスに向き直り、やさしく話しかけた。
 「ねえキョーコちゃん、君、俺と暮らさない?絶対不自由はさせない。全力で幸せにするから」
 リス相手にプロポーズまがいの言葉を吐く俳優を、社は複雑な顔で見守る。よく言うよ、とも思うし、気持ちはわかる、とも思うのだろう。
 「ね。あとで迎えに来るから、俺が呼んだらきっとここに来て」
 とどめとばかりにきらびやかに微笑み、蓮は仔リスの頭を撫でる。気持ちよさそうに目を細めたリスがじっと彼を見上げるさまは、社でさえも『きっとよ?』などという幻聴を聞くくらいに愛らしかった。
 「ところで、キョーコちゃんって…もう名前つけてるのか」
 「社さんが言ったんじゃないですか。この仔が俺の運命の相手なら、そういう名前に決まってるんです」
 「?」



 その日、ロケ終了が告げられるや否やトップ俳優は猛スピードで森に駆け込んだ。彼の運命がいかなる色を紡ぎ出したのかは余人の知るところではないが、ただ…
 その日の帰り、彼は非常に上機嫌であったと言う証言があった。



web拍手 by FC2

続きを読む

スポンサーサイト

POISON

 ズドーンッ!!
 尚を思い切り突き飛ばし、キョーコはぜいぜいと息をついている。
 「何…考えて…っ」
 低く軋り出る声を怒気に震わせ、彼女は言い切らず絶句した。そろそろと、
 振り返る。茫然と突っ立っている長身の俳優を。
 ぽて…
 ぽて…
 と、左右に肩が振れる歩き方は常に似げもない。
 「…っ…が、さ…」
 聞き取れないほどにかすれ潰れた声を洩らし、キョーコは縋るように恐れるように一歩ずつ蓮に近付いて行く。
 誰もひとことも発せずに見守る中、彼女は足を止め、震える手をそろそろと持ち上げた。
 蓮のジャケットの裾をつかむ。同時にボタボタ泣き出した。
 は、と俳優が覚醒する。一瞬目だけで周囲を確認するが、すぐに細い肩に手を置いた。
 「おいで」
 促して歩き出すのへ、尚が一番に反応した。
 「なっ…おいコラ、どこ連れてく気だ!」
 「どこへ?」
 蓮は顔だけ半分振り返る。目の底がきんと冷え込んでいた。
 「手当てに決まってるだろう、野良犬に噛まれたんだから」
 「何だとテメエ…
 「!?」
 激発しかけるミュージシャンだが、突然ぎしりと動作を停めた。瞬間的に冷凍されたように。
 蓮はマネージャーに会釈し、緒方の方を向いた。
 「すいません監督、少しだけ時間をもらえますか。彼女を落ち着かせて来ます」
 「え、あ!ああ、はい。わ、わかりました」
 なぜかぴしりと直立するのへ軽く頭を下げ、蓮はキョーコを抱えるようにスタジオの出口に向かった。



