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パクス・ツルガーナ(73)~(78)

 拍手お礼にて連載しているパラレル話です。
 敏腕なのに担当タレントにモテ過ぎたり自信を失わせたりするのが問題というマネージャー敦賀蓮の手腕によって、ちょっと変わった性格で扱いづらいとされるタレント京子がのし上がっていく(?)物語。最後は…?


パクス・ツルガーナ

(73)
 「先にお話した通りの生い立ちですから」
 京子はなにか諦めたような吐息を洩らし、それに乗せて言葉を発する。彼女が何を思っているのか蓮は知らないが、こんな少女がそんな溜め息をつくことに戸惑いを禁じ得ずに奥歯を噛んだ。
 「私はずっと一人ぼっちで、できるだけひとの邪魔にならないように、いい子にしようって思いながら生きて来ました。男なんかに頼っちゃだめ、自分の力で生きていくのよ、そう母に言い聞かされて」
 「……いや…」
 君の父のような男ばかりじゃない、とは言いたいが言いにくい。空しく口を閉じる蓮に、彼女はわかっていると言いたげに微笑んだ。
 「でも、成長するにつれて周囲が見えてくると、やっぱりうちは特殊なんだってわかって来ますよね。そうして私は、あー、恋、をしまして。相手は笑っちゃうくらい手近な、バイト先の息子さんという始末でした」
 「旅館の…?」
 「ええ、まあ。でも振られました。髪振り乱して働いてる地味で色気もない女なんかは、願い下げだそうです。少しはテレビに出てるような綺麗な人たちを見習って、垢抜けたらどうだって言われました」
 「なんて」
 言い草だ、という蓮の言葉を遮って、ケトルがぽぴーと音を上げた。


(74)
 「ああ、お湯が沸きましたね。ちょっと失礼します」
 京子が平静に言って立ち上がるが、蓮はテーブルについた手がかすかに震えているのを見て取った。淡々と話すようでも、彼女にしてみれば複雑なのだろう。あるいは、それでさっさと話してしまえと敢えて先に切り出したのかもしれない。
 強い娘だ、と思った。自分の傷を他人になすりつけたりはしない。
 そして同時に、彼女がLMEに入った理由の一端を見た気もする。本来の京子なら、おそらく芸能界の扉を叩こうなどとは思いつきもしなかったのではないか。
 ポットに湯を移している京子の背をちらりと振り返り、蓮は苦い思いで息をつく。
 もし彼女が。


(75)
 「君は、君を振った男を見返したいと思って、この世界に入ったのか?」
 ポットを抱えて戻って来た京子に、彼は正面から尋ねた。タレントが一瞬目を伏せる。
 「そう、ですね…否定できません。そういう気持ちを持って、入所試験に来たと思います」
 「そうか…」
 蓮はテーブルの下で、膝に置いた拳を握った。彼女がそんな風に、負の感情から芸能活動を行おうと言うのなら、ラブミー部などに放り込まれるのも無理はない。それに。
 彼はゆるく息を吐き、抑えた静けさのうちに口を開いた。
 「車の中で、一旦身を寄せた世界において努力邁進する決意にいささかの揺るぎもないと君は言ったね」


(76)
 「申しました」 
 京子は手際よく茶を淹れながら明快に頷く。そのマネージャーは複雑そうに頷き返し、ひとつ呼吸を飲み下した。
 「だけど俺としては、そんな風にマイナスの動機からこの世界での活動を志すというのは…率直に言って、不快に思う。君たちは、人々に夢を見せる存在であるべきなんだ。悪夢でなく」
 「社長さんにも、そんなお話を伺いました」
 タレントはそっと微笑むが、その瞳には諦めに似た色がちらつく。
 「だから私は、お願いしたんです。私に更生の機会を下さい、って」
 「更生…」


(77)
 しなやかな動作で差し出された湯飲みを受け取り、蓮は納得の態で呟いた。なるほど、ローリィ宝田の好きそうなシチュエーションだ。そもそも、ラブミー部設立の目的にも適っている。
 「今はまだ、難しいです…人を愛するとか、愛されるとかについて考えることは。でも、やってみようって思ったんです。まずは、自分を作るところから」
 京子は、そこから温もりを吸収しようとするかのように両手で自分の湯飲みを包んだ。
 「状況に流されるばかりでなく、人の言葉に惑わされてばかりなく、私が私として生きて行くために。きっかけはともかく、縁あって入った世界で頑張ってみようって。
 「…敦賀さんは、そんなのは駄目だって思いますか?」


