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最終兵器あの子(5・完結)

 「ちょっと、ちょっと待って下さい!俺はそんな風には…」
 堪りかねたような抗議の声を途中で止め、蓮はふと目を泳がせる。記憶を順繰りに辿る様子を、社はじりじりしながら見守った。
 「あの時、彼女は…営業部の何とかって言ってましたか、LMEの社員に告白されてて」
 低く呟かれる言葉に驚く。
 (うわ。社内では“敦賀蓮のお気に入り”認定されつつあるキョーコちゃんのところに、そんな勇者が現れてたのか。むしろ気の毒だな。って言うか、“敦賀蓮”が立ち聞きとかやめて欲しい…)
 「断りこそしたものの、あの子が一人になってから悩ましげに溜め息なんかつくから。たまらなくなって、出て行って」
 「うん…?」
 ぽちぽち紡がれる情景を想像しながら聞いていた社は、自分はこの辺りで行き合わせたんだなとひっそり頷いた。
 「最上さんの肩を、強めにつかんでしまって、視線を合わせて、『もう我慢できない』って」
 社の額に微細なヒビが入った。担当俳優を見る目に不安が過る。
 「愛してるって告白して…『今すぐ』………」
 「蓮?」
 止まってしまった蓮に、マネージャーは不安を増大させながら先を促した。しかし“抱かれたい男№1”は声もなく石化している。
 徐々に、徐々にその硬化が解け始めた。
 ぎちぎちぎち。軋む首が、ゆうっくりマネージャーへと向け変えられて行く。
 (ごめん、怖いんだけど…)
 「…どう、しましょう。社さん…」
 それは社でさえ初めて聞く、途方に暮れまくった声と言葉。余人ならず、“敦賀蓮”の。
 「言った、かも…と言うか、飛ばした、かもしれません……」
 「は?」
 「だから、さっきの台詞です。
 「俺は、『今すぐこの場で君を抱き締めたいんだ』って言うつもりだったんですが、そう言えば、2文字ほど飛ばしたような気がします」
 「……」
 今度は社が石化した。ただしこちらは解除が早い。
 「れ…ん……」
 眼鏡のマネージャーは首をグラグラ左右に揺らし、へたへたとソファの背もたれに沈み込んだ。
 「お~まえええ~…何やってんだよ一体。よりによって、なんでそんな致命的な2文字を抜かしちゃうんだ!?仕事なら絶対やらないミスだろ…」
 「いや、なんでと言われても」
 蓮は困惑している。それが何やら年相応に見えて、いつもの落ち着き払った顔よりも可愛げはあるかなと社は思ってしまった。はー、と溜め息が出る。
 「抱き締めたいと抱きたいじゃ大違いだろ、しかもあんな場所じゃ」
 「すいません…」
 「俺に謝ってどうするんだよ、まったく」
 しかし、言葉の割に、社の顔はやわらかく綻んでいた。
 「社さん?」
 蓮の不審顔に、彼はぱたくた手で顔を扇いで嘆息する。
 「でもちょっと安心した。蓮がコワレたりキレたり血迷ったりしたわけじゃなくて。いやある意味その全部かもしれないけど、まあオチがそんなところで。一時はどうなることかと思った…」
 「はあ、すいません」
 「だから、謝る相手が違うだろ。お前に強烈なセクハラされても、ちゃんと食べてるのかって心配してくれる可愛い後輩女優ちゃんとかさ?」
 「最上さんがそんなことを?」
 「決定的に嫌ってたら、そんなこと言わないよなあ?」
 「…っ、でも、単に食へのこだわりかもしれないじゃないですか」
 「そう思いたいのか?」
 少し意地悪くマネージャーが問うと、俳優はぐっと息を飲んでから身を乗り出すようにした。
 「社さん、あの」
 「今すぐは無理だぞ?」
 「わかってます、でも」
 敏腕マネージャーは眼鏡の奥から担当俳優ににたりと笑いかけ、スケジュール帳を取り出してかざす。
 「そう言えば、悪い、言い忘れてた。ここが終わった後、取材が入ってたよな、雑誌の」
 「はい…?」
 「あれ、なぜか延期になったから」
 「え」
 「その次の仕事は事務所の近くだし、ここの終わり時間次第じゃ移動を含めて3時間以上浮くんじゃないかな?」
 「社さん…」
 「ちなみに今日、ラブミー部は夕方まで事務の手伝いに駆り出されてるらしい」
 「現場の様子を見て来ます。復旧してたらそのまま入りますから」
 長身の俳優がすっくと立ち上がった。戻って来る前に時間調整してくれたに違いないマネージャーに一礼して控室を出て行く。
 ふす、と社の鼻から空気が洩れた。
 「やれやれ」
 一人になったマネージャーは苦笑をこぼし、ソファの背にだれ~んともたれかかった。天井を見上げて呟く。
 「ほんと、一時はどうなることかと思ったよ…
 「それにしても、すごいなキョーコちゃん」
 敦賀蓮を一瞬でへこませ、一瞬で張り切らせる活殺自在、唯一絶対の人物。
 すべてを決める        
 「最終兵器あの子、なんてね」