 キョーコは何度も口を漱いでいる。えづくほどむせながら、それでもやめようとしない。
 「最上さん、それくらいに…」
 見かねた蓮が肩に手をかけると、びくと震えて動かなくなった。
 「すいま…せん、撮影の邪魔をして…」
 「そういうことじゃなくて」
 「でも、まだ戻りたくないんです…だって、あいつ、皆さんの前であんなっ…!」
 「最上さん」
 そっと口元にタオルを押し付けると、キョーコはぴたりと黙り込んだ。蓮は強張ったままの細い肩を優しく自分の胸に抱き寄せる。
 「落ち着いて。不破はもう帰っただろう、あの空気の中じゃ…」
 「……」
 キョーコは瞑目し、タオルの中に長い吐息を吹き入れた。蓮が震える睫毛から微細な水滴を拭い取ると、彼女は小さな声で謝罪の言葉を呟く。
 「すいません…」
 「…どうして謝るの?」
 「え。で、ですから…撮影の邪魔」
 「それだけ?」
 「敦賀さん?」
 潤いを残して見上げる大きな瞳に、俳優はしっかりと視線を合わせた。
 「俺に謝るのは、本当にそれだけの理由?」
 「え…」
 戸惑うキョーコの頬を大きな手で包む。擦りすぎてぽってりと赤い唇に、強い視線を当てた。
 「俺のものなのに、って思わなかった?」
 「つっ敦賀さん!?」
 「動かないで」
 優しく命じれば、キョーコは近付いて来る顔から目を離せないまま震える。
 「あんなの、キスじゃないよ。君の気持ちがどこにもないのに」
 俳優は低く囁いた。キョーコは何か問うように口を開くが、言葉が出て来ないようでただ浅い呼吸を継ぐ。
 「俺に頂戴」
 「…え…」
 「君の本当の…」
 皆まで言わず、蓮は小さな唇にゆっくりと吸い付いた。
 「…るがさ…」
 「しっ」
 唇が離れると、彼は少女のべそかき声を短く制して言う。 
 「まずは消毒。で、これで…」
 縮こまる肩をしっかりと抱き直し、先程よりも深く唇を吸い上げた。何度も啄んでは深めるうち、細い指が浅く彼の頬を掻く。その手を捕らえて引き寄せ、蓮は更に色を増して行く蕾を貪る。
 「…ん、んっ…!」
 苦鳴が上がって、やっと少女を解放した。
 真っ赤になって口元を覆い、荒い息をつくのへ、彼は慈しむように微笑みかける。
 「手当て完了」
 優しく、優しく言った。胸のうちで、自分の毒が彼女に回るといい、などと考えながら。


  web拍手 by FC2

続きを読む

BLACK WOLF & CAT(7)

 けほ、と小さな咳が聞こえた。
 キョーコは素早くセツカになり、兄のベッドに歩み寄った。
 まだ横になっているが開いてはいる目を覗き込めばカインのもの。長い腕がのろのろと上がって、自分の喉を不審そうに押さえている。
 「喉痛いの?兄さん」
 こくりと頷く黒髪の大男。わんこモードになっていると気付いてセツカは軽く溜め息をついた。
 「風邪かしら…熱はない?」
 額に手を当てようとするとふいと逃げる。
 「なに」
 尋ねた時にはわんこは2匹に増えていた。セツカは首を傾げ、もう一度手を伸ばした。
 また逃げられる。わんこはとうとう3匹、ダンボールがぎっちぎちになっている。今にもはじけそうだ。
 「一体何がしたいのよ…」
 向こう端に寄ってしまったカインを追い、妹はベッドに膝で乗り上げて顔を覗き込もうとした。
 その腕が、ふいに強く引かれる。
 「きゃ…」
 どさり。セツカは小さな悲鳴と共に兄の胸に倒れ込んだ。ひっ抱えられたまま怒り出す。
 「ちょっ、もう!要求があるなら口で言って!!」
 「…熱」
 「はあ!?だからさっきから、測ろうとしてるのに。じっとしててよ」
 カインの額に伸ばす手が捉えられた。妹の手を固定し、兄は自分のデコをくいくいと前に出す。
 なんか、どうも。とセツカは思った。
 「おでこ同士で測れって言いたいの…?」
 わんこが一斉に尻尾を振った。今度の溜め息は重かった。
 「まっ、たくもう…たまに調子悪いとここぞとばかり甘えるんだから」
 新しい設定が追加されたらしい。
 こちん。やや強く額が合わされ、セツカは寄り目になった。
 「うーん、ちょっと熱いかしら?今日は撮影開始時間が遅いから、薬飲んでもう少し寝ておいた方がいいわね」
 薬と聞いてわんこの耳がへたりと垂れる。
 「ダメ。体調管理はしっかり」
 セツカはさっさと兄の腕を抜け出し、自分の鞄に歩み寄った。
 「ひととおり揃えといてよかったわ。えーと、あとお水」
 風邪薬らしき箱を取り出すと、今度は冷蔵庫のところに行って中を見渡す。
 「半分飲みかけのがある、これでいいわね。ちょっとぬるめましょうか」
 「そのままでいい」
 「喉に悪いわよ?」
 セツカは言いながら兄の元に戻り、ベッドサイドに腰を下ろした。
 「はい、じゃあいい子にしましょうねかいんまるー」
 歌うように言って、カインの頭を抱え上げ、
 自分の膝に乗せた。
 「!?」
 カイン、を演じる人物の瞳に一瞬動揺が過る。
 しかしそれには気付かず、ブラコンの妹は水を自分の口に含んだ。3回ほど軽く自分の顎を揺すってから兄の口を開かせて薬を放り入れ、屈んで口移しに水を流し込む。
 「少しはぬるくなったでしょ」
 「……」
 いたずらっぽく笑う妹を無表情に見返し、兄は口元を押さえながら身を起こした。なにか口の中で呟いている。
 (そんな簡単に…)
 妙に複雑そうな顔をしているカインに、セツカは寝て寝てと背中をはたく。その手にはミネラルウォーターのペットボトル。先日、撮影現場でカインが口移しを要求した時の飲み残し。
 ともかく、“仕切り直し”はまんまと成功したらしい。