(78)
 「あ…」
 きっかけはともかく、縁あって入った世界。京子の言葉は、彼にも思いあたるところがあった。彼女は彼女なりに決意を持ってここにいるのだと思い起こし、蓮はゆるくかぶりを振る。
 「…いや…」
 今はまだ、芸能活動は彼女にとって手段であるかもしれない。よかろう、ではそれを目的に一致させるよう導くのも自分の仕事ということだ。崖っぷちのマネージャーは、この難題に敢えて挑む覚悟をした。
 「わかった…君は君の夢を求めるといい。俺はそれに協力するし…いずれは、君の目をもっと開かせるように力を尽くそう。どの道、そうするしか俺には選択肢がないわけだしね?」
 ちょろりとつけ加えれば、担当タレントが肩を縮める。
 「お手柔らかに…」
 「君こそ」
 マネージャーがふと笑う。
 そして共闘は、真の意味で成立した。



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パクス・ツルガーナ(67)~(72)

 拍手お礼にて連載しているパラレル話です。
 敏腕なのに担当タレントにモテ過ぎたり自信を失わせたりするのが問題というマネージャー敦賀蓮の手腕によって、ちょっと変わった性格で扱いづらいとされるタレント京子がのし上がっていく(?)物語。最後は…?


パクス・ツルガーナ

(67)
 ひいい、と声にならない悲鳴を上げる京子に、蓮は一瞬表情を飛ばしたあとにっこり微笑んだ。
 「不満そうだね?」
 「えっ!?あのいえ」
 「でも、今後のために相互理解は必要だから。君の本質に関わる話なら尚更、俺は聞いておくべきだと思う」
 「は…はあ」
 あくまでにこやかにやわらかく、要請しているようにマネージャーは言う。しかしその底には、清々しいまで明白に強要する意志が見えていた。
 「ということで、ミス・ウッズ」
 彼はくるりと美容師を見返る。
 「我々は移動しますので、和装のメイクですか、それはまた今度お願いします。今日の請求は、事務所の方に回しておいて下さい」
 言うが早いか、彼は担当タレントの腕を取った。
 「おいで」


(68)
 「どうなっちゃってるのかしら…」
 美容師の呟きを、車に戻ったマネージャーとタレントは知らない。
 再び助手席に納まった京子が、へどもどと隣の男に尋ねた。
 「あの、どこへ行くんですか?」
 「事務所に戻る。会議室でも借りて…」
 蓮は答えかけて途中で言葉を切り、ふと考える目をする。
 「そう言えば、ラブミー部の部室と言うのがあるんじゃなかったかな」
 「あ、はい。ありますが」
 「じゃあ、そこへ行こう」
 結論と共に車を出し、マネージャーは大きくハンドルを切った。


(69)
 「ここか」
 京子の先導で“部室”に辿り着き、蓮は小さくひとりごちる。
 他のセクションにあるように部課名の表示は出ていないから、知らなければ通り過ぎてしまうに違いない。
 「どうぞ…」
 タレントが開錠し、ドアを開く。
 「カギを持たされてるのか」
 よほど信用があるのかと少し感心する気持ちで彼は思ったが、考えてみれば所属人数などごくごく限られているはずの部だ。ほぼロッカーのカギ感覚なのかもしれない。
 果たして、部室内に踏み込むや京子が彼を振り返る。
 「敦賀さんにも、渡しておいた方がいいですよね」


(70)
 「え」
 一方の壁に一面のロッカー、その前にはベンチ。反対側には会議用長机を並べ、パイプ椅子が置かれている。簡素な室内の様子を見ていた蓮は、一瞬何のことかと目を瞬いた。
 「ここのカギです。まだ部員も2人、あ、敦賀さん入れて3人で、いつも誰かいるわけじゃないですから普段は閉まってることが多いんですよ」
 部員が2名。自分は数に入れたくないと思いつつ蓮はそれを覚えておくことにした。
 「ああ…」
 京子は話しながら掌で彼に椅子を勧める。と思うとロッカーから何か取り出して来た。ちゃらりと金属音がするからそうだろうと思っていると、案の定机の上にカギを一本置く。
 「どうぞ。えーと…お話の前に、お茶淹れますね」
 「え、ああ、ありがとう」
 受け取ったマネージャーはどちらかと言うと茶の方に礼を言ったが、相手はカギのことだと思ったらしい。
「別に貴重品が置いてあるとかじゃないですけど、ラブミー部は依頼によっては多少の秘密事項に関わることもありますから、戸締りには気をつけてるんです」
 流し台に向かう背中の落としていく言葉を、彼は口の先で繰り返した。
 「秘密事項…」


