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ただ乞いて(8)

 「…え?」
 ぽかりと宙に浮いたマヌケな声は、本当に“芸能界一いい男”敦賀蓮のものだったか。
 例によって敦賀邸のリビング、家主の前には真っ赤な顔の少女タレント。
 昼間、ついて行くと言い張る彼を社に応援を頼んでまで退けて仕事に行かせ、一人で医者に行くと言い切った恋人は今、床に正座して小さくなっている。
 「じゃあ、あとで俺の部屋へ来て。結果を知りたいし、今後のことも話し合おう」
 と自宅のカードキーを渡したのは蓮だし、ばっさばっさと猛スピードで仕事を片付けまくって驚く共演者とスタッフを幸せオーラ全開の笑顔で誑かし、ついでに仕事時間の調整に奔走するマネージャーに複雑だけどよかったなと泣かれ、帰ってみればキョーコはちゃんと来て待っていてくれた。
 くれたのだが。
 「お帰りなさい」
 可愛いお出迎えに緩む目許がつい腹部に向かってしまったのに気付くと、少女はいきなり土下座しようとするではないか。
 彼女の奇行に慣れている蓮は掌で額を受け止めてそれを阻止し、ジタバタもがくのをひっ抱えてリビングへ移動する。
 「何の真似かな」
 にっこり問えば、ビビいや竦み上がるキョーコは言いにくそうにぽそりと呟いた。
 「お医者様には、行かなかったんです」
 ぴし、と蓮の額で小さな音がした。
 「…キョーコ?」
 「ごごごごめんなさいい!!でも、あの…来た、んです。それで」
 「来たって、誰が」
 「いえ、誰、じゃなくて…お、遅れてただけみたいで、その、色々ありましたから」
 「だから…」
 自分の前髪をつかみ上げた蓮が、ふと動作を止める。
 遅れてた、ものが、来た。
 それは。



 「………」
 ソファの上でヘバる俳優に、キョーコがおろおろと手を添える。
 「あっあの敦賀さん!?」
 「いや…何でもない。大丈夫。大丈夫だけど…参ったな」
 「あ」
 少女が、しゅんと手を引っ込めた。蓮が視線を上げると、泣きそうな顔で言う。
 「あの、だから、い、いいんですよ、もう」
 「?いいって…何が」
 「だ、だって私、妊娠してなかったんですから。だから…その、プ、プロポーズは取り消して戴いても…」
 「キョ、オ、コ?」
 刻むように呼びかけ、俳優はじんわりと笑った。
 「じゃあ、そうさせてもらおうかな。助かるよ」
 「あ…」
 息を噛むキョーコに手を伸ばし、膝の上に抱え上げる。
 「ひゃ!?つ、るがさんっ」
 泡を食う鼻先をつまんだ。
 「そんな泣きそうな顔して、バカなこと言って」
 「バカです…」
 呟く少女の唇に口付け、蓮はにこりと笑った。
 「プロポーズは一旦返して貰うね。
 「…うん、よかった。これで、ちゃんと手順が踏める」
 「え、あの?」
 ゆるく抱えられた腕の中、キョーコは困惑に眉尻を下げている。蓮はその揺れる瞳をじっと覗き込んだ。
 「まずはここからだよね、ほんとは。
 「…最上キョーコさん」
 「は、はい」
 「君を愛してます、俺と結婚を前提に交際して下さい。…返事は?まあ俺は、もう貰ってるつもりでいるけど」
 いたずらっぽく笑う蓮を、キョーコは愛らしく目許を染めて睨む。
 「それなら、聞かないで下さい。でも、交際ってどうしたら…」
 「ん?そうだね、することは色々あると思うけど…」
 ほんのり赤い困り顔に、俳優は輝かしく甘く笑いかけた。
 「とりあえず、思いっきりギュッてさせて」
 乞い続けた少女は、いま彼の腕の中にいる。




<了>
 



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ただ乞いて(7)

