スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2

フォルトゥナタ(13)

 「夢みたい…」
 呟く声はニンフォニウム(泉水祠)の水音に紛れ、聞き取れなかったクオンティヌスが何?と首を傾ける。
 「あ、いえ」
 キョーコは少し頬を赤くして、小さな篝火から顔を背けた。赤と銀の光が女神の捧げる壺からこぼれる水の上に躍り、共に流れ落ちて行く。
 「こんな風に、貴族様の邸宅の庭園でお客みたいに扱っていただくなんてこと、きっともう一生ありません。すごく、いい思い出になります」
 訥々と語る言葉に、青年は金の髪を揺らして首を振った。
 「まるで、もう来てくれないみたいな言い方だね。うちは快適な仕事場ではなかったかな」
 「えっ!!?」
 「何か不備や不満があったなら言って欲しいな。ああ…それとも、父の食欲のこと?」
 最後の方はやや声が小さい。クオンティヌスはうすく苦笑し、振り返るキョーコの瞳に見入った。そこにも、光が躍っている。水面よりももっとやわらかく、もっといきいきと。
 「そんな!お仕事だって、とっても楽しかったです。あんなに思いっきり作れることってあまりありませんし、すごく喜んで戴いて…次から次へとお料理が平らげられて行くので大童でしたけどなんだかうきうきして」
 「そう?それならいいけど…じゃあ、また来てくれる?」
 「はいっ、喜んで!いつでもお召し下さい」
 きっぱりにっこり言い切るキョーコに微笑みかけ、クオンティヌスは背後の茂みに視線を投げた。
 「だそうですよ父さん、よかったですね」
 「む…」
 低く呻いて、クーヤヌスとユリエナががさがさ出て来る。
 「なにデバガメみたいな真似をしてるんですか、まったく…」
 「あー、いや何、ちょっとキョーコに質問があってな。タイミングを計っていたのだが」
 「え、はい。なんでしょう?」
 「うむ。君は女性だし、まだ年も若い。おそらく父親か誰かが君の後見についていることと思うが」
 言葉の途中で元老院議員は、ふと口を閉じてキョーコを見た。娘の顔にすうと浮かんだ困惑があまりに深く、伝染したような格好だ。
 「どう、した?」
 「あ、いえ…父は、いません。母がいなくなった後は、ポピーナ〈料理屋)を経営する母の知人が引き取ってくれたんですが…」
 ほかの多数の人々のように、キョーコにも複雑な事情があるようだ。ひょっとしたら彼女の有能さは、そのために必要に迫られて技能を身に着けざるを得なかったのかもしれない。
 「なるほど…」
 重々しく頷いたクーヤヌスが、ちらと息子の顔を見流してからキョーコに向き直る。
 「ではどうだろう、お前は私のクリエンテス(庇護民)にならないか」
 「え、ええっ!?」
 「お前のように才能ある者をパトロヌス(保護者)として翼下に収めることは、私の名誉にもなる。どうだ、考えてくれんか」
 「そそそ、そんな。私ごときが…」
 ぶるぶる身を絞るキョーコの隣で、青年騎士が身動きした。
 「またそんなことを言う。ごときごときって、父は君の実力を認めてああ言ってるんだよ。そんな風に謙遜するのは、却って失礼じゃないかな?」
 「あああ、すみませんっ、でも」
 「おいおい、クオン」
 クーヤヌスが割って入る。
 「お前こそ、そんな言い方をするものじゃない。いきなり言い出した私も悪いんだ、キョーコを責めるな」
 「別に、責めてるわけじゃ…」
 「そうね。クオンだって、キョーコのためを思って言ってることだものね」
 横から悪戯っぽい微笑が投げられる。母を見返し、クオンティヌスはそれはまあともごもご呟いた。
 「まあとにかく、考えておいてくれキョーコ。それと、夜も更けてしまった。今夜は泊まって行きなさい」
 「え、あの、でも」
 「夕飯を食べに行く前に遺書をしたためぬのは怠慢、と言われる世の中だ。こんな時間に帰すわけには行かん」
 少し顔つきを厳しくすると、さすがに元老院の重鎮、クーヤヌスの威厳にキョーコは困った顔をする。
 「で、ですが、帰らないと明日のパンが焼けません」
 「むう…それは、市民に迷惑だし気の毒だな。キョーコのパンを彼らから奪うわけには行かんか…」
 話がわかると言うのか腹がわかると言うのか考え込む貴族が、いかにも残念げに発言を撤回した。
 「では仕方ない。お前ともっと話したかったが、それはまた今度ということにしよう。クオン、キョーコを送ってやりなさい」
 「えっ!?」
 「はい、父さん。喜んで」
 「だろうな」
 クーヤヌスの謎の言葉に、その息子はちょっと嫌な顔をする。しかしキョーコはそれどころではなく、あわあわと両手を振り回した。
 「あの大丈夫です、道も覚えていますので、1人で」
 『絶対許さない』
 3人に迫られて、その手は力なくぱたりと落ちた。





  web拍手 by FC2
 
 


 ユウェナリス「夕飯を食べるために外出する前に遺書を認めなければ~(中略)~怠慢な人とみなされるだろう」
 けっこう物騒な世相だったようです。



関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

検索フォーム
作品一覧
サイト「花うてHP!」トップよりブログ内の作品のリストに飛べます。閲覧者の皆様のアクションに対して加算させて戴く「花うてポイント」の説明・管理もこちらよりどうぞ!

作品リスト(サイトトップ)

アクセス

・メールフォーム

・BBS

リンク

◆リンクページ


◆当ブログへのリンクについて

当ブログはスキビコンテンツをお持ちのサイト様に限りリンクフリーといたします。


ブログ名:花のうてな

管理人名:みなみ なみ

URL:http://hananoutena.blog14.

fc2.com/


 ↓各ジャンルごたまぜの本サイト。

↓スキビの同人誌作品をブログ記事として収載・販売しています。(2014年7月までで更新停止)

 ↓BUD BOY二次です。


  • 管理画面
  • RSSリンクの表示
    QRコード
    QR
    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。