たいせつでたいせつで(145)

 「あ、そろそろ失礼します」
 「ああ…済まんなあ」
 時計を見たキョーコが少し慌てた風に言い出すと、女将が心得顔で苦笑した。自分が忙しくなる時間帯に近付いたために少女が気を遣ったと察したらしい。
 「そう言やキョーコちゃん、どこ泊まってんのん。なんでうちに来てくれへんかったん?」
 思い出したように尋ねられ、キョーコはすこし首を傾ける。
 「えと、すいません。でも、蓮さんのおうちに泊めて戴いてますから…」
 「敦賀はんの…?」
 「あ、はい。正しくは亡くなった祖父の家で、ここからも近いので便利かなと思います」
 口を添える蓮を、女将は今度こそ胡散臭げに見た。
 「せやかてあんたはん、男はんの住いに女の子一人引っ張りこんで…」
 「お、女将さん!?」
 「あの、別に俺1人じゃなく、他にも人がいますし」
 「どなたはんが」
 「ええと…一応引率者ということになる大人と、父の知人がつけてくれたガイドの人ですが」
 実際は1人だけ物見遊山で、などという事実は省きながら、蓮はなんとなく歯切れ悪く言う。
 「どっちか女子はんですのん?」
 「え、いえ…」
 静かになる女将の白い顔を見下ろし、彼は自分の口元を押さえた。まずったかもしれない、と思う。
 果たして、キョーコの保護者気分が抜けきっていないだろう女性は、切れ長の目を更に細めて長い弧に作った。
 「ほな、ますますあきまへんわねえ」
 にっこり。
 そんなにも意思的な笑顔を、蓮でさえ見たことがないと思った。旅館の女将というものは、もしかすると演技者以上に演技を必要とするのだろうか。
 「いや、そんな…別に何事もありませんから」
 「あってからじゃ遅いんどす」
 きっぱり言い切られ、内容的には確かにそうだと思ってしまった分、対応が遅れる。蓮が反論する前に、女将はキョーコに向き直って小さな手を取った。
 「キョーコちゃん、あかんえ。そないな…男衆ん中に女の子1人でおったらあかん。キョーコちゃんの使うとった部屋は今でもそのまんま空けたるさかい、すぐうちに移ってきいな」
 「え?いえ、あのでも」
 「な」




 ふう、と蓮の唇から気の抜けた息が洩れる。
 隣を歩くキョーコがそれに色でもついているかのように宙を見上げ、困った顔をした。
 「あの、ごめんなさい…」
 「え」
 「私、不破家にお世話になった方がよかった…?」
 「まさか!」
 何を言い出すのかと目を剥いた蓮は、自分の嘆息が誤解を与えたと思い当たって苦笑を浮かべる。
 「ごめん、違うんだ…今のは、安心したから」
 「安心?」
 鸚鵡返しに問うキョーコの不思議そうな瞳に、彼はにっこり笑って見せた。
 「うん。キョーコちゃんが俺を選んでくれて、嬉しくて。少しはキョーコちゃんにとって大事な人間になれてるかなって安心した」
 少女は幼い日々を養ってもらった恩人から彼らを庇い、信頼できる人たちだ、分けても蓮を自分は誰より信頼していると言い張ってくれたのだ。彼女の恩人の立場を失わせるような真似のできなかった蓮にとって、これは相当に効果的な援護射撃となった。
 なぜか代わりに毎日ショータローが様子を見に来るなどということになったが、ともかくキョーコを奪い取られることはなかった。
 あんたはんは意外と言い出したら聞かへんもんなあ…と溜め息をついた女将の諦めの声を思い出し、蓮は機嫌よく少女の顔を見下ろす。
 するとそこに、訝しげなしかめっ面を見てしまった。
 「え…キョーコちゃん?」





web拍手 by FC2
 
 


 こーしーがーいーたいのよーほほほい。めそめそ。あと2日で500日なんだ。絶対達成したいんだ。頼むから、起き上がれなくなるようなことにならないでくれ…!!
 いや、起き上がれなくてもベッドにネットブック持ち込んで…うむ。がんばる。



関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

検索フォーム
作品一覧
サイト「花うてHP!」トップよりブログ内の作品のリストに飛べます。閲覧者の皆様のアクションに対して加算させて戴く「花うてポイント」の説明・管理もこちらよりどうぞ!

作品リスト(サイトトップ)

アクセス

・メールフォーム

・BBS

リンク

◆リンクページ


◆当ブログへのリンクについて

当ブログはスキビコンテンツをお持ちのサイト様に限りリンクフリーといたします。


ブログ名:花のうてな

管理人名:みなみ なみ

URL:http://hananoutena.blog14.

fc2.com/


 ↓各ジャンルごたまぜの本サイト。

↓スキビの同人誌作品をブログ記事として収載・販売しています。(2014年7月までで更新停止)

 ↓BUD BOY二次です。


  • 管理画面
  • RSSリンクの表示
    QRコード
    QR