BLACK WOLF & CAT(4)

 「っと、こんなものかな」
 リビングスペースのテーブルを、キョーコはにっこり見下ろした。
 炊飯器はあと2分、すまし汁はほこほこ湯気を立てブリ大根はてりてり光り、
 いくつもの小鉢に包囲されてテーブルの中央に鎮座するのはいわゆるタコ焼き器。温度調節のし易い電器タイプのものだ。なお、テーブルは慎重に感熱警報機の下から離されている。
 水色のボウルにはとろりとなめらかなタコ焼きのタネがまだ1/3ほど残っており、小鉢の中には様々な具材がとりどりの色彩を見せていた。牛肉の大和煮、鶏そぼろ、梅ペーストを塗った鰯、みそ焼きの鯖、下味をつけた剥きエビにゆがいたアスパラガスにタケノコのブシ煮に青紫蘇を巻いたチーズetc、いずれもごく小さな塊に切られている。今夜はタコ焼きの前身、ラジオ焼きにするらしい。
 彼女はちらと時計を確認する。今日は早めに撮影が上がりになったので、ホテルに戻っても暫くは兄妹のままだった。
 しかしそれももう終わったようだと安堵して、TVの音がしているベッドスペースに近付く。
 「敦賀さん、お待たせしました」
 声をかけるが、蓮が反応しない。まだカインのままなのだろうかと思って横に回ると、無造作に投げたコートを尻に敷いてベッドに座っている男は、
 TV画面に見入りながら、
 「そうか、この番組だったんだ」
 微笑んでいた。やわらかく、やさしく。
 「…!?」
 時々は見るもののやはり心臓に悪いその光輝に射られ、キョーコは両手で目を庇う。
 一体何の番組を…と思った時、小さめに絞られた音の中に聞き慣れた声を聞きつけた。
 『はい、じゃ次のコーナー!』
 『コケー!』
 って。
 ってそれ。
 つつつ敦賀さん。なんでまた、そんなものを見てらっしゃるんですか。いつもニュースくらいしか見ないのに。
 思わず狼狽しまくる。
 実は蓮はザッピングの途中で見覚えのあるフォルムを発見してチャンネルを止めたわけだが、それがつまり巨大な白いニワトリ。となれば番組は、“やっぱきまぐれロック”、コレである。
 それにしても、あんな優しい瞳で…坊を見てるなんて。
 そっか。敦賀さん、坊のこと気に入ってくれてるんだ。キョーコが嬉し恥ずかし照れていると、
 「あ」
 蓮が彼女に気付いた。
 「ああごめん、夕飯?いま行くよ」
 「あ、ハイ…」
 「リビングの方のTVつけてもいいかな。今の番組、見たいんだけど」
 リモコンを取り上げて言うので、キョーコは『う』と詰まったが拒否もできずにひきつり笑う。
 「はあ、あの、ご随意に…」
 「ありがとう」
 「いえ別に、お礼を言われるようなことじゃありませんし」
 諦めてリビングスペースへと踵を返した。不意に、肩が温かくなった。蓮が急かすように彼女の肩を抱いて歩き出す。
 (うあ、つ、敦賀さんっ…カインの動作が癖になってらっしゃいませんかあっ)
 時間制で兄妹として振舞うようになってから、普段の蓮までスキンシップに抵抗がなくなって来ている気がする。キョーコが背すじをじみじみ這い上る正体の知れない感情に心の中でモダエていると、長身の俳優がすこし身を屈めて何か言った。
 「…へ?鮎桶?鮎食べたいんですか?敦賀さん」
 聞き返せばぷっと噴き出す。
 「Are you O.K.?って言ったんだよ。真っ赤な顔してるから」
 「あ、ははは、はい!問題ありません、ええ何も」
 「そう?ならいいけど。
 「でも、鮎、いいね。季節になったら一緒に食べに行こうか」
 「はあ…」
