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PAPA TOLD ME

 「今夜はとことんつきあってもらおうか」
 「はあ」
 どん、とカウンターに置かれた一升瓶を、俳優T氏は微妙に引き攣りながら見返した。
 「大将、敦賀さんは明日も朝からお仕事が」
 慌てて口を出すキョーコを押さえ、蓮は小さく苦笑する。
 「いいよ、キョーコ」
 「でも」
 「大丈夫。これは俺の通過儀礼だから、後には退けないし退かない」
 「いい覚悟だ」
 彼の攻略すべきラスボス、だるまや大将がうすく笑った。こめかみには青く血管が浮いている。
 「おい、コップくらい出さねえか」
 おかみを振り返るが、言われた方は腰を浮かせておろおろ男二人を見比べた。
 「でもあんた」
 「本人がいいってんだろうが」
 視線を移されて蓮が頷くと、彼女は気の毒そうな顔でグラスを二つ出して来る。それを受け取った大将が、勢いよく酒瓶を傾けた。



 「で、何か」
 重々しい声で対象が切り出した。女性陣は追い払い、店のカウンターに二人だけ尻を残している。
 「キョーコと結婚したい、だ?」
 「はい」
 蓮はグラスを置き、平静に答えた。
 「何で俺に言う?以前部屋を貸してたってだけで今じゃ家主ですらねえってもんに、わざわざ許可を取りに来る必要はねえだろう」
 「ええ、それだけだと思っていたら来ませんね。キョーコ…さんにとっては、あなた方は親代わりどころか実の親以上に大切な方々です。そしてその逆も、と思ったからここへ来ました。俺の判断は間違っていますか?」
 「ふん…お愛想言いやがって、口がうめえのは商売柄か」
 ラスボスは絡むような口ぶりだが、蓮には覚悟の上のことだ。ニッポンのオヤジから娘を奪い取るには覚悟が要るぞとローリィにも聞かされている。多分に面白がられているのは明白だったが。
 「お愛想なんかじゃなく…彼女を見てると、そう思うんです」
 「……けっ」
 どぽぽ、と酒が注ぎ足された。軽く会釈した俳優が苦笑と共に口をつける。
 「つまらねえな」
 ぼそりと大将が呟いた。
 「ずっとガキができず終いで、ひょっこり娘ができたって思やぁほんの数年の夢じゃねえか。娘なんざつまらねえ…」
 とうとう愚痴が始まってしまった。しかし想定内、ローリィに課されたシミュレーションで対策は練ってある。今こそそれを実行すべき時だった。
 「そんなことはありませんよ。俺と結婚したからって、彼女があなた方の娘でなくなるわけじゃありません。俺が息子になる…ことをどう思われるかわかりませんが、子供でもできればそれはあなた方の孫ということです」
 “日本の親父には、ステロタイプの攻めが最も有効だ!!”
 愛の伝道師の教えを耳に蘇らせ、彼はしみじみと語る。と、大将の瞳がぎらりと光った。
 「ああ!?」
 「え」
 まさか逆効果だったかと心中で焦る蓮から、中年男はふいと目を逸らす。
 「孫か…」
 小さく呟く声に照れと喜びを感じ、“息子”部分を綺麗にスルーされた俳優は複雑に胸を撫で下ろした。
 ところがそこで、
 「ん!?」
 大将はまた目を剥くではないか。
 「おめぇまさか、もうあいつを孕ませたってんじゃねえだろうな…!?」
 「なっ」
 二転三転、神経にダメージを追い続ける男が堪りかねて呻く。
 「そんなことはしていません…っ」
 「本当か!?」
 「ちゃんと気をつけています!!」
 つかみかかられて彼は、言わずもがなの発言をしてしまった。
 『!!』
 男たちはどちらも顔色を変えたが、その色はと言うと正反対だった。片や赤、片や青。
 「す、すいません。少し、酔ったようです」
 「………」
 二人揃ってもぞもぞ座り直すところへ、奇妙な圧力を伴う沈黙が落ちる。しかし攻略者には、挑戦した相手を放置することは赦されない。
 「あの」
 蓮は気まずさを振り切って口を開いた。
 「彼女と、結婚させて下さい。きっと…絶対に幸せにします」
 「…馬鹿野郎」
 あっさり罵られて溜め息をつきそうになると、空にしたグラスをカウンターに叩きつけた大将は彼を見ずに吐き捨てる。
 「逆だろうが」
 「はい?」
 俄か父は少々呂律が怪しい。聞き返す俳優に、赤く充血した目をじろりと当てた。
 「人を本当に幸せにするのは、アイツの方だってんだ。そういうとこがうちのと似てるから、余計によう…」
 言いかけたまま、厳つい顔はずるずるカウンターに沈んで行く。
 彼の妻に似ているから。余計に娘として愛しむのだろう。顔かたちでも血でもなく、心の在りようこそが彼らを結び付けている。
 ふくふくしたおかみの笑顔を思い浮かべ、俳優は胸の底に温もりを覚えた。
 「アイツに幸せにしてもらうなあ、おめぇの方だ…」
 うにゃうにゃ言った大将が、顔を囲った腕の中でイビキをかき始める。その手の中のグラスに、新たに満たした自分のグラスを当てた蓮は、小さな微笑をこぼして呟いた。
 「まったくその通りです」
 と、背後でちゃらりと玉暖簾を分ける音がした。
 「あ。大将、寝ちゃったんですか!?なんだか静かになったと思ったら…」
 「うん、たった今ね」
 振り返ると、キョーコとその後に続いておかみが現れる。
 「まあまあ、すいませんね。見た目ほど強くないのに無理するから…申し訳ないですけど、奥へ運ぶの手伝ってもらえませんかね敦賀さん」
 「喜んで」
 身内扱いにされた気がして、蓮は心から答える。あるいはそれもおかみの心遣いだったかもしれない。
 「でも、敦賀さんもだいぶ飲んでらっしゃるんじゃ…大丈夫ですか?」
 「大丈夫、いい酒だったしね」
 立ち上がった蓮は大将の片腕を取って肩に担ぎ、心配するキョーコに微笑みかけた。女性陣がぱあっと顔を綻ばせる。
 「じゃあ!」
 「許してもらった…と俺は解釈したけど」
 俳優はそっと笑って、悪戯っぽい光を瞳に浮かべた。
 「というわけで、最上キョーコさん。俺を幸せにしてくれますか?」
 キョーコは知らぬふりを決め込むおかみの背を赤い顔で見遣る。一瞬落とした視線を、彼女はまっすぐに蓮へと返し胸を叩いた。
 「お任せ下さい!」
 俳優の肩の上で、小さく鼻を啜るような音がした。




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 カスパール様のリク作品「敦賀氏inだるまや」です。時期の設定は敢えて避けましたが、「娘さんをオレにください」バージョンで☆



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非公開コメント

No title

こんなにも早くリクエストにお応えいただけるとは思わなかったので、驚きつつも嬉しかったです。
緊張している敦賀氏やザ・昭和の親父!な大将を楽しんで読みました。特に「~孕ませた~」「~気をつけて~」のやり取りでは画面前でニヤニヤが止まりませんでした 。そして物語の最後の一行がしんみりとした雰囲気をかもしだしていて、心に沁みました。
終始、楽しく読むことができ、リクエストしてよかったなぁ、と思いました。
ありがとうございました。

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