たいせつでたいせつで(19)

 「よう、チビズリ。久しぶりだな」
 メガホンで肩を叩きながら皮肉っぽい笑みを浮かべる男に、クオンは臆せず視線を返した。
 「その呼び方はやめてくださいとお願いしたはずですが」
 「そんな、3年も前のこたあ忘れたな」
 「覚えてるじゃないですか」
 言ってやると、男はゲラゲラ笑い出す。この人は相変わらずだなあ、とクオンは思ったが、以前ほど不快ではないこともまた感じていた。
 デニス・マカナン。映画『エングリン』の監督であり、3年前には別の映画でクオンの演技に納得せず首にしたという経緯を持つ。性格はバンカラ系と言うか豪快ではあるが少々ガラが悪くアクが強い。その代わりに一度見込むと面倒見がいいと言われているらしいが、クオンにはあまり実感がなかった。
 「お前、ちょっと感じが変わったな」
 笑い収めるといきなり言われ、少年は何となく自分の体を見下ろす。
 「背え伸ばしやがって…じき俺を抜きそうじゃねえか、ナマイキな。お前まだ15だったろ」
 「え?ええまあ。でもそんなこと言われても」
 変わったとはそんなことかとクオンは何やらがっかりする。マカナンがまた笑った。
 「いいけどよ、撮影期間中にあんま伸ばすと衣装係が泣くぞ」
 「はあ…」
 それこそ無理難題だ。眉を下げる少年を映画監督はニヤニヤ覗き込み、
 「ま、精々頑張って、今回は最後まで残ってくれや」
 妙にあっさり言って立ち去ろうとする。クオンは、半分背中になった映画監督を思わず呼び止めていた。
 「…あの!どうして今回、また俺を採ってくれたんですか」
 耳の底には、目の前の人物の声が残っている。肩をすくめて両手を挙げ、彼は言ったのだ。
 『ダメだな…お前、もう来なくていいよ』
 わずかながら肩を緊張させる少年に、マカナンは冷やかすような口調はそのまま、しかし笑って返した。
 「そりゃあな。ただの美少年に魂が入ったとなりゃ、使ってみたくもなるだろよ」
 「魂…」
 意外な言葉に、クオンはぼんやりと繰り返す。すると相手は肩から彼に向き直り、またしても悪い笑みを浮かべた。
 「執着つった方がわかりやすいか?今のお前なら、来るなってった途端あっさり来なくなることもなさそうだったんでな。
 「…お前、なんか大事なモンできたろ」
 「!」
 少年が棒立ちになる。オーディションの際の演技テストだけでどこまで見抜かれたのか、と狼狽と羞恥に頬を染める。
 「なるほど、親父とは違うな。思春期との違いかも知れんが、お前の親父だったら今頃オンステージになってる」
 面白そうに言われ、クオンは悔しいやら、確かに父なら“大事なもの”即ち妻子自慢爆裂のシーンだろうと納得するやら。
 そんな様子を眺め、マカナンはとうとうニヤニヤのまま今度こそ立ち去って行った。




 暗い中庭に、風に煽られたかがり火が躍る。土色の城壁の上に、不気味な…不吉な影を落として。
 『しかし王は現れるのだ』
 縄を受け地面に膝をつかされたまま、詩人は昂然と言い放った。旅暮らしに引き締まった痩躯の放つ豊かな、深い声。それに相対する大兵の騎士が興げに唇を歪める。
 『さすがの声だな、“放浪の賢者”よ』
 投げつけられた皮肉へ、虜囚は静かに言葉を返した。
 『我が身に称号など不要、ただ“うたびと”とお呼び戴きたい』
 『ふん…ではバルドイよ、今一度問おう。お前のそのまなこは見ぬか。王は現れるのではなく、既に現れたのだと。そして…
 『いま、お前の前に立つのだと』
 『……』
 ゆるゆるとかぶりを振る青衣の男に、騎士は苛と片眉を跳ね上げた。
 『卑しく頑迷な渡り鳥よ。彼岸のみ追い求めて此岸を見ぬならば、お前にまなこは二つも要るまい』
 ぎらり。と、抜き放たれた銀の短剣が火灯りを弾く。あたたかい色合いであるはずのそれが、ひどく冷たく感じられた。
 『ならば、ひとつは我が神、傷死を好むエススに献上してもらおうか』
 明確な脅しの言葉に、それでも詩人の瞳は揺るがない。少年の叫び声が上がった。
 『お師匠様ッ     !!』



 「ねえ、あなたクーの息子なのよね?ポスターで見たわ、この前の、ほら、虐待防止のやつ」
 休憩に入った途端に近寄って来た少女を、クオンは少しばかり無表情に見返した。
 各地を巡る吟遊詩人師弟の行く先々に現れる謎の少女メルヴェイユ役の…確か名前はミザリア・ラズモ。緩く巻く黒髪に金色の瞳、どこの血が入っているのかさっぱりわからない感じのきつい顔立ち。なにか蓮っ葉な物言いからして、苦手なタイプだと彼は思った。そもそも、触れて欲しくないところをいきなりわしづかみにされて不快が先に立つ。
 「そうだけど…」
 「あんまり似てないのね。でもすっごく綺麗な顔」
 不躾に覗き込まれた。反射的に避けると、少女はにったり嫌な笑い方をする。
 「あら、うぶね。可愛い」
 「…」
 クオンはますます苛立つ気持ちを宥めるために、ミザリアにキョーコを重ねてみようとした。無理だった。黒髪という他に何一つ共通点がない。
 (キョーコちゃんの方がずっと感じがいい…)
 などと思っているのに、相手の方は獲物を狙う鷹の目になって来ている。果たして言った。
 「ねえ、あなた気に入っちゃった。これから、なかよくしましょうね…」
 “なかよく”を変に強調し、ふふふと笑う紅い唇。クオンは心中、困ったことになったと嘆息した。
 


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 監督の名前に2時間くらい悩むわ、劇中劇の設定にハマるわで31日のうちにアップできませんでした。昨日は結局飛ばしてなかったな…うそこきでスイマセン;
 監督の名前、辞書片手にああでもないこうでもないと迷った挙げ句、もう何でもいいやとテキトーにつけてしまった…迷ってつけた名前ってバランス悪くなることが多いなあ。ちぇ~だヨ。
 あ、マカナン監督はだいたい黒崎監督のイメージです。私の好みから言うと喋りすぎで、もっと含みを持たせたいところなのですがオリキャラなのでわかり易く。

 しかし、いつまで経っても文章表現ちうのは難しかね。もっと上に行きたい!!
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