(71)
 「まあ、人事や営業の資料作成や入力のお手伝いとか、そんな?あ、経理の月次決算のお手伝いっていうのもありましたね」
 返る答えに、蓮はすこし考え込んだ。もしやラブミー部というのは、意外においしい部分があるのか。頻々と社内機密に関われば、立ち回りもわかれば人脈も作りやすい、というローリィ宝田の策略が?
 (いや…たとえそういう部分があったとしても、きっと考えてやってるわけじゃないよな、あの人は…)
 いささかぐったりする気分で考えたところに、盆に茶道具を載せた京子が戻って来る。
 「お湯が沸くまでの間、湯冷ましでもどうぞ」
 出された湯のみと茶うけをありがとうと受け取り、彼は少し迷った。早速話を切り出すべきか、それとも湯が沸き茶が入ってからじっくりということにするべきか。
 しかし彼の悩みをあっさり蹴飛ばしたのは、京子の方だった。


(72)
 「ええと、私が恋愛を忌避する理由、ということでしたね」
 まだ眉尻は下がっているが、一旦肚を括れば迷わないタイプらしい。京子はしっかりした声で言い、ただでさえまっすぐな背筋をさらに正した。 
 「必要なことと言われれば是非もありません。お話しますけど、ご他言は無用に願います」
 「それは、当然だけど」
 逆に蓮の方が戸惑い、うっかり本当にいいのかと尋ねそうになってしまう。
 「では、お話しします」
 京子が宣言し、一旦唇を引き結んだ。

 
 
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パクス・ツルガーナ(61)~(66)

 拍手お礼にて連載しているパラレル話です。
 敏腕なのに担当タレントにモテ過ぎたり自信を失わせたりするのが問題というマネージャー敦賀蓮の手腕によって、ちょっと変わった性格で扱いづらいとされるタレント京子がのし上がっていく(?)物語。最後は…?


パクス・ツルガーナ

(61)

 「バカなこと、って」
 「ですから…バカなことです」
 それは、車の中で聞いたのと同じ口調だった。ために蓮は、容易にその会話を連想する。
 恋愛沙汰をバカバカしいと言い切った、年頃の少女。
 待て、と彼は流れて行く脳内の会話を追い、じきにあることを思い出した。
 京子の話のインパクトに圧倒されたのと微妙に関連しそうな内容だったために幻惑されていたが、彼女は結局どうして恋愛を忌避するようになったのかを語っていない。
 今の様子では、実はそこにこそ新人タレントが自分を恃めない理由があるのではないか。
 いくつかクエスチョンマークを飛ばしながら会話の邪魔をしないよう我慢しているらしいウッズを見遣り、蓮はその背後に別の人物を見るような目をした。
 だから、京子は、と。


(62)
 だから彼女はラブミー部に入れられた、という理由がある。その確信と共に、蓮はある人物の姿を思い浮かべた。
 ともすれば顔よりも服装の印象が先に立つ変人コスプレイヤー、LME代表取締役ローリィ宝田。
 京子の事情を知った上でのことかそうでないのか。いずれにしろ彼は、ラブミー部なるふざけ元へ奇天烈なセクションを設置し、あまつさえ蓮自身までもそこへ放り込んだ。
 そこに意味はあるのか。
 自問への答えは簡単にでた。
 ないわけがない。
 たとえその場の思いつきや面白がりであったとしても、ローリィ宝田はやるからには結果を求める。
 ならば、と蓮は奥歯を噛み、担当タレントに正対した。


(63)
 「確認するけど。君は、いわゆる恋愛沙汰について、バカなことだと言ってるんだね?」
 「はいっその通りです!」
 いい返事が返るが、マネージャーは少しも嬉しいと思わなかった。
 「まあっ…どうしてそんな風に思っちゃってるの!?」
 堪りかねたかついに魔女が口を挟む。
 「年頃の女の子が、そんな枯れたこと言っちゃ駄目よ!!」
 つかみかかるように叫ばれて、タレントはたじたじと身を引いた。
 「いえ、あの」
 「恋はいいわよ~、その人がいるだけで自分の力にも勇気にもなるもの。それに、その人に似合うような自分になりたいって努力だってするでしょ?」
 「え、ええと」
 ウッズが畳み掛ける。なんぴとたりとも異論は許さじとばかりの勢いに、少女は何度も瞬きをした。
 「そ、そうかもしれませんが、私は」
 「…理由は?」
 ちぐはぐな空気をぐいと押しのける低い声。



