フォルトゥナタ(7)
「ショーちゃん」
少し驚いた顔で振り返るウルバに、クオンティヌスが不思議そうに尋ねる。
「君の知り合い?キョーコって…」
「あ、はい、あの」
やりとりの途中で、少女を呼び止めた若者が追いついて来た。しかしその目線が、ちらちらと金髪の青年を気にしている。
「あ、今日、お邸でお料理を頼まれてて。迎えに来て戴いたの」
「って…こいつまさか、クオンティヌス…様かよ!?」
「ショーちゃん、こいつなんて…」
「その通りだけど」
到底慣れているとは思えないが、クオンティヌスはこいつ呼ばわりは綺麗にスルーしてにっこり頷く。
「君は?彼女に用なら、手短にお願いできるかな」
と思いきや、しっかり怒っているようだ。キラキラの笑顔に気圧されたように背を反らし、ショーは寸時言葉を切った。
「そうよ、どうしたのショーちゃん。あのお菓子なら、ゆうべたくさん渡したでしょう?」
「あ、ああ。それがな…ラニスタの野郎に巻き上げられちまったんで、もっかい欲しーんだよ」
「えー…次の仕込みが終わらないと作れないもの、今は無理よ」
あっさり言われて、若者はしぶい顔をする。
「ちぇ、しょーがねえな…それ、いつだよ」
「天気次第だけど、5日後くらいかしら。そのあと来てくれれば作っておくから」
「わかったよ…じゃ、そんくらいにまた来る」
「うん。修業、頑張ってね」
横からキョーコが口を出したので、結局クオンティヌスには若者が誰であるかの答えを得られなかった。キョーコ同様ペレグリーヌスなのか、整っているがローマ人らしからぬ顔立ちの青年が去って行くと、お待たせして申し訳ありませんと謝るウルバに首をかしげて見せる。
「彼は?ラニスタって言ってたけど、剣闘士なの?」
再び歩き出しながら、猛烈な勢いで走って来た子供の進路から娘を退けてやる。
「すみません。
「えっと、はい。まだ見習いですけど。子供の頃お世話になった家の息子さんで…今は腐れ縁の幼馴染ってところですね」
「ふうん…」
鼻の先で頷くクオンティヌスの声が、すこし冷たい。
「それだけ?」
「え?」
さりげなく付け足した言葉にウルバが首を傾げるので、彼は瞬の間だけ苦笑を過らせて更に質問を追加した。
「キョーコって呼ばれてたけど」
「ああ、本名なんです」
「え」
広場の門を潜りながら、異国娘はすこし微笑む。
「ウルバっていうのは、その名前の意味からローマっぽくつけて名乗ってるんですよ」
「そうなんだ…」
今度は爆走する荷車が二人の目の前を通過する。足を止めて振り返ったクオンティヌスが、するりと尋ねた。
「じゃあ俺も、そっちの名前で呼んでいいかな?差し支えなかったら」
「え。っと…でも…クオンティヌス様みたいな方が、私なんかに親しげになさる方が差し支えあるのでは…」
ウルバ=キョーコはぼそぼそと言いながら、困った瞳で彼を見上げる。クオンティヌスは不満そうに鼻に皺を寄せて微笑んだ。
「駄目かな?」
「い、いえ、駄目なんて!ただ…」
「じゃあ、そう呼ばせて。少し親しくなれた感じで嬉しい」
「はあ」
ですからそれが、と口の中で呟くのを聞かなかったことにして、長身の青年は先に立ってもと来た道を辿り始める。
「今後ともよろしくね、キョーコ」
強引な笑顔になっているのは自覚していたけれど、同時にひどく楽しい気分で彼は言い切った。
ラニスタは剣闘士の教官です。すごい嫌われてたって記述があったんですが、剣闘士たちにだけなのか市民にもなのかはっきりしませんでした。
少し驚いた顔で振り返るウルバに、クオンティヌスが不思議そうに尋ねる。
「君の知り合い?キョーコって…」
「あ、はい、あの」
やりとりの途中で、少女を呼び止めた若者が追いついて来た。しかしその目線が、ちらちらと金髪の青年を気にしている。
「あ、今日、お邸でお料理を頼まれてて。迎えに来て戴いたの」
「って…こいつまさか、クオンティヌス…様かよ!?」
「ショーちゃん、こいつなんて…」
「その通りだけど」
到底慣れているとは思えないが、クオンティヌスはこいつ呼ばわりは綺麗にスルーしてにっこり頷く。
「君は?彼女に用なら、手短にお願いできるかな」
と思いきや、しっかり怒っているようだ。キラキラの笑顔に気圧されたように背を反らし、ショーは寸時言葉を切った。
「そうよ、どうしたのショーちゃん。あのお菓子なら、ゆうべたくさん渡したでしょう?」
「あ、ああ。それがな…ラニスタの野郎に巻き上げられちまったんで、もっかい欲しーんだよ」
「えー…次の仕込みが終わらないと作れないもの、今は無理よ」
あっさり言われて、若者はしぶい顔をする。
「ちぇ、しょーがねえな…それ、いつだよ」
「天気次第だけど、5日後くらいかしら。そのあと来てくれれば作っておくから」
「わかったよ…じゃ、そんくらいにまた来る」
「うん。修業、頑張ってね」
横からキョーコが口を出したので、結局クオンティヌスには若者が誰であるかの答えを得られなかった。キョーコ同様ペレグリーヌスなのか、整っているがローマ人らしからぬ顔立ちの青年が去って行くと、お待たせして申し訳ありませんと謝るウルバに首をかしげて見せる。
「彼は?ラニスタって言ってたけど、剣闘士なの?」
再び歩き出しながら、猛烈な勢いで走って来た子供の進路から娘を退けてやる。
「すみません。
「えっと、はい。まだ見習いですけど。子供の頃お世話になった家の息子さんで…今は腐れ縁の幼馴染ってところですね」
「ふうん…」
鼻の先で頷くクオンティヌスの声が、すこし冷たい。
「それだけ?」
「え?」
さりげなく付け足した言葉にウルバが首を傾げるので、彼は瞬の間だけ苦笑を過らせて更に質問を追加した。
「キョーコって呼ばれてたけど」
「ああ、本名なんです」
「え」
広場の門を潜りながら、異国娘はすこし微笑む。
「ウルバっていうのは、その名前の意味からローマっぽくつけて名乗ってるんですよ」
「そうなんだ…」
今度は爆走する荷車が二人の目の前を通過する。足を止めて振り返ったクオンティヌスが、するりと尋ねた。
「じゃあ俺も、そっちの名前で呼んでいいかな?差し支えなかったら」
「え。っと…でも…クオンティヌス様みたいな方が、私なんかに親しげになさる方が差し支えあるのでは…」
ウルバ=キョーコはぼそぼそと言いながら、困った瞳で彼を見上げる。クオンティヌスは不満そうに鼻に皺を寄せて微笑んだ。
「駄目かな?」
「い、いえ、駄目なんて!ただ…」
「じゃあ、そう呼ばせて。少し親しくなれた感じで嬉しい」
「はあ」
ですからそれが、と口の中で呟くのを聞かなかったことにして、長身の青年は先に立ってもと来た道を辿り始める。
「今後ともよろしくね、キョーコ」
強引な笑顔になっているのは自覚していたけれど、同時にひどく楽しい気分で彼は言い切った。
ラニスタは剣闘士の教官です。すごい嫌われてたって記述があったんですが、剣闘士たちにだけなのか市民にもなのかはっきりしませんでした。
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