フォルトゥナタ(15)

 「ショーちゃん!どうしてそんな所に…」
 叫びかけてキョーコは、振り返る青年の首にかけられた枷を見る。
 ひ、と息を呑むキョーコを、クオンティヌスは後ろから抱きとめた。
 「キョーコ、静かに…あいつらを刺激しない方がいい」
 すでに、護衛を引き連れた奴隷商人が胡乱げに彼らを見ている。低く言いつける騎士の顔をさっと見上げ、しかしキョーコはそれを守らなかった。
 「でも!」
 するりと彼の腕を逃れて馬から飛び降り、幼馴染に駆け寄ろうとする。
 「ショーちゃん!」
 「キョーコ!」
 クオンティヌスもまた泡を食って下馬する。馬の手綱を手近な木に投げ、あとを追った。
 「はめられたんだよ!賭けを持ちかけられて…気がついたらスゲエ負けになってた。絶対イカサマだ!」
 剣闘士見習いだという青年が、整った顔立ちを歪めてキョーコへと叫ぶ。
 「あいつ、ラニスタの野郎…俺が男前だからって目の敵にしてやがって」
 「だ、だからってこんな」
 「おっと」
 狼狽し混乱するキョーコの眼前に、棍棒を手にした男たちが立ち塞がった。
 「お嬢ちゃん、こいつはもううちの親方のモンなんでな。お買い上げでないんなら触らないでくれねえか」
 「お買い上げって…!」
 「キョーコ」
 おいついて来たクオンティヌスに引き戻され、蒼白なパン職人は暴れる気力もなく立ち竦んだ。
 太い指に印章つきの指輪をはめた初老の男がのしのしと近付いて来る。
 「そいつの知り合いかね。気の毒だが、こっちも商売でねえ。そいつはもう明日の市で競りにかけられることになってる。どっか別のラニスタに拾われてまた剣闘士にってこともあるかもしれんし、幸運を祈っててやることだな。まあ、自由身分の剣闘士と奴隷剣闘士じゃ扱いも違っちまうがね」
 「そんな!」
 かぶりを振るキョーコに一瞥を流し、奴隷商人はふんと鼻を鳴らす。一瞬クオンティヌスにも目を留めたが、まさかと疑うように顎を揺らしただけだった。
 「さっさと連れてけ」
 男たちに言いつけ、自分も身を返した。
 「そん、なっ……」
 青年騎士の腕の中で、キョーコはこまかくかぶりを振るばかりだった。




 「…大丈夫?」
 幽鬼のようになってしまったキョーコからどうにか家を聞き出し送り届けたクオンティヌスは、粗末な木のベンチに彼女を座らせてその前に膝をついた。
 「…あ」
 キョーコの瞳に光が戻る。
 「私…す、すみません。取り乱して…でも、どうしたらいいか…」
 しかしおろおろと言い、そのまままた考え込んでしまった。
 クオンティヌスが静かに言う。
 「父に相談すればいい」
 「え」
 「クリエンテスの困りごとに対処するのは、パトロヌスの義務だ。そうだろう?」
 「でもそんな、都合のいい」
 こうなってもなお頑ななキョーコをじっと見つめ、騎士はそろりと口を開いた。
 「じゃあ…俺のものになる?」





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 なんか、別の本を読んだらラニスタは剣闘士を率いる興行主みたいな人ってことになってました。訓練士はドクトルというとか。
 でも年代によっても変わるかもしんないので、難しいトコロ~。もちょっと調べてから、必要なら訂正することにします。


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