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フォルトゥナタ(6)

 市の中心部へ入る前に、クオンティヌスは厩舎つきの宿屋に馬を預ける。彼の父ならば身分から言ってローマ市中で輿を使うこともできるが、自分をいまだ一介の騎馬兵と見做している彼は、そこから先を徒歩で進むことにした。
 両側をインスラ(集合住宅)に挟まれた通りには雑多な人々が行き交い、多くの人がちらちらと彼に目線をくれる。それに特に気を留めるでもなく、悠々と歩を進めた。
 だんだん通いなれて来た道筋を辿って広場へと入り、ずらり並んだ店舗寄りにまっすぐにパン屋の店先を目指す。 不意に目の前の地面にひとかたまりの水が落ちて弾けたと思ったら、生鮮魚介を売っている2階からのものらしかった。生きたまま売られている魚が跳ねでもしたのか。色の変わったタイルを苦笑しつつ踏み越え、更に進む。
 目的の人物は、人波の途切れた間に彼を発見したようだった。
 「クオンティヌス様!?」
 なぜか驚いた声が上がる。
 「やあ。待たせたかな?」
 彼は応えて片手を挙げ、最後の距離を少し速足に詰めた。両手に荷物を抱えたウルバが数歩寄って来る。
 「いえ、そんなことは…でも、てっきり使いの方が来るんだろうと思ってましたので驚きました」
 「“ウルバ”にそんな不遜な真似しないよ。それに最近、街歩きの楽しさを覚えて来てね」
 クオンティヌスはちょっと笑って背後を振り返る。
 フォルムを埋める雑踏、人々の間に突き出た柱と頂に飾られた彫刻。広場の中央には、皇帝の大きな青銅騎馬像が見える。彼を取り巻く“生活”は、賑やかで猥雑で生命力に溢れていた。
 「えっと…そ、そうですか」
 パン屋はどう答えたものか迷うらしい。自分が尊重されていることもだが、クオンティヌス・ユリウス・イリストゥリスが気軽に街歩きなどしていていいのかどうか疑問に思うのだろう。
 「さ、行こうか。荷物はこれだけ?」
 しかし青年は頓着せず、娘の抱えた大荷物をひょいと取り上げた。ウルバが慌て出す。
 「え、あ、そ、そうですけど、あのそんな!クオンティヌス様に荷物なんてお持たせするわけには行きませんっ」
 「どうして」
 「ど、どうしてって。クオンティヌス様だからじゃないですか。返してください、私が持ちます!」
 「でも俺の方が力があるよ?」
 「そういう問題でなく!」
 ほとんどいきり立つ少女に軽く笑い、金の髪の青年はさっさと歩き出した。
 「父が首を長くして待ってるから、もう行こう?」
 「いえですから、荷物を」
 「いいから」
 青年はいかにも楽しげだ。コンパスの差からちょこちょこと小走りに追う格好になったウルバは諦めず果敢に荷を取り戻そうと試みるが、彼はのらりくらりとそれを斥けた。
 「料理にかかる前から、大事な手を疲れさせるわけには行かないだろう」
 「これくらいいつも持ってますから平気ですっ」
 相手が彼では、強引に奪い取るなどという真似もできまい。ちらと振り返るとウルバは困惑しきりという顔でうろうろ手をさまよわせている。その細い肩が、ふと背後から聞こえた声にぴくりと反応した。
 「おいキョーコ!」





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 インスラは要するにアパートですな。4階建てくらいが多く、下の階の方が設備がよくて家賃も高かったそうです。上層階特に屋根裏に住むのは貧しい人たちだったとか。


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