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もうだめなんて気のせいだって!(20・完結)

 「ちょっとやだ、離しなさいよっ…」
 「お嬢様!?」
 暴れる絵梨花の声に、伸びていた坂崎がびくりと覚醒した。主を抱えて闇に紛れて行こうとする人影に気付き、明らかな動揺を見せる。
 「お、お前は…“魔犬”!?」
 指差された男が小さな溜め息をつく。まだ若い。白髪赤瞳、顔かたちの整っていることは薄灯にも隠れないが、蓮とは違い線の細い端麗さには一種寒々しい妖しさが湛えられている。
 「どうしてここに…お嬢様をどうする気だ」
 「最初に来た、殺し屋さん…!?」
 坂崎は完全無視。声を上げるキョーコに、魔犬と呼ばれた男はゆるりと視線を向けるが、それはさりげなく彼女の前に出た蓮の体に阻まれてぼたりと床に落ちた。男の職業を聞いたお嬢様の方は青い顔で硬直している。
 「二度と彼女に近付くなと言ったはずだけど」
 蓮は低く、呟くように言って殺し屋を睨みすえた。それに気圧されたようにじりと足を引きながら、魔犬は笑みに似たものを端麗な顔に貼り付ける。
 「承知した覚えはないな」
 しかしそれ以上の問答をしようとはせず、
 「だがまあ、今日のところは目的も依頼主も違う。ともかく用を済ませようか…アンタ」
 今度は奏江に目を向けた。
 「な、何」
 「俺の今の雇い主から、伝言を預かって来た」
 「伝言?誰から…何て」
 きつい視線を返す奏江に、男は面白がるように唇を歪める。
 「娘の失態について遺憾の意を表し、琴南氏の会長就任を後援すると共にガラの会へ相応の寄付をさせて戴く…とのことだ。
 「なお、お前たちがこれに応じない時は俺は本来の業務に就くことになる」
 名指しこそされないが、伝言の主が誰であるかは瞭然としている。逃げ出す隙を必死に窺っていた絵梨花がぴたと動きを止めた。
 これに反し、奏江の方は般若の形相となる。
 「そんなことを」
 何か言いかける蓮よりも先に、彼女は素晴らしい声量で反駁を開始した。
 「またお金!?恵んでやるからこれ以上騒ぐな、嫌なら死ねって言うのね!まったく、子が子なら親はもっとたちが悪いわね、もー!!」
 美しきダイエッターは柳眉を逆上げ、剣呑なメッセンジャーに臆することなくびしりと指を突きつける。
 「戻ってアンタの雇い主に伝えなさい。狙われた当人がやたらお人好しだったり馬鹿みたいに忠実な猛犬手懐けてたりするお蔭で深刻な被害はなかった事だし、業腹だけどここは収めといてあげるわよ!ただし、今後はそちら様には一切関わりたくないわ。アンタも含めてね。寄付も要らないから、ガラの会からは親子ともどもきっぱり手を引いて頂戴!!…ってね!」
 「なかなかの肺活量だな」
 魔犬が妙な感心をして唇を歪める。
 「返伝は依頼内容になかったが…まあサービスで伝えておこう。では、あんたにはもう会うこともないわけだ」
 声と同時に、ふわりと風が立った。
 「口封じとか、企んでたりは?私たち、あんたの顔を見たわ」
 問う奏江に、今度こそ笑みとわかる顔で殺し屋は答える。
 「その必要はない。俺を追及すれば、そちらにもまずいことになる…だろう?何でも屋」
 「…!」
 ぴりと男同士の間の空気が緊迫する。
 それを胡散臭そうに、キョーコを心配そうに見ながらダイエッターは黙り込んだ。
 「さて…今度はその男のいないところでな、京子」
 絵梨花を連れてすうと姿を消す男の残した言葉が宙で揺れ…
 「今度はないよ」
 低い声に握りつぶされた。



