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PLAN-E(後編)

 「えええ、モー子さんっ…あれを、敦賀さんに見せちゃったの!!?」
 目指す方向から轟く声に、足早に歩を運んでいた長身の俳優はひっそりと苦笑を浮かべた。
 「なかなかの声量ですね」
 傍らを歩くマネージャーに同意を求めれば、同じような苦笑が返る。
 「まあな。だけど琴南さん、キョーコちゃんに今話したのか…大丈夫かな」
 危ぶむ言葉に、蓮は軽く肩を揺すって非同意を示した。
 「最上さんは彼女にまるで弱いですからね」
 「ああ、なるほど。お前とは大違いだな」
 「……」
 眼鏡のマネージャーの指摘は鋭い。無言になった蓮はわずかに足を速め、目的のドアの前に立った。じゃあ俺は用を済ませて来ると更に廊下を進む社に頷き、右の手をすいと持ち上げる。目線は自分の左手へと落とし、唇に企みとある種の満足を載せて。
 「で、でも大丈夫よね。具体的な名前は出してないんだし…」
 こんこん、とノックすれば、中の話し声がぴたりと止んだ。どうぞの声にノブをつかみ、戸口に立つ。
 「やあ、最上さん。今日も元気がいいね?話し声が外まで聞こえたよ」
 「は、あの、ここここんにちはでございます敦賀様」
 「お疲れ様です。私は仕事がありますのでこれで失礼しますけど、どうぞごゆっくり」
 「ありがとう、琴南さん。君もお疲れ様」
 「も、モー子さ」
 気を利かせたのか逃げたのか、琴南奏江はさっさと出て行こうとする。キョーコは親友の背中を、あうあうともの言いたげにしかし蓮を憚って何も言えずに見送るばかりだ。俳優はそれと知りながら、苦笑ひとつを以て黙殺した。
 「ところで、最上さん。敦賀様って何かな?ずいぶん他人行儀だね」
 「え」
 びしりと凍りつくのをあくまでにこやかに眺め、その長脚を活かしてさっさと距離を詰める。余人ならばずかずかと、と表現されるところだろう。
 「いえあの、他人でございますし。ここ後輩めの敬意とお受け取り下さりたく」
 「敬意ねえ。隔意じゃないならいいけど」
 「め滅相も」
 もはや脊椎反射かのように逃げようとする少女の進路を彼は目線ひとつで的確に塞ぎ、左の手に携えていた紙束をすいと掲げて見せた。
 「これ、読ませてもらったよ」
 はう、と引き攣った呼吸音を洩らし、キョーコが棒立ちになった。しかし彼は委細気にせずに我が言を続ける。
 「なかなか有意義だった…特に俺にとって、ね」
 「は、あの、お、オソレイリマス…敦賀大先輩ニオカレマシテハ愚鈍ナル後輩の妄言ニ等シキ空論ヲ」
 「いやいや、とんでもない。具体的で的確で示唆的だったよ」
 カクカク喋る少女に意味ありげな視線を送ると、相手の開いたまま凍りつく口の中までがすこし白くなった気がした。
 「も、申し訳」
 言いかける唇を、蓮はそっと指で押さえる。
 「!?」
 「どうして謝る?俺は褒めてるのに。ただ…」
 ふむ、と喉の奥で唸り、彼はふと目線を上げた。
 「リサイクルの現状とか、少し置き去りにされてる気はしたかな?たとえばペットボトルが資源ゴミとして回収されて、実際にどの程度リサイクルされてるのか、とか…リサイクルの工程に必要なエネルギーがどれくらいなのか、とか」
 「は、はい。その辺りは少々資料が足りなかったので…これからもう少し調べようと思っておりまして」
 「ああ、これで完成じゃないんだ。そうだね、最上さんは凝り性だから。とことん突き詰めて行くんだろうな」
 「お、恐れ入ります…?」
 蓮が何を言いたいか測りかねているのだろう、キョーコは用心しいしい彼を見上げる。大きな瞳に自分が映っているのを確かめた俳優はひとつ頷き、たいそう甘く微笑んだ。
 「じゃあ、そのあたりの踏まえて…理論もだけど、実践も頑張らないとね」
 「それは、そうです、ね」
 「うん、二人で頑張ろう。ずっとずっと、一生」
 「はあ、二人で一生…へひゃい!!?」
 後輩の奇声には耐性があるらしい。蓮は微笑を小揺るぎもさせずに聞き流し、宙に浮いている小さな手を取った。左の手を。
 「昨日の今日では間に合わなかったけど、指輪もすぐに用意するよ。楽しみにしてて」
 「な、あ、え…ああああの、敦賀さん!?何のお話を」
 「だから、実践の話」
 「実践って…ですが、今何だかおかしなご発言を伺ったような」
 「それは変だね。俺は、君への返事をしただけだよ」
 えーと、と少女が細い眉を寄せる。ちらちらと蓮の手に握りこまれている左手を気にするが、俳優はいっかな離そうとはしなかった。
 「あの、返事、と仰るのは…?ワタクシ何かお尋ねした覚えがございませんが」
 ぼしょぼしょ尋ねられ、蓮はここが勘所とばかり笑顔を深め強めた。
 「だって君、こんな提案をしてくれて」
 「そそそれは」
 「嬉しかったよ」
 「は!?嬉し、って」
 「うん、とても」
 大混乱に陥るばかりのキョーコの手を引き上げて唇をつけ、優しく大きな瞳を覗き込む。
 「俺も、少し興味が出て調べてみたんだ。そのうちに、このレポートが生活を共にする人間の目線で書かれてることに気がついた。君は俺との未来を思い描いてくれてるんだ、ってね」
 「はいい!?」
 抗議と疑問と悶悩を凝縮した一声。蓮が笑い出しそうな顔をする。
 彼女は、素直に律儀にものを見る。人にとって基本的な、プレーンな感覚でもって彼の世話も焼いてくれるから。きっと彼が人であるために必要なのだと蓮は思う。
 だから逃がすわけには行かない。彼のエネルギーはここにある。
 「地球と同じくらい、大事にするよ」
 後輩タレントの声量ゆたかな雄叫びが炸裂する前に、彼はそっとその唇を塞ぐのだった。





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 ふ、深く考えないでつかーさい…


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