 「…いま」
 自分の声を、蓮は妙に遠く聞いた。キョーコは睨むように、狂おしく彼を見つめている。
 「何、言って…」
 俳優は混乱する頭を片手で抑え、茫然と呟いた。
 「自分が何言ってるのか…」
 「わかってます!!」
 キョーコが声を叩きつける。それは非常階段のコンクリート壁にぶつかって固く跳ね返った。
 「母を見てますから、女一人で子供を生んで育てることが大変だってことも、ましてや私みたいな子供が子供を持つなんて無謀すぎるってことも、私、ちゃんとわかってます!でも…嫌です、絶対堕ろしません。
 「…世界で一番大好きな人の子供なのに!!」
 「!?」
 蓮が固まった。今、この子は何と。
 「もが…みさん?」
 もう一度言って、と言う前に、少女は哀しげに目を伏せる。
 「大丈夫です。私、一人で産んで育ててみせます。ちゃんとできますから…」
 「最上さん」
 「嫌です…お願いです、認知なんてしなくていいです、でも堕ろすのは」
 「堕ろせなんて言ってない!!」
 蓮の怒鳴り声に、キョーコはびくんと身を縮めた。
 「……え?」
 7秒ほども経ってから、恐る恐る視線を上げる。俳優はそれに、蕩けるような微笑を向けた。
 「結婚しよう」
 「敦賀さん!?」
 蓮は吟味するように宙に視線を投げ、もう一度甘やかに微笑みながらまっすぐにキョーコを見つめる。
 「ちょっと違うな、間違えた」
 片手を差し出した、乞うように。
 「最上キョーコさん、俺と結婚してください。君も君のお腹の子も、ずっと俺が守りたい」
 「つ!敦賀さんっ、責任とか同情なら」
 今にも拒絶の言葉を吐こうとする愛しい少女の手を、蓮はがっちりつかまえた。すいと表情が冷える。いや、本当に冷えたのか?
 「責任?同情?」
 鼻の先で言う声に潜む険。彼の怒りを感じ取って怯えを浮かべるキョーコの瞳にひたと視線を合わせ、蓮は言う。
 「冗談じゃない…
 「君を愛してるからに決まってるだろう!!」
 ぱん、と怒鳴られ、気を呑まれたキョーコは大きな目をいっぱいに瞠って立ち竦んだ。
 「…嘘」
 ほろん、とこぼれた言葉は床を転がり、空気に溶け込むように消えて行く。
 「俺が、こんな嘘をつく男だって?」
 「ち、違います!でも、責任感の強い方だから…だって、敦賀さんには好きな人が」
 「いるよ、ここにね」
 と蓮はキョーコの手にそっと口付ける。
 「ずっと、君だけ見て来た。
 「そう思えば、色々サインは出てたのに…ごめんね、今日まで気付かないままにして、結局君から言わせて」
 「そ、んな…でも」
 「何が必要?」
 「え」
 「どうすれば信じてくれる?誓い?約束?それとも何かほかのもの?」
 「敦賀さん」
 「何だってあげるよ。全部あげる、君になら」
 だから、と続けようとする俳優の手の中で、もっと小さな手が拳を握る。震える呼吸を継ぎ、キョーコはぎゅうと目を閉じ、また開いた。
 「本当、ですか」
 不安げに揺れる問いかけに、蓮はしっかりと頷き返した。
 「そう言ってる」
 「本当に私のこと」
 「愛してる。だからもう、俺の手に落ちて」
 つかんだままの手を、蓮は軽く引き寄せる。細い体が抵抗なくとすんと彼の胸に収まるのを、ふんわり抱き締めた。
 キョーコは声もなく彼にしがみつき身を震わせている。その耳に甘いテノールが優しく囁いた。
 「ごめん…怖かったね。でももう大丈夫、二人で協力し合おう。
 「…医者に行くね?」
 「はい…はい…!」
 何度も頷く頭を抱え寄せ、蓮は甘い香りのする髪の中に鼻を埋める。いま、その香りは一夜の記憶の形見ではなく、たしかに自分の手に入ったのだと思った。




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ただ乞いて(6)

 「どうしよう…」
 聞こえて来たのは、この二ヶ月と言うもの聞きたくて仕方のなかった声だった。
 蓮は細心の注意を払って重い鉄扉をそうっと閉め、足音を忍ばせて移動する。
 下階へ折り返していく最下段、踊り場の手前にうずくまる華奢な背中が見えた。間違いなくキョーコだ。膝を抱え、ぶつぶつ呟いている。
 「確かめなきゃ。でも、もしホントだったら…」
 蓮は思わず尋ねていた。
 「何が?」
 びっくう!!とキョーコが直立する。同時にさっと振り向いて、半階分上に立っている蓮を青いような赤いような顔で見上げた。
 「つ、つつ敦賀さん!!おおおお久しぶりです、あの」
 「うん、久しぶり。会いたかったよ…とてもね」
 「あ…も、申し訳ありません、何度もお電話やメールを戴いたのに…」
 「それはいいよ、とりあえず。
 「で、何を悩んでるの?」
 蓮は殊更ゆっくりと歩を運び、階段を降り始める。キョーコはじり、と後ずさりした。
 「え…あの、いえ、何でも…敦賀さんにお聞かせするようなことでは」
 俳優は足を止めずに短い息をついた。少し意地悪な気分になる。
 「相変わらずつれないね、君は。俺達、もう他人じゃないのに」
 「なっ!?」
 少女が真っ赤になって飛び上がった。その拍子に服のポケットから何か細長いものが飛び出し、床でぱさりと軽い音を立てる。
 「!!」
 血相を変えて飛びつくキョーコの手を、階段を降りきった蓮が寸前でつかんだ。
 「は、離してくださ…駄目、見ないで下さい!!!」
 叫ぶのに構わず、俳優は小さな落し物を拾い上げる。一目見て息を詰めた。
 「妊娠…検査薬?」
 「あっ…」
 蓮はぎしぎしと顔を少女に振り向ける。
 「最上さん…」
 名を呼ぶと、キョーコはにわかに色の白い顔を更に白くして勢いよく首を振った。
 「ちがっ、あの、それは!」
 「あれから、生理、来てないの?」
 「!」
 首振り人形が唐突に止まった。
 「来てないんだね」
 「あ…
 「で、も!そ、そうだとしても、敦賀さんに迷惑をかけるようなことは…」
 「そんなこと言ってるんじゃない」
 ぴしりと遮り、蓮は細い手首を引いた。
 「おいで」
 「あ、あの敦賀さん?」
 「こんなものじゃなくて、ちゃんと医者に診てもらおう。付き添うから」
 「!?
 「だっ駄目です敦賀さんがそんな!どこかで洩れたら大変なスキャンダルになっちゃうじゃないですか!!」
 俳優が苛と片眉を跳ねさせた。こんな時にもそんな風に彼を気遣い、そうすることで拒絶するキョーコが腹立たしい。
 「いいから」
 きつい声が出た。
 「はっきり確かめないと、対処できないだろう」
 「…!」
 いきなりキョーコに手を振り払われた。
 「嫌です!!!」
 「最、上さん?」
 「対処、なんてっ…」
 自分の腹を守るように抱え、少女は宙に浮いた男の手からさっと身を引いた。振り絞るように叫ぶ。
 「私…私っ、
 「堕ろしたり、しません!!!」