 「あ、社さん」
 外へ出ると馬車が止まっていて、その御者台には眼鏡の青年が座っていた。
 「やあキョーコちゃん、お疲れ様。琴南さんも大変だったね。でも、二人とも無事でよかった」
 「ありがとうございます。迎えに来て下さったんですか?」
 「蓮に頼まれてね。さ、乗って乗って」
 娘二人が礼を言って車室に乗り込むと、蓮は御者台に近寄って小さく頭を下げた。
 社が穏やかに笑う。
 「手下三人は適当にお仕置きして帰すよう手配したから。魔犬には逃げられちゃったけど…」
 「あれは放っといて下さい、俺が自分で排除します。まあ、殺せないのが面倒ではありますが」
 「うん?」
 「キョーコと約束したんです。もう殺しはしないって」
 ちらりと笑うと、社も同じような微笑を浮かべた。
 「そっか。うん、その方がいいよな。キョーコちゃんはいい娘だ、幸せにしてやれよ」
 「ええ…」
 彼の抜ける穴を埋める手間もあるだろうに、薬屋兼情報屋兼周旋屋は何も言わない。穏やかな笑顔に感謝しつつ、蓮は車室の扉に向かった。
 「じゃ、お願いします」
 OKサインが返るのを見てから乗り込むと、彼の妻とその親友がイチャコラ寄り添っている。
 例のバスケットを開けるキョーコに、奏江は珍しくしみじみ言った。
 「昨夜捕まった時にちょっと抵抗したら眠らされちゃって、そのままだったからお腹ペコペコなのよ。ありがたいわ」
 「よかった、たくさん食べてね!ちゃんとカロリー計算もしてあるから、全部平らげてもモー子さんの美貌は損なわれないわよ!」
 軽快に走り出す馬車は、行きのものよりもよほどスプリングが効いている。さほど気をつける必要もなく水筒のお茶をコップに注ぎ、キョーコは奏江と蓮ににっこり差し出す。
 それへガラの会幹部は澄んだ黒瞳を向け、早速おかずをつつきながら言い出した。
 「ねえキョーコ…アンタ、ガラの会の出版部からレシピ本出さない?」
 「えっ!?」
 「薬と違って、自分の手間と努力も必要になるんだから、ダイエット食っていうのはアリだと思うのよね…ああ、ガラの会の食堂で時々教室開いてもらうのもよさそうね」
 「モ、モー子さんの役に立てるなら何だってするわっ!!嬉しい、初めて頼ってくれるのね…!
 「…あ、でも、また癒着だ何だって言われたら…」
 「何もしなくても言われるんだもの。もういっそちゃんと関わってもらって、その上で私たちがお互いの分を守るってところを見せてく方がいいわよ。
 「まあ正直なところ、高園寺に手を引かれてテコ入れが必要になったっていうのが大きいんだけどね…どうかしら。力を、貸してくれる?」
 「モー子さんっ…勿論よ、喜んで!!」
 キョーコは大感激の態で親友の手を取る。
 大きな瞳をうるうる瞠り、頬を染めた笑顔は蓮にとって甚大な破壊力を具えている。脱やもめ志望者は娘たちの向かい側の席でひとり願った。
 速く。もっと速くこの馬車は走れないのか。矢よりも速く走り、奏江を自宅に、彼と可愛い妻とをあの小さな家でも彼の家でも送り届けて欲しい。
 そうしたら。どうにかして脇腹の傷など忘れさせ…いや、いっそ利用するのも手か…彼女を我が手に取り戻すのだ。
 それは彼にとって、何よりも優先すべき急務に思えた。
 だってキョーコ、と彼は思う。もう駄目なんだ。ともかく一件が片付いた今、これ以上我慢できる気がしない。
 息を呑む蓮の唇から、小さな呟きが零れ落ちる。
 「これは気のせいなんかじゃ、ないからね」
 「はい!?」
 キョーコは急に何を言い出したのか疑うのだろう、目を丸くし。その隣の娘は逆に目を眇め、実に胡散臭そうに彼を見た。





-了-



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もうだめなんて気のせいだって!(19)

 「ちょっと、貴方ねえ!!」
 に始まる奏江の怒声に、あきらかに坂崎の集中が乱された。
 ちらちらと主を気にし出してしまえば、いかに武器を持っていようとて蓮にとってはバカバカしいほどの弱敵でしかない。
 「やれやれ…」
 嘆息しつつ鋭さを失った剣先を躱し、体を伸ばしきった坂崎の重心へ足を飛ばす。
 両手を泳がせるのへ剣呑な視線を向けるが、
 「蓮さんっ…」
 背後の声を聞くと我に返ったように殺気を消した。
 かわりに腰を沈め、右の拳を強く握り込む。



