フォルトゥナタ(16)

 「えっ…」
 言われたことがよく聞こえなかったように、キョーコは何度も目を瞬く。
 「私に、奴隷になれって仰ってるんですか…?」
 それは不快と言うよりも、クオンティヌスの口から出た言葉とは思えない、といった風の不思議そうな声調子だった。
 「違うよ」
 騎士が苦笑する。
 「俺は、間違いなく父の嫡子で、いずれはあとを継ぐことになるとは思うんだけど」
 「は、はあ」
 いきなり何の話が始まったのかと、キョーコは戸惑いに満ちた瞳で若い騎士の顔を見上げた。クオンティヌスはあくまで穏やかな視線を返し、静かに話を継ぐ。
 「でも今は自分の力でどこまでやれるか試してみたいと思っててね。それで面白がった皇帝陛下が俺の希望を聞いて下さった。
 「だから、父はパトリキ(貴族)だけど今の俺はエクイティス(騎士)。もっとも、まだ後見の必要がなくなる25歳に達していないし、父が属州の総督として赴任したり俺が軍団の外征に参加したりでお互い家を空けることが多いからわざわざ別の家までは持ってないわけで、半端と言えば半端な状態なんだけどね」
 「はあ…」
 「で、ここからが肝心で。そろそろ、自分の家を持ってもいいかなと思うんだよ。そうしたら、そこには俺の留守を守ってくれる女主人が必要になるよね?」
 「え、と…そうかもですね」
 意味ありげに微笑むクオンティヌスに、しかし娘はあくまでぼんやり半同意を返す。なお苦笑のほかない騎士が、ここを先途とばかり直接的な言辞に出た。
 「君がそれになってくれるなら俺は奥様に結婚の贈り物を惜しむ気はないし、それをどうするかは君の裁量に任せるんだけど」
 「え…
 「えええ!!?お、奥様って…あの、わ、私がですか!?」
 「そう、君が」
 やっと通じると、キョーコは素っ頓狂な声を上げて壁に張りつく。ぶんぶんかぶりを振るので、髪がひしゃひしゃと頬を叩いた。
 「むむむ、無理ですよ!?あの、ですから私はペレグリーヌスで、とととてもパトリキの若様の奥様になんてそんな無理がありすぎです身分違いも甚だしすぎます!!」
 「だから、俺はいまのところ騎士身分だってば」
 「それだってやっぱり差はありますし、いずれは」
 「俺が25になるまでだってあと5年。父の壮健さを考えれば、代替わりは更にずっとあとになるだろう。その間に、君はすっかり奥様になりきっててくれるんじゃないかな。既に教養は充分なくらいだし」
 クオンティヌスは真っ赤な顔を見つめ、にこりと微笑む。
 「いえでも、無理です、クーヤヌス様だってお許しになるはず」
 「ないと思う?」
 「……」
 問い返されてキョーコは絶句してしまった。なんだかそうでもないような気がしてしまい、同時にそんな風に思う自分が厚かましいようにも見える。
 うろうろ視線をさまよわせていると、クオンティヌスがふっと息を吐いた。
 「幼馴染の身を盾に取って、って思うかな。本当はね、俺はこんな条件なんてなしに君を助けたい。でも、そんなの君は絶対受け取ってくれないだろう?」
 「え、えっと、だからってこんな」
 キョーコはほぼパニックに陥っている。大きな瞳を落ち着きなく動かしていると、手に何かが触れた。騎士が彼女の手を取り、願う形に額に当てる。
 「君を愛してる…」
 





  web拍手 by FC2
 
 


 イタリア人つーと会って5秒でプロポーズしそうな気がする(笑)のはロミオとジュリエットとかの影響ですかねー。

 ところで、若様の一言で皇帝が誰かわかってしまったのではと思います☆



関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

検索フォーム
作品一覧
サイト「花うてHP!」トップよりブログ内の作品のリストに飛べます。閲覧者の皆様のアクションに対して加算させて戴く「花うてポイント」の説明・管理もこちらよりどうぞ!

作品リスト(サイトトップ)

アクセス

・メールフォーム

・BBS

リンク

◆リンクページ


◆当ブログへのリンクについて

当ブログはスキビコンテンツをお持ちのサイト様に限りリンクフリーといたします。


ブログ名:花のうてな

管理人名:みなみ なみ

URL:http://hananoutena.blog14.

fc2.com/


 ↓各ジャンルごたまぜの本サイト。

↓スキビの同人誌作品をブログ記事として収載・販売しています。(2014年7月までで更新停止)

 ↓BUD BOY二次です。


  • 管理画面
  • RSSリンクの表示
    QRコード
    QR