いけいけむてきのキョーコさん(中編)

 「キョーコ、ちゃん?」
 声だけでなく、半分ほどの大きさになっているキャベツを拾い上げる手にさえも困惑を感じる。
 キョーコは後悔しつつも、それが演技によるものなのか否かの判断がつかず、落し物を受け取る手も出しかねたまま突っ立っていた。
 「どうした?」
 尋ねる蓮の瞳に、心配そうな色が深くなる。
 胸の軋みを覚えて、キョーコは呼吸を震わせた。気を遣わせたいわけじゃない。ただ、少しだけ…
 あと少しだけ、そばに行けたら幸せだろうと思う。けれど蓮はそう望まないのだろうか?
 「俺が何かしたなら謝るから。わけを話してくれないかな」
 野菜をその葉の散らばる調理台に戻した俳優の手が、彼女の頬へと伸びて来る。そっと触れられて、キョーコはびくりと震えてしまった。
 すると蓮は、熱いものに触れたようにさっと手を引っ込める。その瞳の揺らぎには気付かず、タレントは男の前からの脱出を図った。
 「つるがさんなんか、きらいですっ…!」
 「!?」
 動揺の気配と同時に、腕をつかんで引き戻された。流し台に押し付けられ両脇を囲われて、のしかかるように視線を捉えられる。
 「つ…」
 「我慢するから!」
 狼狽とも抗議ともつかない声は、切迫した言葉に遮られた。
 キョーコの唇がぽかりと開いたままになる。我慢。我慢ってナニ。頭の中をぐるぐる回る奇体な単語に気を取られるまま絶句する彼女の耳に、苦しげな男の声が降ってくる。
 「焦らないように…純粋な君が心から俺を受け入れてくれるまで、キスもそれ以上のことも我慢してみせるから。だから、俺から逃げないで欲しい…」
 「そっそれいじょって」
 「でないと」
 蓮が言葉を切った。
 凝視を伴う沈黙に耐え切れずにキョーコが促す。
 「あ、あの…?」
 「でないと…
 「君を傷つけても、無理矢理俺に縛りつけようとするかもしれない」
 「むっ…しばっ…!!?」
 どかん、とばかりキョーコの頭が蒸気を噴いた。
 俳優は、彼女の恋人はかすかに頬を歪ませる。奥歯を噛むのは、今まさに何かを堪えているせいではないのだろうか?
 少女は恐る恐る、願うように尋ねた。
 「敦賀さん…あの、もしかして。その…私にキ、キスとかしたい、んでしょうか…?」
 「当たり前だろう!」
 ヤケクソくさい即答に、大きな目が一層丸くなる。
 「愛する人に触れたいと望まない男なんているもんか。俺はいつだって……いや…」
 途中で勢いを失し、蓮は身を起こす素振りを見せる。ごめん、と呟く少年めいた声調子に釣り込まれる形で、キョーコは問いを重ねていた。
 「ならどうして、して下さらないんですか」
 「だから、少しでも触れたらきっと俺は………
 「え。キョーコちゃん!?いま」
 俳優は途中で言葉を止め、物凄い勢いで彼女の両肩につかみかかる。
 「…いま」
 「…え、と…」
 含羞の仕草を見せ視線を逸らしながら、しかし少女は自分を励ますように拳を握った。がんばれ私、と唇が動く。
 「わた、しは…」
 言いかけた鼻先に、蓮の吐息が触れた。
 「俺は、君に触れてもいいの?」
 




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 あれ…終わんなかった。


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