妙法蓮華(1)

 「ああ…構わない」
 素っ気無く言ってぱたりと携帯を閉じたヴォーカルに、長髪のドラムスは少しばかり怪訝そうに問いかけた。
 「何だ、やけにご機嫌だな…レイノ?」



 「レーイノくーっん、おっつかれ~」
 歌番の収録後、やけに早足で控室に戻ってしまったレイノに、いつも通りギターとキーボードがコロコロ慕い寄って来る。しかしヴォーカルは反応を示さず、私服のポケットから引っ張り出した携帯に見入っていた。
 「あれ?どうしたの、何か連絡待ち?」
 「ひょっとして、霊界からの通信とかっ」
 「ひゃーカッコいいー!わかった、俺たち邪魔しないよっ」
 勝手に盛り上がり、口を押さえ合うバンドメンバーは放置のまま、レイノは秒読みをするように唇を動かしている。ふと、その動きが止まった。その瞬間、
 『せい~そんみょお~そお~ぐ~(世尊妙相具)…』
 朗々とこぼれ出す仏法の光。
 『が~こんぢうもんぴ、ぶっし~が~いんねん(我今重問彼、仏子何因縁)』
 「聞き覚えのないお経だな…」
 「観音経(後半)だ」
 ベースの言葉に答えたのはよほど機嫌がいいためか。レイノはぽいと言って携帯を開く。
 「観音、ね。女だな」
 横で呟くミロクにうすい笑みを投げ、通話ボタンを押し込んだ。
 「はい」
 途端に、先程までの力強くも穏やかなひびきとは似ても似つかない大音声が響き渡った。
 「ちょっとアンタ、どういうつもりなのよっ!!!?」
 キ      ン!
 右から左へ抜けていくジェット噴流に、ビジュアル系バンド“ビー・グール”のみなさんは体をナナメにして耳を押さえた。
 「どういうつもりとは?」
 平然どころかかすかに嬉しそうなヴォーカルが信じられない。
 「い、今の破壊音波…」
 「似非天使?」
 「らしいな」
 ほしょほしょ言い合うメンバーを尻目に、レイノはごく淡々と通話を続ける。
 「先にこっちに連絡があったからな。教えていいと言った」
 「俺は何もしていない」
 「冥土は地獄じゃないぞ」
 一体何の話なのか。しかも相手は京子、女優としてまたタレントとして次第に名を上げて来てはいるが、彼らの目から見ればレイノの執着する相手としては今もって全く不適切にしか思われない。異能のヴォーカルを“選ばれし者”と賛美するビー・グール・フィルターとでも呼ぶべきか。
 「…どうした」
 突然、レイノが口調を変えた。
 不満そうに耳をそばだてていた仲間たちの見守る中、線の細い美貌が俄かに緊張を湛える。最高級のピジョン・ブラッドもかくやという紅唇がはっと息を呑み…
 女より白く長い指が瞬速の勢いで終話ボタンを押した。
 「……」
 通話の切れた携帯電話を握り締めるレイノの端整な顔に、常に似つかぬ狼狽の色。
 「??」
 「どしたの、レイノ君」
 てんでに首を傾げる他メンバーの中で、ドラムスだけが『ライオンか…』と謎の言葉を零した。
 それを嫌そうに見遣り、ヴォーカルは長い息をつく。と思うと、唇にじんわりと昏い愉悦を浮かべ始めた。
 居並ぶメンバーの顔を見渡し、
 彼は、呟くほどの声で言う。
 「“京子”と組むことになったぞ…」



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 H様より戴きました20000打のキリリク作品です。当ブログの過去作も踏まえて下さった嬉しいリクは「レイノの着ウタ「観音経(キョーコの番号に設定したもの)」」「キョーコにちょっかいを出すレイノ・ヘタ蓮はどう絡むか」(要約)、さてちゃんとお応えした上で楽しんで戴けますか。頑張ります!
 
 あ、そんで、タイトルは(仮)ということでお願いします。イマイチいいのが浮かばなくて…
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