 
  web拍手 by FC2

続きを読む

BLACK WOLF & CAT(6)

 「おはよう、兄さん」
 コーヒーの香りと、コロンと転がるアメ玉のような声に目を開いた。
 最前からとうに意識は浮上していて、しかし室内に漂うやわらかなまどろみを惜しんで動かずにいた。
 全く、彼女のいる場所は桃源郷のようだ…
 蓮はのそのそと身を起こし、同時にカインの仮面を自分に被せて行く。上半身が起きた時にはそれも完了していた。
 妹の姿を見て眉を顰める。
 「…セツ。またそんな格好を」
 不快を滲ませた低い声。セツカが口を尖らせる。
 「だって、洗濯しちゃったからこれしかないのよ」
 ブラと変わりがないようなショートビスチェにスリット入りのマイクロミニ、室内なのでジャケットもなく、下手な水着よりよほど露出度が高い。
 「だから言ったろう。…ほら」
 カインはサイドボードに置いた黒革のサイフから金色のカードを抜き出し、妹に向かって放り投げた。
 「もっと服を買って来い」
 しかし器用にカードを受け止めセツカはぷうと頬を膨らませている。
 「またそんな無駄遣い」
 兄はもそりとベッドを降りると、朝食をセットしたテーブルの脇に立つ妹にスタスタ歩み寄った。と言うより距離を詰めた。
 「生意気を言うのはこの口か?」
 すべすべした頬をぎちぎちつねり上げる。
 「らからひょこは口らないっひゃら」
 「いいかセツカ」
 抗議など寸毫も聞かず。
 シスコン兄貴は妹の頬を両手で挟んで持ち上げた。セツカは半分足が浮いている。
 「お前はカワイイんだぞ?それがこんな挑発的な格好をして、また変な男に絡まれたらどうするんだ」
 じっくり言い聞かせると、案に相違してセツカは笑った。
 「兄さんが助けてくれるもの」
 「あのな…」
 「兄さんに助けてもらうの、好きなの。愛されてるなって思うから」
 「…!」
 どくん、と心臓を跳ねさせたのはカインだったか蓮だったのか。没表情の奥に疑問を隠す男に、少女は更に言う。
 「ねえ兄さんは、アタシのこういう格好そんなにイヤ?見たくもない?」
 見上げてくる瞳に追い詰められ、畳み掛けられてカインは低く呻く。
 「セツカ…」
 その名が唯一の拠り所。何のと言えば、犯罪者にならないための。
 しかし思わず洩らした言葉がどこから出て来たのか…
 「俺だけが見るんじゃないからな」
          判っている気がして、彼は彼女に背を向けた。
 「とにかく、服は買い足せ」
 目の裏に焼きついた肌の白さからは、逃れられなかったが。





→NEXT web拍手 by FC2

続きを読む

BLACK WOLF & CAT(5)