 「なっ…によ」
 意識を取り戻した途端、奏江はまっすぐに拉致主犯へと詰め寄った。詰め寄られた方は一歩あとじさりながら精一杯の虚勢を張って見せる。
 「私は、ガラの会のためを思って」
 すぱあん!!
 なめらかな頬が音高く鳴った。
 「だから何!?大義名分があれば何したっていいわけじゃないでしょ!!」
 奏江は絵梨花の頬同様に赤くなる掌を押さえて怒鳴る。
 「言いたいことがあるなら幹部会に申し立てて審議を求めなさいよ。それをこそこそお金で人を動かそうとして…恥を知りなさい!
 「大体ね、無関係のキョーコを危ない目に遭わせて、それが失敗すると私を連れて来るから話があるのかと思えば肝心の貴方は顔を出さないし、お付きはバカばっかりで気が利かないし。貴方のやることは間が抜けてるって言うのよ」
 どきっぱり言いたいことを言い切る奏江に、お嬢様は言い返す言葉も見つからずにきりきりと眉を上げた。
 「あっ…貴方なんかにそんなこと」
 どざあ!
 やっと口を開いたところへ、お付きの最後の一人が吹っ飛ばされて来る。
 蓮のパンチをまともに貰ってダウンした挙句数mも土床を滑り、坂崎は絵梨花の足元できゅうと伸びた。
 「なっ…」
 お嬢様は真っ青になって部下と、うす闇の向こうで肩をすくめている蓮を見比べる。奏江がいかにも呆れたような声を投げた。
 「バカね、貴方のお付きなんかにどうこうできる相手じゃないわよ。得体が知れないったら…」
 「モ、モー子さん」
 「ひどい言われようだね」
 長身の何でも屋が苦笑しつつ歩み寄って来る。
 「蓮さん、傷は…」
 「大丈夫だよ。でも、あとで手当てし直してくれるかな?包帯が緩んだみたいなんだ」
 気遣うキョーコをちゃっかり抱き寄せるのはもう無視することにしたらしい。
 「で」
 奏江は愕然と立ち尽くす絵梨花を厳しく見据えた。
 「この始末を、どうつける気?」
 「う…」
 「ねえ」
 ガラの会次期会長はふと口調を変え、びくと身を縮めるお嬢様に手を伸ばす。
 「これだけ言っても、貴方ったら言うべき一言も思いつかないのかしらねえ…?」
 ぎりぎりぎり。
 「いひゃいいひゃいいひゃい!」
 両の頬を景気よくつねり上げられ、絵梨花は涙目で悲鳴を上げる。
 「そう、痛いの。大変ね」
 くすくす笑う奏江が大変怖い。
 「でもねえ…
 「まああっちの巨神兵はどうでもいいとして、キョーコはもっと大変なことになるところだったのよ?」
 「ら、らからそれはさからきがかっれにかんひがいしれ」
 「そうなの?でも配下の不始末は主の責任よね」
 あくまできっぱり言い切られ、お嬢様はとうとう落ちた。
 「ご、ごえんらさい…」
 言った途端、ぱ、と奏江に手を離されてよろめく。
 「少しは懲りた?」
 「懲りたわよっ。何なのもう、ひとつもうまく行きゃしない。もうそんな人に関わるのはごめんだわ!」
 「懲りた口調じゃないわねえ…」
 にこ~り笑うガラの会幹部が、白い繊手を再び持ち上げた。
 「ひ…」
 絵梨花は我知らずあとじさる。そのこめかみに、人差し指の関節を立てたゲンコツが…
 「まあ、その辺りにしておいて貰おう」
 触れる直前に響いた声。
 『!?』
 「やっと出て来たか…」
 驚く女たちの中で、蓮だけが平静に呟く。
 「え…何、誰…
 「きゃあ!?」」
 後ろへ肩を引かれ、絵梨花は悲鳴と共に体勢を崩した。





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もうだめなんて気のせいだって!(18)