(64)
 「あ、と、その。理由、ですか?」
 助かったのかもっと困ったことになったのか。判断に迷う顔で、京子は蓮に目を移す。
 「それは、あまり言いたくないのですが…」
 「俺は君のマネージャーだ。君の考えをきちんと知っておく必要がある」
 マネージャーは強く言い切り、まっすぐに視線を返した。
 「だけど、そうだね。ここは人前だ。あとで場所を移してから、じっくり話すということでも」
 「まあああ!」
 異議を申し立てたのは勿論ジェリー・ウッズ。ぴ、と手を挙げて彼女は蓮の目線を惹いた。
 「ここまで聞かせておいて、私だけ仲間外れにしようって言うの!?ひどいわ、蓮ちゃんがそんな人だったなんて!!」
 「え、あ、いや…」
 協力者の抗議に、マネージャーが明らかにうろたえる。怒らせて得のない相手であることは確かなのだ。
 そんな己の立場を弁えているのか、魔女は腰に手を当ててふんと鼻息を吹いた。
 「まあ、でも」


(65)
 「私はあとでもいいわ。京子ちゃんが私にも気を許してくれた時でもね」
 潔い美容師のものいいに、蓮は意外の念を瞳に浮かべた。
 「女神…っ」
 一方、少女の方は両手を握り合わせ瞳を潤ませた感激の態で魔法の指を持つ女を見る。
 「そんな、私…っ、どちらかと言うと敦賀さんより女神の方が」
 「…何だって?」
 低い声がタレントの言葉を途中で塞き止めた。何と言うつもりなのか、彼女は。マネージャーよりも美容師の方が何だって?どちらも今日会ったばかりではあるが、それでは問題があるのではないか。
 「あ、あの」
 さすがにそこに気づいたらしい。あるいは単に洩れ出てしまった蓮の怒気に当てられたのか、京子の声が引きつった。


(66)
 「君は、俺を信頼できない?」
 慨嘆と呼ぶべき口調に、少女は大慌てで両手を振り回した。
 「そんな!滅相もない!!ただ、女神の魔法が」
 「神が使うのは魔法じゃないだろう」
 ずばり指摘され、今度はあわあわかぶりを振る。
 「ああすみません、でもあのええと」
 混乱して行くばかりのタレントに、そのマネージャーはふとため息をついた。
 「落ち着いて」
 「……」
 誰のせいかと恨みがましく見上げられたが、彼は委細気にせず自分の要求を口にした。
 「とにかく、信頼はしてもらう。今日はもう一日つぶすことにして、ゆっくり話をしようか」
 


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パクス・ツルガーナ(55)~(60)

 拍手お礼にて連載しているパラレル話です。
 敏腕なのに担当タレントにモテ過ぎたり自信を失わせたりするのが問題というマネージャー敦賀蓮の手腕によって、ちょっと変わった性格で扱いづらいとされるタレント京子がのし上がっていく(?)物語。最後は…?


パクス・ツルガーナ

(55)
 「…!」
 言い切られてタレントは大きな目をいっぱいに見開く。
 「豊かさの、証明…?」
 解放された頬をさすれば、
 「そう」
 しっかりと頷いたのは彼女のマネージャーだった。
 「いま、ミス・ウッズは君の中に眠っている可能性の一部を見せてくれた。それだけでもずいぶんいろんな色があったと、自分でも思わないかい?」
 穏やかに、真摯に語る声に、京子は戸惑いを浮かべながらもじっと聞き入る。問われて自分の胸に手を当てると、おずおず頷いた。
 「あの…すごく、びっくりしました。メイクの魔法ってすごいって」
 「きょ・う・こ・ちゃん」
 またしても横からウッズが牽制して来る。さっき自分が言ったことをもう忘れたのか、と言いたげな瞳の光に、礼儀正しいおかん少女は続きの言葉を失った。
 蓮が美容師に視線を流して頷く。
 「色というのは、ものが自分が持っている色の光を弾くからその色に見える。つまりあれは全部、君の中にもともとあると言うことだ」