 ふんふん、と軽快な鼻歌が聞こえて来る。
 隅の長椅子で台本を読み返していたカインが顔を上げると、ミネのペットボトルを持った妹がいそいそと近付いて来るところだった。
 「兄さん、水飲んで」
 ボトルを兄の目の前で振り、セツカはほぼ命令に近い調子で言う。
 「今は要らん」
 「ダメ。もう5時間くらい水分摂ってないでしょ」
 きゅ、とフタを捻り、彼女は水のボトルを突きつけるように兄に差し出した。それでもカインは面倒くさげな顔をしたまま動かない。また台本に目を落とそうとするので、セツカは片目を半分に眇めて長い息を吐いた。
 「なんなら、飲ませたげようか?」
 言い終わると同時に、白い手からペットボトルが消えていた。それは勿論黒いデカい男の手に渡っていて、しかも大きな手のもう片方はセツカの背を掻っ攫って引き寄せている。
 「きゃ!?」
 小さな悲鳴と共に倒れ込み、少女は思わず兄の首にしがみつく。気がつくと、膝の上に横抱きにされていた。抗議しようと口を開くのへ、ペットボトルが突きつけられた。
 「え、あ、ホントに飲ませるの?しょうがな…」
 受け取ろうとした手が軽く払われる。ボトルの口は首を傾げるセツカの唇に寄せられた。
 「ちょっ…ん」
 強引に口内に水を流し込まれ、反射的に飲み込む。軽くむせながら兄を睨んだ。
 「もう、何するのよ。アタシじゃなくて、カインが飲むの!」
 びしりと言ったはいいが、どうも兄の様子がおかしい。水と自分の喉元を見比べて不満そうにしている。
 「何、その顔…飲んじゃいけなかったの?でもカインが…」
 責めつけかけてセツカは、ふと固まった。
 「…あの、まさか…く、口移しで飲ませろとか言うんじゃ…」
 漸くカインの意図に気付き、一瞬素に戻ってしまったキョーコがほしょほしょ言う。黒い男は瞳に剣呑な光を浮かべてそれを見返した。
 「あ…ご、ごめんなさい兄さん。ちょっとびっくりして…
 「だって、いくらなんでも人前でそんなこと」
 「人前じゃなきゃいいのか?」
 簡単に尋ねられてセツカはまた固まるが、一瞬で立て直しクスクス笑い出した。
 「もー…兄さんったら、当たり前じゃない。そもそも人前じゃダメって言うのは、他の人たちの目の毒になるからでしょオ?」
 兄の手から水のボトルを取り、もう片手で肉のうすい頬をすらり撫でる。
 「ホラ、口開いて」
 「……」
 カインは何を考えたか僅かに細めた目で妹を見つめたが、不意にそこに笑みの色を浮かべた。
 開いた唇に、セツカはすかさずボトルの飲み口を押し付けて水を流し込む。ゆっくりと、やけに真剣に。
 数回上下する兄の喉仏を確認し、そっと微笑んだ。
 「もっと?」
 尋ねるとカインは眼で頷く。ボトルの中身が半分近くになった頃、軽く手を挙げて押し留めるような動作をした。
 「もういいのね。じゃ、飲みかけはここに置いとくから」
 セツカがペットボトルのフタを閉めて椅子に置くと、ぼそりと低い声が呟いた。
 「持って帰って、仕切り直す」
 「…は?」
 一瞬何の話かと戸惑うセツカの耳に、軽い咳払いが聞こえて来た。
 「あの…すいません、Mr.ヒール。お願いします」
 出番を告げに来たらしきスタッフは、二人の近くへも寄れず数m向こうに立っている。眼が雄弁に『いろんな意味でアブない兄妹だ…』と語っているのへ、俳優はじろりと冷たい視線を流す。
 しぶしぶ立ち上がって歩き出す背中に、セツカはひょいと肩を竦め、
 そのあと、不思議そうに小首を傾げた。
 (仕切り直しって、何の話かしら…)




 
→NEXT web拍手 by FC2

続きを読む

検索フォーム
作品一覧
サイト「花うてHP!」トップよりブログ内の作品のリストに飛べます。閲覧者の皆様のアクションに対して加算させて戴く「花うてポイント」の説明・管理もこちらよりどうぞ!

作品リスト(サイトトップ)

アクセス

・メールフォーム

・BBS

リンク

◆リンクページ


◆当ブログへのリンクについて

当ブログはスキビコンテンツをお持ちのサイト様に限りリンクフリーといたします。


ブログ名:花のうてな

管理人名:みなみ なみ

URL:http://hananoutena.blog14.

fc2.com/


 ↓各ジャンルごたまぜの本サイト。

↓スキビの同人誌作品をブログ記事として収載・販売しています。(2014年7月までで更新停止)

 ↓BUD BOY二次です。


  • 管理画面
  • RSSリンクの表示
    QRコード
    QR
    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。