フォルトゥナタ(9)

 「はい到着、疲れなかった?」
 声さえ眩しいような人に気遣われて、キョーコはぎぎぎと首を軋ませながら振り返った。馬の背に乗せられている今、思った以上に近くにある顔をまともに見てしまう。
 男の人なのになんて綺麗な顔をしてるんだろう、と思った分、もう初の乗馬で尻が痛いとも言いだせなくなる。彼に向けるには、あまりに低劣な言葉に思えた。
 「は、はい、あの。大丈夫です」
 慌てて嘘半分に顔を逸らせば、背中でふいと風が立つ。
 「ならいいけど」
 馬を下りたクオンティヌスが笑いながら両手を差し出し、彼女の腰をつかみ上げた。乗る時も片手で軽々抱き上げられてしまったのだが、下ろすのにも動作がごくさりげない。
 やたらにドギマギしている自分を悟られたくなくて、マギールスは地に足をつくと同時に青年から数歩の距離を取った。
 クオンティヌスが器用に片目だけを眇める。
 しかし何も言わず、ちょうど迎えに出て来た奴隷に馬と荷物を任せて促した。
 「まあ、どうぞ」
 正面を指し示されたのだが、キョーコは奴隷について行こうとするところだった。
 「キョーコ?どこへ行くの」
 「え、勝手口ですが。私は裏方ですから、玄関から入らせて戴くわけには行きませんし」
 「そんな必要はないよ、頼んで来てもらったのはこっちなのに」
 「そうは参りません」
 きっぱり言い切るとクオンティヌスは渋い顔をしたが、すぐに気を取り直したように微笑んだ。
 「それも、君の職業意識というものかな。でも、頼むから。今日は俺について来て。父も君に会いたがってるし、君に見せたいものもあるんだ」
 と彼女の手を取るので、キョーコの方が慌ててしまう。
 「あの、そんな。私ごときにクーヤヌス様が…というか見せたいものって」
 「うん、じきに見られるから。父は君のパンとガルムにいたく感動しててね、今日をすごく楽しみにしてたんだよ」
 「そっそれは光栄ですけど、でも」
 ぐいぐいと手を引かれ、キョーコはたたらを踏むように玄関へと導かれる。この若様は優しいかと思えば結構強引なところがある。もっとも、それでなくてはなかなか戦場で功など立てられまいが。
 ほぼ引っ張られて玄関に入ると、細長いホールをやはり引っ張られて抜ける。正面に、美しいタイルを張った雨水溜め。その中央には銅製の女神像が据えられ、天井の開口部からの陽光を受けてにぶく輝いていた。
 「ほら、あれ」
 クオンティヌスが左手を指した。雨水溜めを取り囲むように家族の寝室が並び、壁の一部に大きなフレスコ画が描かれているが、彼が指しているのはそれのようだ。
 「これを見せたかったんだ。少し、君に似てると思ったから」
 「え、でもあの、これ、女神様ですよね…?」
 恐る恐る尋ねるキョーコに、青年騎士はごく簡単に頷く。
 「そうだね。不安定な運命を握って多くの人に望まれる、でも大方はつれない女神様」
 微笑む青年の真意を測れず、少女はおどおどと首をすくめた。そもそも、この美しいけれど前髪しかない豊満な女神様に似ていると言われても、何が何やら少しもぴんと来ない。
 要領を得ない様子に気付いたのだろう、クオンティヌスはそれ以上こだわらずに更に奥へと彼女を促した。
 ここまで来ては、今更遠慮したところで仕方ない。開き直ったキョーコはいつも通りに背筋を伸ばし、引っ張られる前にしっかり歩き出した。隣で微笑の気配が立つ。
 何となく赤面してしまった時、行く手から弾んだ声が聞こえた。
 「おお!君がウルバか!?」






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 ローマの馬はクオンティヌスには小さいので、ガリアあたりの馬を使っていたかもしれません。
 あと、言い忘れてましたけど、このころだと本当はクオン若様は他人に最後の名前「イリストゥリス」で呼ばれていそうなのですが、まあ大目に見といてくだせい~。

 あと、今日もアメブロ別館を更新しました。アメンバー申請たくさんありがとうございます!


 
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