―完― web拍手 by FC2

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最終兵器あの子(4)

 約束の時間ギリギリに、社さんがスタジオに戻って来たのに気付いた。ちょうど出番が終わったところだったので、俺はセットから降りてマネージャーに近付く。
 「お疲れ様です。マネージャー会議はどうでした?」
 「…」
 「社さん?」
 なぜだろう、社さんが返事をしない。じっとりと俺を見つめたまま黙り込んでいる。
 「会議で何かあったんですか」
 何となく不安を覚えて聞いてみると、ほんの少し声がかすれたようで、マネージャーは保冷バッグからミネラルウォーターを出して渡してくれた。やっぱり黙ったまま。
 「ありがとうございます」
 首を傾げる気持ちだったが、間を取るために礼を言って水に口をつける。
 「…蓮」
 社さんがやっと発したのは、いつもの朗らかな口調とはまるで違う低い声。
 「は、い」
 やっぱり、会議で何か問題が持ち上がったのか。一体どんな?緊張を覚える俺の心を読んだように、眼鏡のマネージャーはふると小さくかぶりを振った。
 「会議では何もない。和やかって言ってもいいくらいだった」
 「はあ」
 「だけどな、蓮。ちょっと、あとで話が…」
 社さんが言いかけた時、背後でがしゃんという大きな音と悲鳴が上がった。反射的に振り返ると、倒れたライトスタンドがセットの窓ガラスを叩き割って派手に破片を飛び散らせている。
 「ちゃんと固定しとけっつったろ!!」
 「誰もいなかったからよかったけど…」
 そんな声に混じって、ディレクターの溜め息が聞こえる。
 「大道具、原因究明と同時に修復。特急な。
 「ほかはしばらく休憩、片付いたら知らせる」
 「…」
 ためらい顔の社さんに、俺は努めて平静に言った。
 「話なら、構いませんよ。いま伺います。控室に行きましょうか」



 「あのな、蓮」
 ちょっとソコに座んなさい、と言われ、俺はおとなしくソファに腰を下ろす。するとマネージャーは、本当は正座させたいところだとか何とか呟きながら向かい側に座った。
 「話と言うのは、他でもない。キョーコちゃんのことだ」
 「え」
 俺は複雑な気分になった。最近、社さんはあの子に関する話題を俺よりも慎重に避けていたのに、どうして急に?
 「お前さあ、お前…気持ちは、わからないでもないよ。長いもんな。ずっと追いかけて、全然わかってもらえなくて。だけど、ほんとに好きなんだなあって見ててわかるから、俺はお前を応援して来たんだ」
 「あの…そんな話なら」
 「黙って聞け。
 「だけどな、蓮。ものごとには順序があるって、お前ならちゃんと知ってるだろう?」
 ちくちく言われて、落ち着かなくなった。堪りかねて先を促す。
 「何なんですか、一体。もったいぶらないではっきり言って下さいよ」
 社さんは、眼鏡の奥から怜悧な瞳を俺に向けた。
 「お前、あの時…キョーコちゃんにとんでもないこと言ったんだって?」
 「え」
 「あんな、いつ誰が通るかわからない事務所の廊下なんかで、未成年に…」
 「え、あの」
 俺は戸惑ってしまった。それは確かに、愛の告白に相応しい場所ではなかったかもしれない。だけど、こんな風に責められるほどだろうか…?
 それとも相手が最上さんだからか?
 混乱しそうになるところへ、次の一撃。社さんはほとほと呆れたと言いたげに眉間に皺を寄せて言った。
 「今すぐこの場で抱きたいとか!!!」
 「………は?」
 俺の上げた声は、最高に間が抜けていたと思う。



