たいせつでたいせつで(127)
「うまく話がつくといいね…」
「う、うん」
軽く屈んで言う蓮から、封筒を抱えたキョーコはタクシーの車窓に張り付くようにして距離を稼ぐ。青年は困った顔でそれを眺めたが何も言わず、もとのように座り直した。
「嬢ちゃんは親孝行だなー、感心感心」
キョーコとは反対側、運転席の後ろにいるマカナンが口を出すが、やけにニヤつく顔は隣の青年に向いている。
「え…」
蓮が嫌な顔をする間もなく、少女は茫然と呼ぶのが近い表情を映画監督へと向け、そのあとゆるゆると視線を落とした。
「そんなこと、ないです」
硬い声に、助手席の社が振り返る。この場で唯一事情を知らない人物ではあるが、アルバイト勤務がローリィ宝田の目に止まるだけあって明敏なたちであるらしい。しかも気遣う視線がやわらかく、押し付けがましくないあたり若いに似ず人物ができている。
それに励まされたか、キョーコはどうにか微笑と呼べるものを作って顔を上げた。
「わたし、いま、幸せだから。だから、お母さんのことだけほっといちゃいけないって気がするんです」
「そっか」
マカナンが軽く頷くが、瞳には一瞬だけ複雑な色が過る。
「そりゃ、いいことだ」
むしろ自分に確認するように言い、中年男は隣に座る青年の背中をばっしと叩いた。
「まあ嬢ちゃんのことは、コレが引き受けるからな。お前さんは安心して他のこと考えてていーってモンだ」
「え?えと」
「うん、今度ばかりは監督に賛成」
むせかけた蓮が涙目気味に言えば、体を捻って振り返ったままの社がやけにしみじみ頷く。
「ク…蓮君は、ほんとにキョーコちゃんが大好きなんだねえ」
「ええ、それはもう」
臆面もない答えにさすがアメリカン、と呟く声が洩れ聞こえる。日本の少女の方は、かわいそうなくらい真っ赤になっているけれど。
「英語の会話でよかったかも…」
社はタクシーの運転手へと視線を流して苦笑した。それから、
「まあ、それはともかく」
実際的な表情に戻り、後部座席の3人をひとわたり見渡す。
「これで、東京での用は終わったんだよね?明日は予定通り京都へ移動、ってことで大丈夫かな」
「はい」
「よろしくお願いします」
蓮が頷き、キョーコが座ったまま可能な限りで頭を下げる。俄かに緊張を湛えた肩の線を見て取り、青年は端整な顔を曇らせる。
「キョート!キョート!楽しみだなおい!!」
「はいはい」
はしゃぎ出すマカナンを一言で片付け、彼は少女の頭にぽんと手を載せた。
「この姿なら、俺がキョーコちゃんの保護者役できるよね」
「え…そのために?」
「それも理由のひとつ。でもさっきキョーコちゃんが俺にすぐ気付いてくれて、ちょっと嬉しかったな」
「あー、ありゃちっとビックリだったな。愛の力ってヤツか?」
映画監督は懲りずに茶々を入れる。
「あ、愛って」
またしても真っ赤になってしまった少女は絶句と同時に両手をぶんぶん振り回す。
「そんな、そんなのじゃなくて!あの、だって。クオンとまるっきり同じだったから!!」
「え」
「何が」
はたき落とされた愛のゆくえはともかく、尋ねるマカナンに彼女は拳を握って力説し始めた。
「身長とか体格とか動作とか、腕や脚や指の長さとか肌の色つやとか筋肉のつき方とか、ぜんぶクオンと一致したんですっ」
「…えーと…あー。そー言や嬢ちゃん、なんつーの、マイスケール?そんな特技持ってたな…」
中央で固まる蓮を面白そうにも気の毒そうにも見遣り、映画監督は曖昧に笑うのだった。
こどもキョコさんはまだ骨とか言い出さない模様(笑)。
「う、うん」
