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フォルトゥナタ(11)

 「クオン、お前もしかして言ってないのか…?」
 そろそろと尋ねるクーヤヌスに、その息子はいかにも不承不承頷いた。二人が足を止めるので、自然キョーコも立ち止まることになる。
 「それは、だって、いきなり言ってもなかなか信じてもらえないでしょう?そもそも饗宴でなく晩餐と言ってあるんですし」
 「いや、しかしだな」
 こそこそ言い合う親子の姿を見て、慌て出したのは彼女の方だった。
 「あの、何か支障が!?もしかして、饗宴に変更になったとかですか?一応、10人分くらいでしたら何とかご用意できますが…」
 「おお」
 元老院議員が小さく息をつく。
 「さすがに心得がいいな」
 「いえ、そんな…クーヤヌス様が健啖家でいらっしゃるというお噂は耳にしておりましたし、たくさん支度金をお預かりしましたので、ついついあれも作りたいこれも作りたいと欲張った結果です」
 褒められても逆に恐縮しつつ、少女は更に紙片を差し出した。
 「ともかく、まずはこれをどうぞ」
 「ああ、そうだった。ありがとう」
 父がメニューを受け取り開く間に、クオンティヌスは長身を少し屈めて彼女に向き直る。
 「ええとね、別に饗宴に変わったわけじゃなく、晩餐でいいんだ。ただ…できれば言いたくなかったんだけど、父はその…健啖とか言うレベルじゃ、なくてね」
 おおお、と隣では興奮しきりの声が続いている。そちらへ横目を流し、やけに言いにくそうに切り出すが、料理人はあっけらかんと笑っただけだった。
 「そうなのですか。では、用意した食材を使い切ってしまっても大丈夫でしょうか?」
 むしろ作り甲斐があると言わんばかりに腕を撫する様子に、クオンティヌスまで笑ってしまった。それに乗ったように本音がするりとこぼれ出す。
 「うん、まだ足りないくらいだね」
 「え」
 さすがにキョーコが目を剥いた。青年は慌てて自分の口を塞いだがもう遅い。落ちた沈黙に、相変わらずメニュー表に夢中になっている邸主の嘆声ばかりがふよふよと絡む…と思いきや、朗らかにもうきうきした宣言がその場の空気を染め替えた。
 「素晴らしい。次はこれを、50人前ずつ頼む!!」
 「…はい?」
 料理人はもう一度大きな目を瞠った。ごじゅうにんまえって、なんにんまえのことだったかしら。口の中で呟くのが聞こえて、クオンティヌスは羞恥するように視線を逸らした。父の胃袋無窮伝説は、息子の自分にとってさえあまりにも強烈だ。なんと言っても彼は、どこの誰が主催するどんな豪華な饗宴に出たとて、他の人々のようにすべての料理を食べるために既に食べたものを吐くという行為をしたことがない。そんな必要がないのは、食べたものの質量がどこに行くからなのだろうか。地の果てか、水の底か、空の彼方か。すっきりと引き締まった体型を見ても謎は深まるばかりだ。
 逃避の宮に閉じこもりかけていた青年騎士は、俯いてしまったキョーコの様子に気付いて慌ててそこを出た。
 「キョーコ、でも今日は君の用意してくれたもので充分だから」
 「…は、…すか」
 低い声が聞き取れず、え、と尋ね返せば、父の視線をも引いて料理人はさっと顔を上げた。
 「食材の備蓄は、ありますか!」
 高らかな問いがぬるんだような午後の空気を震わせる。
 「ああ、担当の者に聞かないとはっきりしないが、日持ちのするものなら多少は置いてあるはずだ…」
 急に空腹を覚えては厨房に間食を要求する邸主が答えれば、キョーコは満足そうに頷いた。
 「では、それも使わせて戴きます」
 ハシバミ色の瞳にきらめくのは矜持か、あるいは戦闘意欲か。マギールスは不敵に笑んでいる。
 「この私が参りました以上、不足腹なんて許しません。食材の続く限り、足りなければ今から買いに行ってもらってでも、必ずやお腹一杯になって戴きます!!」
 拳を握って断言する様子に、クオンティヌスは広場での出会いを思い出した。そうだ、気の強い娘だった。職業意識に関われば尚更なのかもしれない。
 隣で万雷の拍手を贈る父に続きながら、彼は事態を楽しむ気分になっている自分に気付いてそっと微笑んだ。






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 クーの胃袋のところ、最初はうっかりブラックホールと書いてしまいました。言葉とか概念とかが時代によって追加されたり消えたり変わったりする事実は一種楽しいですが、こうやって自分で文章にするとなるとちと厄介。


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