(56)
 「私の中に、もともとある、ですか…」
 信じかねると言いたげに、京子はのろのろと呟いた。その目の前に進み出た小柄な美容師が、挑戦するように瞳を覗き上げる。
 「そうよ。白は無色じゃなくて、全色」
 腰に手を当て、かるく首を傾け、彼女はにっと笑った。
 「だから、究極って蓮ちゃんは言ってるの。自分のマネージャーを信じなさい」
 励ますとも突きつけるともつかない言葉を、タレントは戸惑いがちに受け止め、そして持て余すように視線を泳がせる。こっそりと息をついた唇が、いちど開いてまた閉じた。
 「京子」
 呼びかける男の声には要求が含まれている。京子は床に落とした視線を少しだけ持ち上げ、腹の上で組んだ自分の両手を見つめた。それは、かすかに震えている。
 「…信じ…」

(57)
 「たい、です…いえ、信じています。でも…私は」
 ほろりほろり、と言葉は小さな唇からまろび出ては宙に溶ける。淡雪に似た脆さ儚さをそこに感じ、美容師もマネージャーもしんと黙り込んだ。
 「……」
 京子はなかなかあとを続けようとしない。
 「君、は?」
 蓮が焦れたか促すのへ、彼女は視線も上げずにゆるくかぶりを振った。
 「自信が、ないんです」

(58)
 「そういうことなんだと、思います」
 締めくくるように呟かれた言葉を受け、長身のマネージャーは吟味するように繰り返す。
 「自信…」
 これは生育環境のせいなのだろうか、と彼は頭の奥で考えた。早くに失った母、添わぬ父。生活や家事の中で心の落ち着く場所も自分にかける手間も不足していたらしき彼女には、自己を信じる気持ちが育ちにくかったのかと。
 ならば今、彼女にそれを与えるのは自分の役目であるに違いない。固まりかけた意思が、ふと警鐘を鳴らした。
 少し違うかもしれない。
 彼にできるのはきっかけを与えることであって、彼女は彼女の心を自分で決めねばならないのだ。でなくては、なぜそれを自信などと呼べるだろうか。
 蓮は心に頷き、なまじな俳優よりも整った造作を引き締めた。
 「だけど」

(59)
 「君は、この世界に入ることを自分で選んだんだろう?」
 「は、はい、それは…」
 決め付ける彼に、京子は逆らう様子を見せなかった。ただし口の中でもちょもちょ言う。
 「年齢学歴経験不問となると、あまり選択の幅がなく…」
 マネージャーはこの際はさして重要でないとタレントの述懐を聞き流し、自分の話を続けることにした。
 「それにその口で、一旦身を寄せた世界で努力邁進する決意にいささかの揺るぎもないとも言った」
 「申しました」
 間髪入れず返る返答に、満足げに頷く。
 「潔くて結構。あとは、実行してもらうだけだね」
 「…!?」
 蓮の顔をすると掠めた笑みを見たのか、タレントの顔色が白くなった。
 「あの」
 「この世界、自信や自意識というのもなかなか重要でね」
 「で…ですがっ」
 意外なところで上がった反駁に、彼はおやと眉を顰めた。


(60)
 「…あ」
 京子は言いかけたまま言葉を空に浮かせる。蓮は穏やかに彼女を促した。
 「いいよ、言ってごらん。思ったことは何でも」
 「え…はあ…」
 「今更だろう?車の中じゃ、もっと元気だったじゃないか」
 クスリと笑うとタレントがほんのり赤面する。
 「生意気で申し訳ありません…」
 「そんな風には思わないよ」
 ほんとかな、と疑うように上目遣いにマネージャーを覗き、京子は
 「ええと、あの…そんなものを持っていると、ですね。ともすればバカなことになりがちなのではないだろうかと…」
 またしても妙なところに打球を飛ばした。


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パクス・ツルガーナ(49)~(54)

 拍手お礼にて連載しているパラレル話です。
 敏腕なのに担当タレントにモテ過ぎたり自信を失わせたりするのが問題というマネージャー敦賀蓮の手腕によって、ちょっと変わった性格で扱いづらいとされるタレント京子がのし上がっていく(?)物語。最後は…?


