フリーザー?

 キョーコは例によってガタイはでかいが食の細い先輩俳優宅のキッチンを占拠していた。
 「氷、氷っと…
 「…あれ」
 冷凍庫をぱかりと開けて、ごそごそと中を探る。動作を止めたと思ったら、細い肩をこまかく震わせ出した。
 「…っ…」
 ばほん。冷凍庫の扉を手荒く閉め、彼女は勢いよく踵を返した。
 つかつかとキッチンを出ると、リビングからはTVの音がしている。
 「敦賀さん!!」
 一声ぴしりと吠え、少女はいきなりの大声に面食らって振り向く秀麗極まる白皙に、手にしたものを突きつけた。
 「何ですかこれはっ!!」
 「…え…何って…」
 戸惑う蓮が目を向ければ、大皿に盛られた黄色い丸い料理のプリントされたプラスチックの袋。斜めに入る文字は『ま~るい幸せ・角美屋のかにたま!!』。
 「冷凍食品…?」
 「そんなことは見ればわかります!」
 「いや…君が、とにかく何か食べろって言うから、簡単なものを」
 「その心がけは佳しとします。たとえ冷凍食品でも、食べないよりはマシでしょう。だけど!」
 「…ハイ?」
 蓮の方はとうに両手を降参の形に挙げている。がキョ-コの追及は已まない。
 「それも、食べればの話です!!冷凍食品を賞味期限が切れるまで放置して、あなたは一体何がしたいんですか!!?うっかり霜に覆われて見過ごすところでしたよ!」
 「見過ごしてくれて構わないのに…」
 「何か仰いましたか!?」
 「いえ何も。えーと。ごめんね?」
 「私に謝っても仕方ありません」
 世の女性ならばおよそ誑し込まれもとへ何事であるとも赦さずにいられまいスマイルも、栄えある(?)ラブミー部員一号・最上キョーコの無敵鈍感バリアを突破することはできない。キョーコは蓮の謝罪をにべもなくはねつけ、白い手につかんだ冷凍食品を握り締めて天へ差し上げる。
 「食品として人の口に入り、血となり肉となるために生み出され、その崇高な使命を全うすることを夢見て工場を旅立って来たこのかにたまをっ!あなたはっ!ただのゴミにしたんです!!その罪を、もっと自覚して下さい。あなたは、大量の生ゴミを出すだめな日本人そのものです!」
 「いや…あの…すいません…」
 点目で言う俳優を睨み上げ、キョーコはふんと鼻息を噴いた。
 「わかって戴けましたか!?重々反省して下さいね!」
 「うん、反省します」
 「まったく…ではこれは、私が戴いて行きますから」
 「え、別にゴミなんかわざわざ持って帰らなくても」
 「誰が捨てると言いました?」
 「…は?」
 「私が大事に戴きます。かにたま好きですし」
 「あれ?さっき、賞味期限が切れてるって」
 「賞味期限と消費期限は別です」
 あっさり提示された雑草根性に、蓮は一瞬感嘆すら覚えたが流されるわけにも行かなかった。
 「駄目だよ、君にそんな…賞味期限の切れたものを食べさせるなんて。それくらいなら、俺が食べるから今日の食事に出して?」
 「それこそ駄目です。食に関して繊細な上に、多忙を極める敦賀さんにおかしなものは食べさせられません。そんなことをして、もしお腹でもこわしたら大変じゃないですか。私なら、これくらい平気ですから」
 「平気ですからって…いや、でも」
 「だ・い・じょうぶ・です!当たらないよう念入りに調理して、味だって調整しますから」
 「それは、俺にはないスキルだけど…」
 「はい決まり」
 「最上さん…」
 食事に関しては、蓮はこの少女に負けっぱなしだ。何とか失点を挽回するチャンスはないものかと噛んだ奥歯に問いかけるが、急に今いい知恵が浮かぶものでもなかった。
 キョーコは満足げにキッチンへ戻ろうとする。ドアの前で急に振り向いた。
 「あ、そうだ。私、明日から地方ロケだの学校行事だのあって、しばらくはラブミー部へのご依頼もお受けできませんから。でも、その間もちゃんと食べてくださいよ?」
 「わかってるよ…」
 苦笑する多忙俳優を、キョーコはかるく首を傾げて見上げる。信用できないと言いたげなその眼差しすら、自分を気遣うゆえだと思えば蓮にはいとおしくて仕方ない。
 「今日、色々作り置きして、タッパーを冷凍庫に入れておきます。次来た時に減ってなかったら、怒りますよ?」
 「怖いな、怒るとどうなるの?」
 「嬉しそうに言わないで下さい。ほんとは私が怒ったって怖くもないって思ってるんですね?」
 「まさか!俺がこの世で一番怖いのは君だよ。君にだけは嫌われたくないからね」
 「…もう一つ説得力を感じませんが…」
 天然イヂメっ子は嫌われるかどうかの判別がつかないってことかしら、などと口の中で呟き、キョーコはちょっと考える。
 「…タッパーが減ってなかったら…そうですね、その時に残ってるもの全部食べて戴きましょうか」
 「はは…手厳しいね。まあ、有り得ないけど。君が作ってくれたものなら喜んで食べるよ。でも」
 「はい?」
 少女は、蓮の言葉に感銘を受けた様子がない。慣れもしたしそこで挫ける気もないが、恋を自覚する青年はやはり一抹の寂寥を感じてしまう。
 だから、言ってやれと思った。
 「じゃあ、ちゃんとタッパーが全部空いてたら、君はどうしてくれる?」
 「どうって…また新しく詰め直させて戴きますが」
 「うん、それも嬉しいしありがたいけど。もうひと声欲しいところだね」
 「はあ…?」
 ぱちぱちと大きな目を瞬かせる無垢な少女に、彼は、それ行けと徹甲弾を投げつけた。
 「タッパーひとつにつき、キスひとつ。君がくれるなら、どれだけあっても全部食べ切って見せるよ」
 「またそういう…妙な冗談言わないで下さいよ。セクハラですよ?」
 キョーコは疲れた声で言って背を向ける。
 華奢な後ろ姿を呑んで閉められたドアを見遣り、蓮はそっと呟いた。
 「冗談、ねえ。今はそういうことにしておくかな」
 凍っているのは食品か彼女の心か。
 溜め息をつく彼にしても、気付いていなかったのだ。
 スタスタとやけに速足でキッチンへ戻る少女が、耳まで赤くなっていることには。





 
  web拍手 by FC2

続きを読む

スポンサーサイト
検索フォーム
作品一覧
サイト「花うてHP!」トップよりブログ内の作品のリストに飛べます。閲覧者の皆様のアクションに対して加算させて戴く「花うてポイント」の説明・管理もこちらよりどうぞ!

作品リスト(サイトトップ)

アクセス

・メールフォーム

・BBS

リンク

◆リンクページ


◆当ブログへのリンクについて

当ブログはスキビコンテンツをお持ちのサイト様に限りリンクフリーといたします。


ブログ名:花のうてな

管理人名:みなみ なみ

URL:http://hananoutena.blog14.

fc2.com/


 ↓各ジャンルごたまぜの本サイト。

↓スキビの同人誌作品をブログ記事として収載・販売しています。(2014年7月までで更新停止)

 ↓BUD BOY二次です。


  • 管理画面
  • RSSリンクの表示
    QRコード
    QR