スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2

たいせつでたいせつで(141)

 「まあまあまあ、久しぶりやねえ」
 華やいだ口調の女将に、キョーコはご無沙汰していますと頭を下げた。
 旅館に隣接する不破邸、座敷に客として通されたのは初めてのことだった。
 「もう3年近うなるんやね、冴菜はんがあんたはん連れてアメリカ行かはって…」
 しみじみ言うと、老舗旅館の華は和服の膝に目を落とした。
 「うちでも時々噂してたんえ。二人ともどないしてはるやろな、元気やろかゆうてな。そしたらまあ…」
 やわらかい声は皆まで言わず、小さなため息に変えられた。
 「女将さん…」
 キョーコがそっと呼ぶ。自分は大丈夫だと知らせたいのか、その話にはあまり触れないでくれと言いたいのか自分でもはっきりしなかった。無論この女性、優しいだけの人ではない。海千山千、古都の化身のようなしなやかな強かさをも持ち合わせている。そう、はんなりと。それでも、幼い頃を養ってくれた恩もあり、キョーコにとって大事な人物に違いはなかった。
 「せやけど」
 女将は気を取り直す様子で顔を上げ、にこりと華やかな笑みを浮かべた。
 「冴菜はんは果報もんやね。こないええ子を持たはって羨ましいわ。うちのあほ坊ンとトレードしてもらいたいくらいや」
 わざとだろう、軽い口調で言った時、障子がすぱんと音を立てた。
 「あー俺だってそれで構わねえよ」
 足で障子を開けたショータローが両手で盆を抱えて憎々しく言い放つ。
 「これ、あんたはんはまた…」
 女将は動ぜずに咎め立てる視線を流す。わざとらしく額に手を当て嘆いてみせた。
 「ああもう、うちにはわからんわ。なんでこないに行儀悪う育ったんやろか?一緒に育ったキョーコちゃんはそらもう行儀がええのに」
 「知るかよ、キョーコがヘンなんだろ」
 ショータローはあくまでふてくされた様子のまま、どかどか卓に近づいて乱暴に盆を置く。がちゃんと揺れたグラスから香ばしい麦茶が跳ねて向かいにいた蓮の胸元へ飛ぶ。
 「おっと」
 大きな手が掬い取るように水滴を受け止めた。
 「まあ、敦賀はん」
 女将が慌てて腰を浮かす。職業柄、名前を覚えるのは得意らしい。
 「大事おへんか」
 懐紙を取り出し蓮へ渡す間に、息子の方はちょろりと逃げ出して行った。
 「えろう粗相して…ほんまにあの子は」
 「ああ、大丈夫ですよ。服にはかかってませんし」
 謝る影で開いたままの障子を睨みつけるのを見てしまった青年は苦笑するほかない。女将は軽く頭を下げると、キョーコに向かってちらりと笑顔を見せた。
 「優しい、ええお人やねキョーコちゃん」
 「は、はい」
 しかし子供の頃から彼女の顔色を見て暮らして来たキョーコには、そこに測る色が混じっているのが見て取れる。緊張気味に同意を返すと、女将は小首を傾げて少女を見た。
 「さっき、アメリカでお世話になってた家の人ゆうてたけど」
 「は、はい。その、そうなんです」
 「せやけど、今はキョーコちゃん別の家で暮らしてるんやよね?うちもキョーコちゃん引取りたかったのに、里親できたゆうて断られてしもたし」
 「えっとあの、すみません。せっかくのご好意を」
 なにか、切り出しにくいうちに話がどんどん本題から外れて行く。女将は何を言いたいのだろうか?
 あせるキョーコに、彼女はにこりと微笑んだ。
 重圧的に。
 「そんでもここまで連れて来るてことは、もしかしてええ人なん?」
 「はあ」
 さっき、自分の口で蓮をいい人と言ったではないか。どうして繰り返すのかと戸惑うキョーコに、女将は“はんなりと”付け加えた。その瞬間、脳に意味が届く。
 「えらい綺麗な毛唐はんやけど」
 『ええっ!!?』
 時間と意味の違う驚愕が、清らかな座敷にぽんと弾けた。






 
  web拍手 by FC2
 
 


 ネットブックうーちーにーくーいーーーーー。ああ腹が立つ。


関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

>きい様

 もちろん存じております。誤変換等のうっかりミスならいざ知らず、語句に関して故意に使っていないものはひとつもありません。文章とは常に精髄であるべきであり、浅学非才の身とて及ぶ限りはそこへ近づくべく努めねばならないと思っております。よって常に己の持つ全語彙の中からストーリー・キャラクターの要求する最適な(と思われる)語句を選び出して綴っておりますこと、不遜ながら明言させていただきます。
 今回の語句に関しても、これは次回への前振りとなっておりますので、ご指摘については少々お待ち戴きたかったというのが正直なところです。
 つまるところ訂正や注釈を行う意思はございません。どうぞ悪しからず。

No title

突然失礼します。

最近こちらを知り、作品を少しずつですが拝見しております。
作者のキャラクター達への愛情を感じ、ほっこりする作品なども多く楽しみに拝見していますが、ちょっと気になったので一つ。

「毛唐」
これはわざと使われているのでしょうか?
欧米人種の方への蔑称だというりはご存じですか?
現代の日本では、「差別用語」としても認識され、「放送禁止用語」ともなっています。
それを承知でストーリー上必要とお考えなのか、それであればその語句に関して一言使用した経緯などを添えられた方が良いと思い、勝手ながら書かせていただきました。
検索フォーム
作品一覧
サイト「花うてHP!」トップよりブログ内の作品のリストに飛べます。閲覧者の皆様のアクションに対して加算させて戴く「花うてポイント」の説明・管理もこちらよりどうぞ!

作品リスト(サイトトップ)

アクセス

・メールフォーム

・BBS

リンク

◆リンクページ


◆当ブログへのリンクについて

当ブログはスキビコンテンツをお持ちのサイト様に限りリンクフリーといたします。


ブログ名:花のうてな

管理人名:みなみ なみ

URL:http://hananoutena.blog14.

fc2.com/


 ↓各ジャンルごたまぜの本サイト。

↓スキビの同人誌作品をブログ記事として収載・販売しています。(2014年7月までで更新停止)

 ↓BUD BOY二次です。


  • 管理画面
  • RSSリンクの表示
    QRコード
    QR
    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。