軽く屈んで言う蓮から、封筒を抱えたキョーコはタクシーの車窓に張り付くようにして距離を稼ぐ。青年は困った顔でそれを眺めたが何も言わず、もとのように座り直した。
「嬢ちゃんは親孝行だなー、感心感心」
キョーコとは反対側、運転席の後ろにいるマカナンが口を出すが、やけにニヤつく顔は隣の青年に向いている。
「え…」
蓮が嫌な顔をする間もなく、少女は茫然と呼ぶのが近い表情を映画監督へと向け、そのあとゆるゆると視線を落とした。
「そんなこと、ないです」
硬い声に、助手席の社が振り返る。この場で唯一事情を知らない人物ではあるが、アルバイト勤務がローリィ宝田の目に止まるだけあって明敏なたちであるらしい。しかも気遣う視線がやわらかく、押し付けがましくないあたり若いに似ず人物ができている。
それに励まされたか、キョーコはどうにか微笑と呼べるものを作って顔を上げた。
「わたし、いま、幸せだから。だから、お母さんのことだけほっといちゃいけないって気がするんです」
「そっか」
マカナンが軽く頷くが、瞳には一瞬だけ複雑な色が過る。
「そりゃ、いいことだ」
むしろ自分に確認するように言い、中年男は隣に座る青年の背中をばっしと叩いた。
「まあ嬢ちゃんのことは、コレが引き受けるからな。お前さんは安心して他のこと考えてていーってモンだ」
「え?えと」
「うん、今度ばかりは監督に賛成」
むせかけた蓮が涙目気味に言えば、体を捻って振り返ったままの社がやけにしみじみ頷く。
「ク…蓮君は、ほんとにキョーコちゃんが大好きなんだねえ」
「ええ、それはもう」
臆面もない答えにさすがアメリカン、と呟く声が洩れ聞こえる。日本の少女の方は、かわいそうなくらい真っ赤になっているけれど。
「英語の会話でよかったかも…」
社はタクシーの運転手へと視線を流して苦笑した。それから、
「まあ、それはともかく」
実際的な表情に戻り、後部座席の3人をひとわたり見渡す。
「これで、東京での用は終わったんだよね?明日は予定通り京都へ移動、ってことで大丈夫かな」
「はい」
「よろしくお願いします」
蓮が頷き、キョーコが座ったまま可能な限りで頭を下げる。俄かに緊張を湛えた肩の線を見て取り、青年は端整な顔を曇らせる。
「キョート!キョート!楽しみだなおい!!」
「はいはい」
はしゃぎ出すマカナンを一言で片付け、彼は少女の頭にぽんと手を載せた。
「この姿なら、俺がキョーコちゃんの保護者役できるよね」
「え…そのために?」
「それも理由のひとつ。でもさっきキョーコちゃんが俺にすぐ気付いてくれて、ちょっと嬉しかったな」
「あー、ありゃちっとビックリだったな。愛の力ってヤツか?」
映画監督は懲りずに茶々を入れる。
「あ、愛って」
またしても真っ赤になってしまった少女は絶句と同時に両手をぶんぶん振り回す。
「そんな、そんなのじゃなくて!あの、だって。クオンとまるっきり同じだったから!!」
「え」
「何が」
はたき落とされた愛のゆくえはともかく、尋ねるマカナンに彼女は拳を握って力説し始めた。
「身長とか体格とか動作とか、腕や脚や指の長さとか肌の色つやとか筋肉のつき方とか、ぜんぶクオンと一致したんですっ」
「…えーと…あー。そー言や嬢ちゃん、なんつーの、マイスケール?そんな特技持ってたな…」
中央で固まる蓮を面白そうにも気の毒そうにも見遣り、映画監督は曖昧に笑うのだった。
こどもキョコさんはまだ骨とか言い出さない模様(笑)。
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