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たいせつでたいせつで(121)

 少し話をした後、アメリカの両親に無事着いたことを連絡したいと言うキョーコに国際電話のかけ方を教え、クオンは自分に与えられた部屋に引き上げた。
 そして何気なくドアを開いた瞬間、キョーコの部屋のドアを振り返っていた彼に向かって、ひょうと音を立てて飛来するものがあった。
 「っ!?」
 視界の端にちらりと捉えた影に反応したのはさすがと言うべきか。振り返りざま、やっとのことで避けた彼の前髪を数本攫い、それはべたんとドアに突き立った。
 「…何を考えてるんだ、あの人は…」
 吸盤つきの矢をドアの鏡板からはずし、クオンは低く呻く。よく見れば室内側のドアノブに細い紐がかけられ、奥に設置されたゴム弓へと続いていた。ちゃちな探偵漫画のトリックでもあるまいに、何のためにこんな仕掛けを施すのかローリィ宝田。
 彼は心に問うが、答えもまたそこに見ていた。
 面白がってに決まっている。そして、
 これだけであるはずがなかった。
 少年は用心しいしい、ペッタン矢をいじりながら部屋に入る。ひゅ、と音がして横から第二矢が飛んで来たが、これは予想していたため難なく片手でつかみ取った。
 しかし同時に、はじめの矢が突然中ほどからぽきりと折れた感触には驚いた。そんなに力を入れて持っていたつもりはないがと目を戻すと、折れ目からちょろりと糸が出ている。いやな予感を覚えたが、引っ張ってみずにはいられないのが人情というものだろう。
 クオンは万やむなく自然の欲求に従った。その途端、ぽんと空気の抜けるような音がして、手の中の矢が2本とも跳ねた。中から飛び出したのは、色とりどりの紙吹雪と万国旗に似た連なり。
 初めの矢からは、糸で繋がれた紙片に「L」「O」「V」「E」。2本目からは、「祝☆初恋成就」。
 「…………」
 ぐったり疲れたクオンはひょろひょろとベッドに座り込む。
 「まだ成就してないよ…」
 呟くには、彼にとっての問題はそこであるらしい。後ろにばたりと倒れこむと、少年は深く重い溜息をついた。
 そこへ、
 「おいおい、いいのか?溜息をつくと幸せが逃げると言うぞ?」
 深みのある重低音にも拘らずどこかおちゃらけた調子の拭えない声が聞こえて来る。
 跳ね起きたクオンは、どこからか荘厳なコーラスが響き出すのを聞いた。同時に部屋の隅で床が、そして天井がぱかりと開くのを見る。床に開いた穴には、メッシュ状の鉄板のようなものがせり出して来た。
 「な」
 にごとかと問う声を圧し、上下を激しい風の音が結んだ。さらには、その中央に、聖歌に似たコーラスに包まれ、白い衣装と黒い髪を轟風に靡かせて、諸手を拡げたローリィ宝田が降臨して来るではないか。圧縮空気を吹き付けて体重をコントロールしているらしい、彼は緩く回りながらふわりふわりと世下にくだる。
 これには、彼の奇行に慣れているはずのクオンも言葉を失った。
 「ふむ」
 たと、と足を床に着け、芸能事務所社長はさらりと裾をさばく。前に踏み出すと同時にぱったり風が止み、床板が持ち上がって元のように閉じた。
 半ば呆れ、半ば覚悟しつつ見守るクオンに、マントを翻してローリィが歩み寄る。当邸の主ではあるが、客間にこの登場では闖入者と呼ぶのが相応しいだろう。
 「クオンよ…」
 しかし少年を見下ろす瞳には、慈愛にちかい悲哀があった。つまり彼には、寸毫たりとも悪びれる気持ちはないということだ。
 「な、なんですか」
 「恋愛先進国アメリカに暮らしながら、本当の恋ってものを知らずに来たお前をずっと心配してたんだ、俺は。しかしそれも終わったとクーに聞き、実際にあの子といる時のお前を見て胸を撫で下ろす思いだった」
 「はあ。恋愛先進国って言うと、フランスとかイタリアなイメージがありますけど」
 余計なお世話だと雄弁に語る少年の冷視線をものともせず、コスプレ社長はぶんと手を振った。
 「しかるに、だ。まだ成就してないだと!?嘆かわしい、いったいお前は何をしてるんだ。何をグズグズしてやがる、このヘタレ」
 次第に激していく壮年コスプレイヤーの勢いに、少年は金の髪を振って反意を表した。
 「どこから聞いてたんですか…だいたい、キョーコちゃんはまだ11歳ですよ」
 「女の子の初恋にゃ、早かねえだろが」
 「!」
 言われてみれば、とクオンは衝撃に立ちすくんだ。そもそも、キョーコには“王子様”がいるのだ。ショーとか言ったか、今回の来日にはその少年を彼女の周囲から排除する目的もあるわけだが、彼は彼女の初恋なのだろうか?幼い憧れの類でなく?
 考え込んでしまった少年をつくづく眺め、明敏と奇行の両方において鳴る宝田氏は呆れたようにかぶりを振った。
 「話にならんな」
 「いえ、でも…ちょっと、事情があることですから。無理強いなんてできるものじゃありませんし」
 「当たり前だ。無理に強いる恋なんざ恋じゃねえ」
 考え考え言う少年の言葉はすっぱり切り落とされる。そうしておいて年長者は、彼の両肩をがっしとつかんだ。
 「いいかクオン。まだ年の満たない子を大事に育てる、って気持ちはもちろん重要だ。だがな、それも相手の心を自分がつかんでてこその話だって覚えとけ」
 「それはまあ、そうかも、しれませんけど」
 ぶつぶつ言うクオンに、ローリィは断固とした口調で命じる。
 「この旅行はいい機会だ。日本で毎日一緒に行動する間に、お前はあの子の気持ちをがっちりつかむことだな。少なくとも、そのための努力をしろ」
 「大きなお世話です」
 たまりかねて少年が反抗するが、もちろん耳を貸してはもらえなかった。ローリィ宝田はどこまでも自分のペースで話を進める。
 「しかし、だ。
 「お前も言ったように、何でも強引にすりゃいいってもんじゃねえ。どう振舞ったかは逐一報告させるから、そのつもりで紳士的にことを運べ」
 自分こそ紳士的に話を進めてほしい、とクオンは思ったが、いまさら言って聞く相手でないことはわかりすぎるほどわかっている。半顔を覆った手の下で神に救いを求めてしまったところで、気になる言葉を聞き流したことに気がついた。
 「報告って…」
 まさかマカナンにか。確かに宝田ならば頼みかねず、マカナンならば引き受けかねない。一に面白いからという理由で。
 しかし彼の懸念は、ありがたいことに今度は外れた。
 「ああ、監督もいるからな。案内と通訳を兼ねて一人同行させることにした。夕食に招いてあるから、あとで紹介する」
 「はあ」
 ありがたいのかそうでもないのか、この時点では判断がつきにくくはあったけれども。







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 降臨のシーン、ローリィはきっとリハーサルを繰り返したんでしょうねえ。楽しそうに。


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