 「なんでそうなるかな…」
 気だるい溜め息をつきつき、蓮はするりと身構えた。
 「まあ、キョーコに危害を加えようとした奴らを合法的に片付けられるのはありがたいけど」
 「ごっ合法じゃありませんよ!?」
 奏江を抱えてじりじり後退しながらも、キョーコはツッコミを忘れない。
 「え、だけど」
 何でも屋は最初に飛んで来た北条の手を軽く横へステップして避け、そのみぞおちへ拳を叩き込んだ。ショートレンジからの何気ない一撃ではあるが、相手が自ら突っ込んで来た勢いが加えられて見事なカウンターパンチとなる。ルビーは胃液を吐き零しながら吹っ飛んだ。
 「向こうから襲ってくるんだから、正当防衛だろう?」
 にっこり振り返る顔に浮かぶ、せいせいとした清々しさ。
 「あぶな」
  背後を指すキョーコを見たまま僅かに背を反らし、藤堂の放ったハイキックを左手一本で受け止める。そこを軸に体を入れ替えると、蹴り飛ばされていたのはサファイアの方だった。
 「ちょっと何やってるのよ北条・藤堂!しっかりしなさい」
 お嬢様の叱咤が飛ぶ。
 しかし続いたのは、また別の言葉だった。
 「だけどその顔その姿その運動能力、まさにブリリアントというものね…ダイヤを授けるに相応しい男だわ。坂崎・北条・藤堂、何としてもその男を捕らえるのよ!そして私に侍ると誓わせなさい!!」
 『はいお嬢様!』
 声を揃えたジュエル隊はさっと体勢を整え、三方から長身の青年を取り囲む。
 「とか言ってるけど」
 蓮は背に庇った娘に苦笑を投げ、軽く肩を竦めて見せた。
 「め、ですっ…」
 詰まった声が返る。
 「ん?」
 「駄目、ですっ…蓮さんは、あげられません」
 「了解」
 いかにも嬉しそうに頷いた何でも屋は同時に伸ばされて来た6本の手を身を沈めて躱した。床に片手をつき、長い脚を飛ばす。横薙ぎに足元を払われた3人がよろめきぶつかり合った。
 左端にいた藤堂の背後に、すいと黒い影が映る。と思えば彼は、延髄を打たれて昏倒した。
 次いで影は右手に移動し、先ほどの記憶から反射的に腹を庇う北条の下顎を掌底で撫でる。すると脳を揺らされた男は目をかっ開いたまま床にへたり込んだ。
 「くっ…!」
 坂崎がベルトの後ろに手をやり、そこに指してあった短剣を抜き出す。
 「ちょっと坂崎!傷なんてつけたら…」
 「治らないものはつけません!」
 叫ぶ主に言い返し、エメラルドは斜から蓮に対峙した。



 (ど、どうしよう)
 蓮は多対一でさえ圧倒的に強い。しかし、彼が常に自分たちの前を完全に開く位置には移らずに闘っていることにキョーコは気付いていた。
 (私、私たち、蓮さんの邪魔になってる)
 とうとう刃物が出てしまった、せめてどこかに身を隠すなりして彼を自由に動かせてやりたい。しかし彼女の膂力では、奏江を抱えて迅速に移動することなど到底覚束なかった。
 「もっ、モー子さん、起きて」
 あわあわと顔、は無理だったので肩を叩いて親友を起こそうとする。何か薬を与えてみようかと思ったが、そもそも今何を飲まされているのかも知らずに無闇に別の薬を飲ませるのは危険だ。
 「ねえお願い」
 奏江が起きてくれれば、二人で隙を見て物陰に走り込むこともできる。
 そう思って視線を周囲に配れば、敵の刃が辛くも蓮の腋をかすめ損ねるところだった。
 「モー子、さんっ…!!」
 「う、ん…?」
 必死に呼ばわると、小さな呻き声が上がった。
 「モー子さん!」
 ここぞとばかり揺すぶる。すると親友の美しい唇が小さく動いた。
 「もー、う…るさい、わねえ…さっきから…」
 「お、起きて起きて起きてお願い、私たち隠れなきゃ!」
 「はあ…?」
 まぶたをむにむに動かし、奏江はのろのろと目を開く。
 「キョーコ…?何なの、もー…」
 ぶつぶつ言いながら髪をかき上げ身を起こそうとする、その瞳が、親友の肩の向こうに絵梨花の姿を捉えた。
 「!!」
 