パクス・ツルガーナ

(49)
 「なんなのもう、二人とも…」
 自分の眉間に指を当てた魔女は、小作りな鼻から長いため息を洩らした。
 「あのねキョーコちゃん。そりゃね、私はメイクする相手の魅力を100%かそれ以上に引き出して見せるのが仕事で、その腕に覚えもあるわ。でも、それにしたって、ベースはあくまでも貴方なの。貴方が肌も綺麗なら顔立ち自体も整ってるから、そこを伸ばして見せただけよ、私は」
 「ミューズ…」
 すっかり彼女の中で定着してしまったらしい呼び名を呟き、京子は小柄な美容師をおずおずと見返す。
 「要はね、もっと自信を持ちなさいってこと。芸能人たるもの、自惚れだってある程度は必要なのよ!?」
 「自惚れ、ですか」
 「そう!蓮ちゃんはその辺を育てるのが上手すぎて今まで不遇をかこつことになっちゃったようなものなのに、今回に限ってどうしちゃったのかしら…」
 流された視線に、敏腕にして不遇なるマネージャーは困惑の表情を浮かべた。


(50)
 「どうした、と言われても…俺は充分驚いてますし感心してますよ?」
 「だから…
 「いえ、そうねえ」
 言いさしたジェリー・ウッズがふと言葉を止めて天井へ瞳を投げる。
 「?」
 「京子ちゃん、ちょっともう一回座って?」
 「あ、はいっ」
 「……」
 すっかり魔女に心酔した様子のタレントが自分によりもよほど素直に従う様子を見ながら、蓮はかすかに眉を潜めた。


(51)
 「ほら、今度は名古屋嬢っぽく♪」
 「は、はひ…」
 目まぐるしく様々なパターンのメイクが施され、しまいには巻き髪のウィッグまでつけさせられて目を白黒させていた京子は一通り済んだのだろうかと鏡を覗き込む。
 先ほどの“山の手のお嬢様風”とはまた雰囲気の違う自分を発見し、ほとんど茫然とする。
 「うわあ…」
 「貴方いいわね、京子ちゃん」
 「え」
 上機嫌な魔女が、新しい引き出しを開けている。そこにはずらりと口紅のパレットが詰められていた。どうやらまだ続きがあるようだ。
 ウッズは鼻歌さえこぼしながら、突っ立ったままのマネージャーを振り返った。
 「ねえ蓮ちゃん、この子いい素材よ。何にでもなれるわ」
 「え」
 「貴方たちきっと、今度こそ二人とも伸びる」


(52)
 「本当、ですか」
 「あら。魔女の言葉を疑うと、呪いがかかっちゃうわよ?」
 「ひゃっ、信じます信じますっ」
 慌てて平伏すのは勿論京子、ウッズはぴこんと指を立てて笑う。
 「よろしい。
 「じゃあ今度は、和装のメイク行ってみましょ♪」
 「はい~」
 「あ、ちょっと待って」
 すっかり観念した様子で従うタレントが鏡の前に座ろうとするのを、美容師は軽く押し留めた。
 「先に、お着物見立てましょう。京子ちゃんの好きなお着物を選んで、それに合わせてメイクしてあげる」
 はわ~、と京子が瞳を瞬かせる。
 ウッズが背後を振り返った。
 「じゃあ蓮ちゃん、ちょっとここで待ってて…って、
 「あら?」

(53)
 小さく声を上げたジェリー・ウッズは、視線を宙にさ迷わせて突っ立っているマネージャーにとことこ近寄り、目の前で指を鳴らした。
 「蓮ちゃん?」
 ぱちん、といい音が立ち、蓮が夢から覚めたような顔をする。
 「どうしたの、気分でも悪い?」
 「大丈夫ですか?」
 京子もやって来て、魔女と一緒になって長身のマネージャーの顔を覗き上げた。
 蓮はかるく頭を振る。
 「いえ…彼女のコンセプトが浮かんで」
 「え」
 「まあ。なになに?教えて」
 わくわく尋ねるウッズから、不思議そうな、やや不安そうな顔をしている京子に目を移し、彼はそろりと言葉を口の外に押し出した。
 「アルティメット・ホワイト、なんてどうかな」


(54)
 「究極の白。悪くないキャッチフレーズじゃない。京子ちゃんにはぴったりだわ」
 「色気がない、という意味でしょうか…」
 じとりと呟くタレントに、マネージャーは忙しく目を瞬いた。
 「ええ!?どうしてそんな風に受け取るんだ」
 「そうよ京子ちゃん!」
 「!?」
 ぐり、と顔を捻られ、京子は美容師と間近に向き合う。
 「言ったでしょ、貴方は何にでもなれるって。だから蓮ちゃんの選択は正しいわ。白はどんな色にも染まる、すべての源。それはね、
 「どんな色も持っているっていう、豊かさの証明なの」




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