真名
<R>
名前を、呼ぶ。
「おはよう、最上さん」
君の名前。君をあらわし、かたちづくる記号。君の真実。
の、一部。
「おはようございますっ、敦賀さん!」
先輩に先に挨拶させてしまうなんて、とばかり慌てた声が返って、俺は微笑む。いつも通りに綺麗な仕草で下げられる頭のてっぺんにくちづけたい気持ちを押し隠して。
「今日もよろしくね」
「こちらこそ!」
「撮影準備はまだ済んでないみたいだね…」
セットの組まれているスタジオの中央に視線を流せば、背後から別の声がする。
「あ、キョーコちゃん。おはよう」
「おはようございます、社さん」
「ありがとうございます」
自販機に行ってくれていたマネージャーから水のペットボトルを受け取る時、必要以上に笑顔になっていたかもしれない。社さんが妙に青ざめてあとじさったから。最近、彼はこうなのだ。俺の表情をいちいち測って反応するから、少しやりにくい。
敦賀蓮の名前に関わるからヘタレもほどほどに、と言ったのは社さんなのに。だから、気軽に下の名前で呼べる立場が少し羨ましいなんて、隠してるのに。理不尽じゃないかな?
俺はこっそり溜め息をつき、理不尽のもとに目を移した。
視線に気付いた彼女が屈託なく微笑む。ああ、こんなところでそんな顔しないでほしい。誰が見るかわからないのに。
本当に、いつなんだろうね。
俺が何の躊躇いも衒いも飾りもなく、より君の本質に近い名を呼べる日は。
それが実際のところ、かなりの部分は俺の心の問題なんだとはわかっているのだけれど。
<K>
名前を、呼ぶ。
「おはようございますっ、敦賀さん!」
大先輩。演技者として、人としても尊敬するヒトの名前を。
おかしな調子にはならなかったわよね?いつも通り優しく微笑んでくださるもの。私がどんな気持ちでこの名前を綴るかなんて、気付かれてないはず。
「今日もよろしくね」
うん、大丈夫よ。大丈夫。
「こちらこそ!」
張り切って答えれば、仕事熱心な先輩俳優はセットが組み立てられているスタジオの中央を見やる。
「撮影準備はまだ済んでないみたいだね…」
その瞳は私なんか見てなくって。少し、ほんの少しだけ胸がちくんとした時、敦賀さんの後ろに見慣れた人影が現れた。
「あ、キョーコちゃん。おはよう」
「おはようございます、社さん」
眼鏡の敏腕マネージャーさんは担当俳優さんに水のペットボトルを渡して、どうしてかちょっと身を引くような動作をする。どうしたのかしら…と思って見た敦賀さんの微笑に納得した。
ななな、何か怒っていらっしゃるー!!?
だって、こんなキラキラの、ちくちく突き刺さる笑顔。なんで急に!?私何かしたかしら!?
内心縮み上がってしまったけど、先輩は小さな息をついて普通の顔に戻る。ちらとこちらを向いた端整なお顔にもう怒りの色は見えなくて、ほっとして私の顔が緩んでしまった。
そしたら…
なんだろう、何か…切ないみたいな色が綺麗な綺麗な瞳を通り過ぎて。
胸が、痛くなった。思わず名前を呼ぼうとして、だけどどうしてか、真実がそこにない気がして…ああ、敦賀蓮は芸名だって、前に仰ってた…私は、本名なんて存じ上げないから。
ただ黙って、ほんの少しだけ唇を噛んだ。
本日はわをん様のリクエスト作品です。内容は「蓮キョで両片思いの焦れ焦れちょい甘」ですが…
な…なってますか…?
ところで、風邪はだいぶよくなりました。一旦ひくと長いので今後も気をつけようと思いますが、いかんせん締め切り期…くうっ。なんという時期に体調を崩すのだ私のアホタレ~。
名前を、呼ぶ。
「おはよう、最上さん」
君の名前。君をあらわし、かたちづくる記号。君の真実。
の、一部。
「おはようございますっ、敦賀さん!」
先輩に先に挨拶させてしまうなんて、とばかり慌てた声が返って、俺は微笑む。いつも通りに綺麗な仕草で下げられる頭のてっぺんにくちづけたい気持ちを押し隠して。
「今日もよろしくね」
「こちらこそ!」
「撮影準備はまだ済んでないみたいだね…」
セットの組まれているスタジオの中央に視線を流せば、背後から別の声がする。
「あ、キョーコちゃん。おはよう」
「おはようございます、社さん」
「ありがとうございます」
自販機に行ってくれていたマネージャーから水のペットボトルを受け取る時、必要以上に笑顔になっていたかもしれない。社さんが妙に青ざめてあとじさったから。最近、彼はこうなのだ。俺の表情をいちいち測って反応するから、少しやりにくい。
敦賀蓮の名前に関わるからヘタレもほどほどに、と言ったのは社さんなのに。だから、気軽に下の名前で呼べる立場が少し羨ましいなんて、隠してるのに。理不尽じゃないかな?
俺はこっそり溜め息をつき、理不尽のもとに目を移した。
視線に気付いた彼女が屈託なく微笑む。ああ、こんなところでそんな顔しないでほしい。誰が見るかわからないのに。
本当に、いつなんだろうね。
俺が何の躊躇いも衒いも飾りもなく、より君の本質に近い名を呼べる日は。
それが実際のところ、かなりの部分は俺の心の問題なんだとはわかっているのだけれど。
<K>
名前を、呼ぶ。
「おはようございますっ、敦賀さん!」
大先輩。演技者として、人としても尊敬するヒトの名前を。
おかしな調子にはならなかったわよね?いつも通り優しく微笑んでくださるもの。私がどんな気持ちでこの名前を綴るかなんて、気付かれてないはず。
「今日もよろしくね」
うん、大丈夫よ。大丈夫。
「こちらこそ!」
張り切って答えれば、仕事熱心な先輩俳優はセットが組み立てられているスタジオの中央を見やる。
「撮影準備はまだ済んでないみたいだね…」
その瞳は私なんか見てなくって。少し、ほんの少しだけ胸がちくんとした時、敦賀さんの後ろに見慣れた人影が現れた。
「あ、キョーコちゃん。おはよう」
「おはようございます、社さん」
眼鏡の敏腕マネージャーさんは担当俳優さんに水のペットボトルを渡して、どうしてかちょっと身を引くような動作をする。どうしたのかしら…と思って見た敦賀さんの微笑に納得した。
ななな、何か怒っていらっしゃるー!!?
だって、こんなキラキラの、ちくちく突き刺さる笑顔。なんで急に!?私何かしたかしら!?
内心縮み上がってしまったけど、先輩は小さな息をついて普通の顔に戻る。ちらとこちらを向いた端整なお顔にもう怒りの色は見えなくて、ほっとして私の顔が緩んでしまった。
そしたら…
なんだろう、何か…切ないみたいな色が綺麗な綺麗な瞳を通り過ぎて。
胸が、痛くなった。思わず名前を呼ぼうとして、だけどどうしてか、真実がそこにない気がして…ああ、敦賀蓮は芸名だって、前に仰ってた…私は、本名なんて存じ上げないから。
ただ黙って、ほんの少しだけ唇を噛んだ。
本日はわをん様のリクエスト作品です。内容は「蓮キョで両片思いの焦れ焦れちょい甘」ですが…
な…なってますか…?
ところで、風邪はだいぶよくなりました。一旦ひくと長いので今後も気をつけようと思いますが、いかんせん締め切り期…くうっ。なんという時期に体調を崩すのだ私のアホタレ~。
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