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ただ乞いて(5)

 眠りの底で、やわらかなぬくもりをずっと抱きしめていた。それはひどく安らかな手触りで、充足とか安逸とか呼ぶのにふさわしく、しかし同時に耐えがたい焦燥を煽り立てるものでもあるような気がした。
 「…?」
 はかり、と目を開き、蓮はまず空っぽの自分の手を見遣った。それからうす明るい寝室の中を見回すが、人も何かの痕跡も発見することはできなかった。
 まさか夢だったのだろうかと混乱しかけた時、枕に残る香りに気付く。すっきりと清潔で、なのに甘いキョーコの髪の香り。蓮はそれを胸一杯に吸い込んで目を閉じた。
 夢から覚めれば、手に入れた、とはもう思えなかった。
 では、これで終わりなのだろうか。すべて?
 「…いいや」
 むくりと身を起こしながら、彼は低く呟いた。そうはさせない。
 行為の間中、最後の瞬間でさえキョーコは、他の誰でもなく彼の名を呼んだではないか。『つるがさん…』滴るような声が今も耳の底に残っている。あれは、彼女の中に彼が刻まれたあかしではなかったか?
 そうであるならば、今後の努力次第でもっと強くして行くこともできるのではないか。そもそも、彼女は嫌いな男とあんなことができる娘ではないのだから。
 どこかで逃げ出すのだろう、と恐れながらぐいぐい事を進める蓮に、キョーコは怯えながら泣きながら、それでも必死について来てくれた。許してくれた。それが嬉しくて、愛しくて…
 彼女の用意したタオルの上に散った破瓜の血を目にして、ついに最後の堰も切れた。
 ひどいことをしたと思う。めちゃくちゃに求めて、貪って、何度も何度も追い詰めて、毟り取って、挙げ句注ぎ込んだ。
 「…!」
 ふと重大な事実に気付き、蓮はひゅっと息を停めた。
 そう言えば…夢中になりすぎて、最後の方は避妊具をつけることも忘れていた…
 狼狽が浮かんだ。
 失策だと思う傍ら、もしそうなるならそれでもいいと思う自分がいる。
 俳優はふるふると頭を振り、男の勝手を退けようとした。
 ともかく、まずキョーコに会わねばならない。会って昨夜の暴走を謝り、君が欲しいのだと今度こそ一切の疑問の余地なく伝え、だから俺に可能性を与えて欲しいと真摯に乞うのだ。
 どうやら証拠のタオルまできっちり回収していったつれない少女の面影を脳裏に描き、蓮はそっと呟いた。
 「絶対、つかまえる」



 しかし。
 その後何日経っても、蓮はキョーコと話すどころか接触すらできずにいた。
 電話にもメールにも返信はなく、有能なマネージャーに協力を仰いでキョーコのスケジュールに合わせて会いに行っても影一つ見ることができない。明確な意思のもとに避けられている、と思うしかなかった。まずいことに、現在は共演や同じ現場になるような仕事がない。
 蓮は自問する。
 あの子は後悔しているのだろうか。自分に身を任せた一夜は、彼女にとって汚点となってしまったのか?
 そう、なのかもしれない。
 思うだに胸の冷える心地がする。けれど。
 そう、だとしても。
 乞い求める気持ちが已むことはない。心はすでに定まっている。
 トップ俳優は多忙を極める生活の中、わずかな時間を拾い上げてはキョーコとの接触を計ったが…
 ままならぬうちに日々ばかりが無情に過ぎて行く。
 そして、二ヶ月ほども経った頃。
 やはり空振ったラブミー部々室を出て、蓮は一人で頭を冷やそうと非常階段に出る扉を開け、そこで、足を止めた。



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ただ乞いて(4)

 4回目も18歳未満閲覧禁止となります。ストーリー上なくても読めますので、18歳未満の方とモロエロは駄目という方は飛ばして下さい。


 バッチ来いなお姉様は下記リンクへどうぞ。
→ただ乞いて(4)


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