お手製爆弾〈前編)

 困った。
 俺は心底弱りきって、片手で顔を覆う。掌に溜め息を吐き出せば、指の間から洩れていく空気が生温かくて不快を催した。
 それは多分に気分のせい、今抱えてる問題のせいであって、八つ当たりに近い感情だと自分でもわかっているけれど。
 『うん、だからね』
 昼休憩の時間中、理科準備室にいた時だ。廊下から聞こえた声に、次の授業の準備をしていた俺はすべての注意を持って行かれた。それはキョーコ、教師である俺と秘密の交際をしている女生徒の声だったから。
 友達と話しながら歩いているのだろう、屈託のない調子で彼女は言う。
 『爆弾を作ってみようと思うの』
 「!!?」
 俺の受けた衝撃と来たら。
 成績優秀品行方正、今時珍しいほど礼儀も言葉遣いも正しい最上キョーコが、こともあろうに爆弾を作るなどと言う。
 『ふーん。アンタもマメねえ』
 彼女の親友、琴南奏江がさらりと流すから、余計に混乱してしまった。
 彼女には何か鬱屈があるのか、琴南さんはそれを聞いているのか。もしやそれは、俺に関係することなのか。もしそうなら、俺はどうしたらいいのか。
 お蔭でその後は授業にも身が入らなかった。教壇で何を話したかもろくに覚えていない2コマの授業を終えたあと、職員室を避けて理科準備室に戻り悶々と考えていたけれど…やはり答えは出ず。
 とにかく、彼女と話すべきだと放課後を待った。



 「最上さん」
 生徒なんて恋愛対象になるわけがないと思っていた俺の心をいつの間にか占拠していた女の子の名前を、他人行儀に俺は呼ぶ。仕方ないことだ、ここは学校なんだから。
 「明日、日直だよね?ちょっと明日の授業の準備を頼んでおきたいから、理科準備室に来てくれるかな」
 少々苦しい理由をつけて教室から連れ出し、ほぼ俺が独占している部屋に入る。
 素直について来たキョーコは、棚に並ぶ標本に背を向けて首を傾げた。
 「準備って、何が要るんですか?」
 彼女は声も仕草も、とても可愛い。惚れた欲目ばかりでもないはずだ。 
 「ああ、うん…」
 伸ばしてしまいそうになる手を腕組みに封じ、生返事を返した。
 「まあ、座って。それは口実で、本当は君と話したかったから来てもらったんだ」
 「え」
 キョーコがすこし頬を染める。勧めた椅子に掛けながら上目遣いに俺を見る、潤んだ瞳。その破壊力を、彼女はちっともわかってないから始末が悪いんだ。
 組んだ腕に力をこめ、ついでに腹に息を溜めて。俺は彼女の瞳を見返した。
 「ねえ、キョーコ」
 「は、はい」
 二人きりの時の呼び方で呼ぶと、キョーコはますます赤くなり、誰もいないのに周囲を見回す。不覚にも、少し頬が緩んでしまった。
 いけないいけないと顔を引き締め、改めて瞳を合わせる。
 ためらう気持ちは、まだ振り切れていない。だけどこのままにもしてはおけない。
 「君、なにか悩みがあるのかな」
 尋ねる俺に、彼女ははっと息を飲み目を瞠った。ああやっぱり、と思いながらもう一つ尋ねる。
 「…もしかしてそれは、俺に関係してる…?」
 一杯に見開かれた大きな目の中、きれいな瞳が窓からの西日を受けてきらめいた。
 「ど、どうしてそれを」
 
 



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 ハイこちらはりんご様のリクエストです。2回の予定。
 「教師蓮と生徒キョコ。優等生のキョコが突然素行不良となり、見かねた担任の蓮が懸命に生活指導〈超要約」というものだったんですが、なんかちょっと違う…
 いやもう、物語は生き物でござりましてな。思ったとおりに行くとは限らないのですよこれが。
 …すんません。とにかく、後編も頑張ります。


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