Love Is Conflict

 「あれ」
 少し調子の外れた声が上がり、周囲の視線を集めた。
 「曹長、寝ちまってる」
 真昼の整備格納庫。隅に置かれた机に突っ伏し、メガネっ娘整備員は鉛筆を握ったまま安らかに夢の中へと旅立っている。やわらかな吐息に合わせ、メガネのレンズが白く曇ってはすうと褪めるを繰り返していた。
 「最近忙しいみたいだからな」
 手近な戦闘機の翼の下でチェックリストを確認していた班員が帽子のきわをこりこり掻きながら言うと、いくつかの同意が返る。しかしその声は、どれも振るわなかった。
 『結婚の準備で』
 隠れた言葉が、誰の頭にも存在していたために。
 「…もうすぐ、かー…」
 「しかも、暫く会えなくもなるんだよな」
 ひとりふたりがぽつりと言い、まわり中から睨まれて首を縮める。
 「てか、それより」
 中の一人がふと気づき、上官の後ろ姿を見遣った。広々とした整備庫の中、ひどく小さく見える背中がふると震える。
 「このままじゃ風邪ひくんじゃないか」
 「あ」
 「そりゃよくないな」
 たちまち、奇妙な熱気が男たちの間に生まれ伝播して行った。
 「じゃあ、俺のジャケットを…」
 最初に声を上げた男は、一番近くにいたのでもある。いそいそと上着を脱ぎながら近寄ろうとするのを、いくつもの野太い声が遮った。
 「待て」
 「抜け駆けすんな」
 「俺が気がついたんだろうが」
 ぐ、と詰まった男が足を止め、じりじりと集まってくる同僚たちを睨み回した。
 中の一人が口を開く。
 「じゃーんけーん…」
 空気が緊張を孕み凝縮した。
 「ホ!」
 さっと突き出された手はつごう5本。パー2チョキが1グー2の割合だった。ということはあいこだ。
 男たちは互いに睨み合いながら肩を引いた。
 「ホ
 「ホ
 「ホ!!」
 緊迫した掛け声が何度も響くが、なかなか決着がつかない。そこへ、のんびりした声がかかった。
 「やあ、白熱してるね。何のじゃんけん?」
 「曹長が寝ちまってるから、誰のジャケットをかけるか決めてんだよ」
 次の手を占いながら答えを放る男は、顔を上げてやっと口をぱくぱくさせている競争相手たちの様子に気づく。
 「?」
 いやな予感を抱えつつそろうり振り向けば、そこには。
 やけに豪奢な笑顔がにこにこきらきらと光の矢を放っていた。
 「つつつ、敦賀一尉!!」
 曹長の婚約者でもある上官の登場に、彼らは一斉に直立敬礼した。
 「済まなかったね、彼女が心配をかけて」
 「い、いえ」
 「そんな」
 腕利きパイロット様は相変わらずにこにこを振りまきながら、ゆったりと歩を進める。人垣が綺麗に割れ、最上曹長への道を開いた。
 ほどなく婚約者の傍らにたどり着くと、敦賀蓮一等空尉はするりとジャケットを脱ぐ。細い肩をくるむように着せかけ、そのまま軽々抱き上げた。
 「悪いけど、約束があるから連れて行くよ」
 「え…あ…は、はい」
 へこへこ頷く整備員たちに、敦賀一尉はもういちど綺羅綺羅しい微笑みを投げ、優雅にかつ足早に出口へと向かう。その肩口から、小さな声がほにゃりと洩れて来た。
 「ん…一尉…?」
 「もう少し眠ってていいよ。昨夜、疲れさせちゃったんだね」
 あとに残された男どもは、意味深なセリフにいささか顔を赤らめつつ同じ思いを抱いた。
 恋愛は戦いとは言うけれど。最上曹長のまどろみまでも独占するような男には、少しも勝てる気がしない。
 ああ畜生、

 ズルイよ一尉。




web拍手 by FC2
 
 


 ハイ今回は最強の一尉シンパ(認定/笑)TOMCAT☆様のリクにお応えしてみました。
 翼シリーズ、曹長と一尉のラブいちゃ。曹長だってモテるはず!!って感じです~。

関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

検索フォーム
作品一覧
サイト「花うてHP!」トップよりブログ内の作品のリストに飛べます。閲覧者の皆様のアクションに対して加算させて戴く「花うてポイント」の説明・管理もこちらよりどうぞ!

作品リスト(サイトトップ)

アクセス

・メールフォーム

・BBS

リンク

◆リンクページ


◆当ブログへのリンクについて

当ブログはスキビコンテンツをお持ちのサイト様に限りリンクフリーといたします。


ブログ名:花のうてな

管理人名:みなみ なみ

URL:http://hananoutena.blog14.

fc2.com/


 ↓各ジャンルごたまぜの本サイト。

↓スキビの同人誌作品をブログ記事として収載・販売しています。(2014年7月までで更新停止)

 ↓BUD BOY二次です。


  • 管理画面
  • RSSリンクの表示
    QRコード
    QR