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たいせつでたいせつで(16)

 「ところで、一つ報告があるんだけど」
 バースデーディナーを終えて帰宅する車の中、クオンはやや遠慮がちに切り出した。
 「まあ、何かしら?クオン」
 ジュリエナが嬉しそうなのは、息子から何年も聞いていない言葉だったからだろう。少年は謝るように目を伏せ、小さく息を吸った。
 「…俺、映画のオーディションに通ったんだ。脇役だけど…『エングリン』って言う」
 「なに!!?」
 突然、ハンドルを握るクーが大声を上げた。車が大きく揺れ、クオンは慌ててキョーコを抱き止める。
 「父さん、危な…」
 「『エングリン』に出るとは…本当かクオン!?」
 「え?う、うん」
 苦情を遮られ、少年は形のいい眉を寄せた。
 「しまったっ……!!」
 父はひどく打ちひしがれている。何事だろうか?
 「なに…どうしたの、父さん」
 「その映画は、私もオファーを受けた」
 「え」
 クオンは喜びが冷えるのを感じた。まさか、父と共演することになるのだろうか。
 狼狽する少年には気付かず、クーは心底残念そうにハンドルをばんばん叩く。
 「だがスケジュールがどうしても合わず、断ってしまったんだ!!!」
 「あ」
 「まあ…残念ね、あなた!」
 母は言うが、クオンはほっと胸を撫で下ろす気分だった。まだだ。まだ自分は、父と並ぶ準備ができていない…
 内心の葛藤に耐えていると、気を取り直したらしき父は口調を戻して尋ねて来た。
 「しかし、あの映画はロケがあるだろう?アイルランドまで行くと聞いたぞ。その間キョーコをどうするつもりだったんだ」
 「うん…
 「他に方法がなければ、自費で連れて行こうかなとも思ってたんだけど」
 「それではお前の撮影中に面倒を見る者がいないだろう。第一、私たちがキョーコに会えなくなる!」
 「…うん、ごめん」
 「うーむ、こうなるとだるまや夫妻はいいタイミングだったな。キョーコを連れて行くのは3日後の定休日か…」
 クーは一人で頷いている。そのうち、元気よく言い放った。
 「よし。これから週に3日は、キョーコの様子を見がてらだるまやに通うことにしよう!」
 「ずるいあなた、私も行きたいわ!!」
 「もちろん、スケジュールの許す限り一緒に行こう、ジュリ」
 「って父さん…」
 「ん?何だクオン。お前は駄目だぞ、21になるまではな」
 「そうじゃなくて」
 「ああ、その頃にはキョーコをうちに取り戻しているか?」
 「そりゃできれば…って言うか、そうなっても同居なの?
 「いや、だから!!
 「だるまやさんに迷惑だよ。父さんに週3で通われたら大変じゃないか」
 ごもっともな指摘をする息子に、雄大な胃袋を持つ父は
 「いいや大丈夫だ。大将は立派に私の食欲を養ってくれる。やる男だ、彼は。私はそう信じて…いいや、知っている!!」
 どきっぱり言い切った。クオンは二の句が継げず、ただ力なく項垂れ…
 だるまやの平安のために、そっと祈ってみるのだった。



 3日後、キョーコは迎えに来ただるまやの夫妻に連れられてヒズリ家を去った。使っていた部屋はそのままにしておくから、いつでも遊びに来なさいむしろ来てくれと言い聞かせるクーとジュリエナに見送られて。
 クオンは自分もその場にいたかったのだが、そのために学校をさぼることを父が許さなかった。
 じりじりしながら授業を受けて教師2名をヘコませ1名を怒らせ、もう1名を虜にして帰宅すると、家はガランと広いばかりで人の気配もない。
 キッチンのテーブルにミセス・グレンのメモが載っていて、
 『夕飯はレンジの中です。寂しくなりましたが、ちゃんと食べて下さいね』
 とあった。家政婦の気遣いが有難くも切なく、クオンは溜め息をつく。
 どの道まだ夕食という時間ではない。冷蔵庫からミルクを出してグラスに注ぎ、二階へ上がった。
 鞄をベッドに投げ出すと、足が習慣通りドアへ戻ろうとする。隣のキョーコの部屋へ行くために。
 (馬鹿だな、俺)
 苦笑がだんだん、しんと沈んで行く。
 ミルクを置き椅子に座ろうとして、机の上の紙片に気付いた。取り上げてみればだるまやの名刺、住所と電話番号と簡単な地図が記されている。大将かおかみか、それとも父が置いておいてくれたのか?
 しかし、こんなものを見せられると、とクオンは困った顔をした。
 今すぐにでもだるまやに行きたくなってしまう。確実に迷惑になるとわかっているのに。せめて今日一日くらい、そっとしておくべきなんだろうと思うのに。
 我ながら余裕がない、とクオンは口をへの字に曲げる。
 しかし気になるのだ。キョーコはどうしているだろう。ちゃんとごはんを食べただろうか。今頃は、おかみさんに優しく話しかけられているのだろうか?
 (…あ)
 唐突にクオンは気付いた。
 (そうか。あの家では、きっと日本語で話してる)
 ヒズリ家でも日本語は通じるが、あくまでも日常会話は英語による。再会直後の様子から見ればキョーコは英語によるコミュニケーションにさして不安はないようだったが、それでも生まれた時から慣れ親しんだ基本言語に接する方が楽ではあるだろう。
 そう言えば父もよく日本語で話しかけていたと思い返し、少年は悔しさに奥歯を噛んだ。
 (言ってくれればいいのに…いや、俺がもっと早く気付けばよかったんだ)
 確かに自分は、日本語は少しばかり苦手めではあるが、キョーコのためになるならいくらでも頑張るのにと思う。
 (少しでも早くキョーコちゃんが…笑ったり、話したり…)
 めらり、と揺れ上がる感情にクオンは困惑した。それを、一番に見るのが自分じゃない可能性の方が高くなってしまったとは。
 (待て、何考えてるんだ俺。一番とかそんな問題じゃないだろ)
 頭を抱えながらも、片方で“そんな問題”が離れて行かない。
 (今日くらいは、水入らずに…でも、明日。明日なら、いいかな…)
 見上げれば窓の外には、はや傾いて行く太陽。懊悩する少年は色を変える空を見ながら、しかし自分の変化にはまだ気付いていなかった。
 会いたい、と思う気持ち。
 いま傍にいない人を求めるその気持ちを……
 人は、何と呼ぶのか。
 




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 だるまやにヒズリファミリーの出没率がハネ上がります(笑)。宣伝効果抜群だけど大将は迷惑がりそうですねっ。
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