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もうだめなんて気のせいだって!(17)

 「誰がそんなもの用意しろなんて言ったのよ!?」
 「は…え!?」
 きんと叫ぶ絵梨花を坂崎は茫然と見返し、声にありありと狼狽を浮かせる。よほど予想外の言葉だったらしい。しかも、お嬢様はなおも叫ぶではないか。
 「そんなもの使ったら死んじゃうじゃないの!あなた私を殺人者にしたいわけ!?」
 「あのいえ、けしてそのような…」
 おろおろと視線をさまよわせ、お嬢様のお付は手にした短剣を背中に隠した。
 「ただその、痩身の魔女殿を排除する、と仰いましたので、てっきり…」
 「馬鹿ね、邪魔者を排除するのにいちいち殺してたら、そのうち使う人間が誰もいなくなって自分が困るってものでしょう」
 お嬢様はむしろたちの悪い発言をさらりとかます。
 「とりあえず引越しでもしてもらって、数年も遊んで暮らせるくらいの支度をして差し上げてって言ったつもりだったのに…使えないわねえ、それでも私の側近なの!?」
 「も、申し訳ありません」
 「ちょっと待ってください、でも私は、お金とかで友情を売ったりしませんよ!?そんなことより、モー子さんに使った薬の種類を」
 「まったくね」
 「え!?」
 ふわりと降って来た声に、絵梨花はぎょっと立ち竦みキョーコは抗議を途中で止めた。
 同時に調薬師の視界がふっと黒くなる。上方の暗がりから音もなく舞い降りた蓮の背中だと気付く前に、もう安心を覚えたのが彼女には不思議だった。
 「そういう、わかりやすく俗物的な発想をしてくれるなら、俺だってもっと楽だったと思うよ」
 しかし声には苦笑が含まれ、彼女とその親友を背に庇った長身の青年はわずかに揶揄の視線を流して来る。
 「あ、貴方どこから涌いて…」
 すらりと立つ蓮を指し、お嬢様はわなわなと指を震わせた。しかし頬がピンクに染まり、うす闇にも瞳が潤んで見えるのはどういうわけか。
 蓮はと言うとお嬢様のご下問には応えず、神経こそ前へ向けているものの肩から上は背後へ捻り、
 「琴南さんも取り戻したんだし、帰らないかい?キョーコ」
 などとのんびり尋ねている。
 「はあ、そうしたいのは山々なんですが…帰らせて、もらえるんでしょうか?」
 キョーコは奏江を抱えたまま蓮とその向こうの絵梨花を見比べた。そして付け加える。
 「むしろ蓮さんが」
 何となれば。お嬢様は今や、蓮ばかりうっとりと見つめているので。
 言われてちらと前を見た切れ長の瞳に射抜かれ、絵梨花は勃然勢いを取り戻した。
 「坂崎北条藤堂!」
 『はっ』
 繊手をうち払うあるじの背後に、照明を手近に置いた三人がさっと膝をつく。
 響いた命令の声は、それまでとは内容がすっかり変わっていた。
 「あの男を、捕らえなさいっ!!」



 
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もうだめなんて気のせいだって!(16)