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最終兵器あの子(3)

 「え、あの、どういうこと」
 メガネのマネージャーの、蓮とはまた違う印象の整った顔立ちを、キョーコは憤然と見上げる。目上の、しかも何かと構ってくれる人物に対して言いにくいことではあるが、やはり言うべき時には言わねばならないと思った。
 「失礼ですけど、社さん時々敦賀さんに甘すぎる時がありませんか」
 「え、あ…」
 心当たりのある顔で社が視線を逸らす。
 「あの場にいらっしゃったなら、そんなことを仰るべきではないのでは」
 「は、はい?」
 「それは、敦賀さんはお忙しいですから。ストレスも溜まれば、どこかで憂さを晴らしたいとお考えになるのも人間として当然だとは思いますよ?ですが、それを未成年の後輩にぶつける…というのは、いかがなものでしょう」
 「あの、キョーコちゃん?未成年とか、あんまり関係ない…こともないのかな、でも」
 「だって、わ、私はそういうの、慣れてないんですっ。いつまでもそんなこと言ってちゃいけないのかもしれませんけど、だからってセクハラに慣らそうとされても困ります!」
 「れん~…」
 社がだくだく泣きながら呟いた。お前、かわいそすぎる。セクハラ扱いだよ。
 へしょへしょ言った言葉をキョーコはしっかり聞き取り、うろつかせていた視線をきっと固定した。
 「社さんだって、あの場にいらっしゃったなら、あれはないとお思いになりませんでした!?あんな、あんなことろでっ」
 「あんなところって…」
 社が首を傾げる。
 「事務所の廊下、だったよね。そりゃまあ公の場と言えばそうだけど、誰もいなかったし…」
 「社さんいらっしゃったんじゃないですか」
 「あーうん、まあ。でも…?」
 「デモもストもありません!あんなところであんなこと言うなんて、たちが悪すぎますっ…!」
 キョーコが親父じみたことを言って拳を握ると、メガネのマネージャーは小さな声を上げた。
 「あ」
 「え?」
 「えーとね…俺、会話は、聞いてないんだ。ちょっと離れてたし、聞かないようにしてたし」
 小さな拳がぱたりと落ちる。
 「そう、でしたか…でしたらすいません、失礼なことを」
 「いや、それはいいから。いいんだけど…あー…
 「聞いていいかな。蓮の奴、君に何て言ったの?」
 かっ。キョーコは真っ赤になった。
 「そ、それは。その…」
 「うん」
 「……って…」
 「え?ごめん、聞き取れなかった。もう一回…」
 「…っ、さすが敦賀さんのマネージャなさってるだけありますね…っ!社さんだけは、私をイヂメたりなさらないって信じてたのに…」
 恨みがましく見上げると、社は慌てて両手を顔の前で振り回す。
 「い、イヂメたりしないよ!ほんとに聞き取れなかったんだって!」
 「はあ…」
 きょろり、とどこか空ろな眼差しを流し、キョーコは小さな息をついた。
 それから眉尻を下げて、前歯のあたりで言う。
 「あの…き、“君を今すぐこの場で抱きたい”って………」
 マネージャー氏の顔色が、目まぐるしく変わる。
 「るえ~んん~………」
 ゆうら~りとこぼれた呟きは、キョーコにすら同情させるような悲愴感にあふれていた。



 
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最終兵器あの子(2)

 「それじゃ蓮、あとでな」
 蓮をドラマ撮影の現場に残し、社はマネージャー会議に出席するために一人で事務所に向かった。
 担当俳優は今期も過ぎるほど優秀な稼ぎを上げ、もともと身の処し方も心得ている。会議は特に問題もなく終わった。
 昼食を取ってから撮影所に戻るかと食堂へ行く途中、彼は視界の端を鮮やかな色合いがかすめるのを感じた。
 声を上げてしまったのは、ほぼ条件反射かもしれない。
 「キョーコちゃん!」
 呼び止めても、いつも隣にいるはずの青年はもう喜ばないだろうのに。
 一方、呼び止められた方は、びくりと細い背中を震わせて足を止める。恐る恐る、あるいは不承不承肩から振り返った。
 「社さん…」
 傍らに長身の影がないことを見確かめると、彼女は漸く眼鏡のマネージャーにきちんと正対する。ぺこりと、相変わらず美しくお辞儀をした。
 「ご無沙汰してます。今日は、つ…敦賀さんとは、別行動なんですか?」
 「あ、うん…」
 社はしかし、こうなると何を話せばいいものかわからなくない。曖昧に頷き、落ち着きなく眼鏡のフレームを押し上げた。
 奇妙にそらぞらしい沈黙が落ちる。
 「あ、あの」
 キョーコが思い切ったように伏せがちにしていた瞳を上げた。
 「敦賀さん…は、最近、ちゃんと食事を取られてます、か…?」
 そろそろと、泣きそうな顔でそんなことを聞く。どうして、と社は思った。そんな顔で、そんなことを聞くなら。
 「そう、思う?」
 哀しい気分で尋ね返していた。絶句するキョーコのつむじを見下ろし、小さく息を入れる。時計を確かめると、彼はやわらかい口調で尋ねた。
 「少しだけ、話をさせてくれないかな」