 食べ物の話なんて珍しい。生返事を返すキョーコに、蓮がちょっと笑った。それが苦笑に近かったのは、重点が『食べに』ではなく『一緒に』だったということに気付いて貰えなかったせいだが、キョーコはもちろんそれにも気付かない。とりあえず半分は言質を取ったと満足し、彼はテーブルの上に目を移した。
 「へえ、今日はタコ焼き?珍しいおかずだね」
 関東人発言、と言うべきか。キョーコは軽く首を振る。
 「あ、いえ。これはラジオ焼きと言って、中身はタコに限らないんです。もともとタコ焼きはこれだったんですけど、たまたまタコを使ったのが受けてタコ焼きが定着したんだそうですよ」
 「ふうん…ほんとだ、色々ある。何だか楽しいね」
 「えへへ」
 思ったよりも好感触を得て、キョーコは嬉しそうに自分の席に着く。蓮は対面に座り、早速TVのリモコンに手を伸ばした。TVがヴ、と低い音を立て、先に音声が、次いで映像が現れ出す。
 『コッケー!!』
 『うわ、何や坊。照れんでもええやんかこの~』
 ブリッジロックのリーダー・光にいじられている大きなニワトリが映った。水のグラスを渡しながら見ると、蓮の唇にはまた慈愛の微笑が刷かれている。
 「あ…の、どなたか、お知り合いが…?」
 自分について蓮がどう言うのか知りたいという誘惑に負け、キョーコはラジオ焼きをピックで皿に取り分けながらそろりと尋ねてみた。
 「え?あ、ありがとう」」
 「いえ、その。敦賀さんがバラエティ見るの、珍しいと思って」
 「そうかな、たまには見るけど。
 「いや、でも、この番組はそうだね。今まで何の番組に出てるとまで知らなかったんだけど、鶏の彼とちょっとした縁があって」
 「そうなんですか」
 「うん。彼には、お世話になったな」
 箸を取り上げ、俳優はちょっと照れたように笑う。そんな笑い方が珍しくて、キョーコは思わず見入ってしまった。
 「うん、美味い。魚だね。梅の味がスッキリする」
 「…」
 「最上さん?」
 「え!?あ、いえっ!
 「敦賀さんみたいなスーパーな方がお世話にって、不思議な気がして。えと、それ、鰯です」
 「スーパーねえ。
 「でも、ほんとなんだよ。彼は不思議な人…ニワトリで、最初の出会いが出会いだったせいか素直に話せるんだ。色々相談に乗ってもらったよ。彼も頑張ってるみたいで、嬉しいな…」
 蓮の口調に紛れもない感謝のひびきを聞き取り、ニワトリの中身は大いに照れた。しかし面に出すわけにも行かず歯を食いしばる。
 蓮が首を傾げた。
 「…その形相、何かな…最上さん。さっきから様子が変だよ、体調でも悪い?」
 「いえっ!?そのようなことは!ただその、ちょっと…
 「羨ましい気もすると言うか」
 「え」
 「“坊”は、敦賀さんに自然に接してもらえるんだなって思ったら…」
 言いかけて少女は言葉を切る。これじゃまるで嫉妬しているようだ。しかも自分に。
 目を瞠り、まじまじと自分を見つめている男の視線に身が縮む思いがする。キョーコは俯き、喉元に手を当てた。
 『アタシだって、兄さんにそんなに信頼されたいもの』
 セツカの声で言ってみる。これでごまかされてくれないだろうか。
 祈るように思っていると、ふいと笑う気配がして顔を上げる。
 やはりいつもより低いトーンの声が、ぽそりと耳に落ちて来た。
 『…俺に一番近いのは、お前だ』
 「…!」
 キョーコには、喜びはにかんでいるのがセツカなのか最上キョーコなのかわからない。ただ…
 蓮の口から出る親しみが、いつも自分に向けられていることが嬉しかった。
 それが、いつも自分の仮の姿に向けられていることが…
       寂しかった。




 
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