 ぼうん!
 声に呼び覚まされたように光と白煙が発生した。
 強烈なライトに浮かび上がる真黒のシルエットが、腰に手を当てて半身を捻る。
 「…!?」
 仰天するキョーコの視線の中、次々に上がる赤・緑・青・紫…七色のスモーク。志向性の強いライトに乗るそれらを引き絞るように我が身に集め、人影は綺麗にターンをかました。
 「よく来たわね、“痩身の魔女”さん」
 自信と皮肉とに満ち溢れた声が投げられ、諸手を拡げて立つ女へと三方から三色の光が集まる。
 「あなたが…“E”さん?モー子さん、いえ琴南さんをどうしたの、眠ってるだけって、薬か何か!?もし乱暴したんだったら…」
 「ええ、その通りよ。高園寺絵梨花。絵梨花様って呼んでもいいのよ?
 「でも最後のは心外ね、乱暴されたのはむしろこちらの方なのに」
 ぱきん、と指が鳴らされると、有色のライトはかき消えて代わりに白っぽい灯りが周囲を照らし出した。木の荷箱に囲まれた広い空間には窓がなく、高い天井は彼女が持ち込んだと思しき照明も届かずくろぐろと静まっている。
 「ちょっと…逃げる気満々なのはわからなくもないけど、少しはこっちを見たらどうなの?」
 勝手な言い分に、律儀なキョーコが女に目を戻した。するとその背後にもう3つ人影があり、照明を支えているのに気付く。しかもその照明が、ゆらゆらとふらつきがちなのにも。
 「この3人は私のお気に入りのおつきで、忠実で信用が置けるから、その人を案内するのにも働いてもらったんだけれど、すっかり痛めつけられちゃって」
 「案内って…琴南さんの意思を無視してるんだから、誘拐じゃない!!」
 キョーコの抗議を聞いた様子もなく、“E”はすらりと自分の喉元を撫でた。
 「だってその人ったらまあ、暴れるわ逃げようとするわ罵るわ、何だかんだですっかりダメージをもらったのはうちの者ってことになってしまったのよ。不甲斐ないったら」
 「申し訳ありませんお嬢様、しかしこの琴南様は大変そのご活発で…特に口の達者なことと言ったらいっそ芸術的、神がかり的とも言うべきレベルでございまして」
 「藤堂がトラウマを負ってしまうくらいには、というわけね…」
 左端にいる人物の肩が動くのが見て取れたが、彼は何も言わずにただ身を震わせている。
 「口が達者って…失礼ね、モ琴南さんはただ率直で辛辣で敵に容赦がないだけよ!?」
 意識のない親友を大事そうに膝に抱え寄せてキョーコは叫んだ。
 「ねえそれほんとにフォロー?
 「ああもう、どうでもいいわそんなこと。ねえ“京子”さん、あなた、私の用事はわかっててここまで来たのよね?」
 こつ、こつ、と硬い靴音を響かせ、絵梨花はキョーコに歩み寄って来る。
 警戒心も剥き出しにあくまで奏江を庇う姿を認め、彼女はうすく笑った。
 「私、ね。貴方が邪魔なの。ガラの会の安泰のために、世間から消えて欲しいのよ」
 「…っ」
 調薬師は美しいがむごい顔を睨み上げて息を噛む。
 「モ琴南さんは、私をあてにしてどうこうなんて考えないわ…っ!」
 「貴方たちがそうでも、周囲がそう見るとは限らないでしょう?つまり貴方は、いるだけで琴南さんの足を引っ張るということよ」
 低いような高いような、毒を含んだ声がねっとりと語る。はくと開いたキョーコの唇が、しかし声を発する前に、絵梨花はじわりと微笑んだ。
 「そんなこと、貴方も望まないでしょう…?」
 「わ、たしは…っ」
 「坂崎」
 高慢なお嬢様がぴしりと指を鳴らした。
 「はっ」
 中央にいた男がするすると進み出てくる。やや薄暗い光量の中にも整った顔立ちは隠しようもなくあらわれているが、同時にその頬を彩る長い引っかき傷も見て取れた。奏江の戦果だろうか。
 「こちらに」
 と主に捧げた布を解けば、そこにはにぶく光る銀色の刃。
 「…!!」
 「!?」
 しかし意外にも、短剣を見た絵梨花はキョーコと同時に引きつった息を呑んで伸ばしかけた手を引くではないか。
 どういうことかと半ば茫然と見つめると、お嬢様はさも嫌そうに半身を引いて配下を睨みおろしている。
 「坂崎、これは何!?」
 「何、と仰っても…“痩身の魔女”殿を排除する支度をと仰ったので、短剣をご用意いたしましたが…毒薬ですとその方は解毒の方法をご存知かもしれませんし、扼殺はあとが美しくございませんのでお嬢様には不向きかと」
 「って……」
 絶句する絵梨花に、坂崎と呼ばれた部下は訝しげに首をかしげた。
 「お嬢様?」
 「だっ、誰が…」
 
 

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