 「ごめんね」
 声に滲む苦汁ばかりはどうしようもなく、社はぽつりと言った。そう言えば、このラブミー部部室に彼だけで入れてもらうのは初めてだなどと思いながら。
 「俺あの時、見てたんだ。蓮を探しに来て、たまたま…あんな場面に出くわして、場を外そうと思う間もなく…」
 君は蓮の言葉を聞き終えもせずに逃げ出した。省略した言葉が届いたようで、キョーコは肩を震わせる。
 それを見たら、彼は気が挫けそうになった。何がしたいのか自分でもよくわからない。ただ、今のままではいけないと思うのだ。
 「無理もないとは、思うよ」
 ぽつんと零れた声は、よほど溜め息に似ていた。
 「君が受けた傷を思えば、恋愛に対して否定的になったり臆病になったりするのは、当然だって。でもね…蓮は、真剣なんだ。本当に君のこと、大切に思ってる。それを受け入れられないと思うのは仕方ないし君の権利でもあるけど…せめて、受け入れられない理由をちゃんと話してやってくれないかな」
 「社さん…」
 「あいつは表面上自分を保ってるけど、ずっとキョーコちゃんのことばっかり考えてるのが俺にはわかる。君に振られたから…君に、ちゃんと振られてないから」
 「…!」
 向かいに座る華奢な少女の肩が動いた。まずい、泣き出すのではないかと社は狼狽する。しかしキョーコは、決然とおもてを上げて彼を見返した。
 「社さんまで、そんなこと…っ」
 大きな、表情豊かな瞳には怒りの色が浮かんでいた。



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最終兵器あの子(1)

 慎重に、厳重に。
 ずっと、鍵をかけて来たのに。
 暴力的なくらいにあの子は俺の心を押し開けて行く。
 なのにあの子自身は無自覚で、俺以外の男にもあの可愛い笑顔を向けるから。
 とうとう耐えられなくなって、告白した。
 途端。



 逃げられた。
 「嫌!!」
 とひとこと叫んで。


 以来、ずっと避けられている。





 「はあ…」
 と溜め息をつきかけて、俺は急いで口を閉じた。ここ最近、これを繰り返している。その度に、傍にいる社さんが何か言いたいように口を開いて…
 そのまま、気まずそうに閉じてしまう。そして、そうしたことにもっと気まずそうに視線を外し、敏腕マネージャーはごめんよ蓮、と吐息で呟くのだ。
 あんな風にお前を煽って、追い立てるような真似をして。俺は、マネージャーなのに。
 違いますよ社さん、これは俺が自分で求めて、そうして得た結果なんです。それは希望とは違ってたみたいですけど、でもそれで社さんを恨むんじゃ八つ当たりというものです。
 何度かそんな会話をした。
 マネージャーはその内、言葉では謝らなくなった。その代わりに、眼で。怜悧な容貌に痛々しいくらいの罪悪感を湛えて俺を見るから、余計にいたたまれなくなって俺はできるだけ溜め息をつかないようにしようと思った。
 ややもすると、うっかり出てしまいそうになるのではあるけれど。
 「次は富士でしたっけ?」
 俺は口を開いた言い訳をするように尋ねてみる。社さんは手帳を確認するまでもなく頷き、
 「急ごう、少し押してる」
 とかすかに無理の滲む声で言った。
 俺ははいと答え、二人で駐車場へ向かう。
 たぶん、こんな風に日常は続いて。少しずつ何かが収縮し、その上に時間が降り積もり。
 いつかは、この痛みも         …


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