フォルトゥナタ(21)

 「あ、うん。クオンティヌス様が…前借りさせて下さった、みたいなものかしら?」
 「はあ?」
 ショーの動作が止まった。
 「なんでアイツが。てか前借りって何だよ。お前まさか、身売りとか…」
 「へ!?ちちち違うわよ!料理人兼秘書として雇って戴いたの!!」
 「はあん…」
 疑わしそうに鼻を鳴らすのを取り違え、キョーコは急いで付け足す。
 「自由身分でよ?あと、アイツとか言っちゃだめよ…」
 「うっせーな、ンなことどーでもいいだろが。何だよ、あのオッサン、妙にお前を気に入ってねえ?」
 「ショーちゃん、クオンティヌス様はまだ20歳なのよ。オッサンじゃないわ」
 「マジか、老けてんな。って、だからどーでもいーつーの!」
 自分で振ったくせに逆ギレして、なりそこねの剣闘士はふんと鼻息を噴いた。
 「お前大丈夫なのかよ。騙されてねえ?」
 「もうっ」
 キョーコが真剣に怒り出したので、彼は漸く口を閉じた。しかし肩をすくめる様子は、納得してないことを雄弁に語っている。
 「ふん…レギオン(ローマ軍団)ねえ」
 呟いたかと思うと彼は、何事か考えるように黙り込んだまませっせと食べ物を詰め込み始めた。同時に店先から客の声がして、キョーコが立ち上がる。
 「私、お店に戻るね。ごゆっくり」
 「ふぉー。へわんなっふぁな」
 もごもご声にくすりと笑い、娘は自分の仕事に戻って行った。彼女が次に幼馴染の姿を見るまでには、多少の時日を経ることになる。




 「あのお店の果物はオススメですよ!新鮮さが違うんです」
 広場の一角を指すキョーコの隣で、背の高い騎士がいちいち楽しげに頷く。部屋を借りる件で管理人を訪ねるクオンティヌスに付き添いながら、娘は今回の経緯を語り、ついでに周辺のお得情報まで開陳するという八面六臂ぶりだった。
 「さすがに詳しいね」
 笑った青年が、さきほどまでの話に戻る。
 「それで、あの彼とはそれっきりだったの?」
 キョーコがハイと頷くと、騎士は少し呆れた声になった。
 「恩知らずなやつだなあ。君の優しさにつけこんで」
 「え。そんな、いいんですよ。ショーちゃんのご両親にはすごくお世話になりましたし、それこそ私がご恩返しできたなら嬉しいくらいです。
 「それより、なんだか高くついてしまってすみません」
 娘はへこりと頭を下げる。あの奴隷商人との縁を切るためとは言え、実際に支払いをするのはクオンティヌスだ。申し訳なさでいっぱいになっていたら、するりと頭を撫でられた。
 「そんなの構わないよ。君の判断は正しいし、嬉しい」
 「はい?嬉しい、ですか?」
 「うん。俺を守ってくれたんだよね」
 にこりと投げかけられる極上の笑顔。キョーコはわけもなく慌ててしまい、ぱっと視線を移す。
 「あ!あそこ、あの絨毯店。素敵な品物がいっぱいですよ!クオンティヌス様の新居用にいかがですか」
 痛むように胸を押さえている自分の手には、気付いていなかった。



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 はへー。やっと流れが戻せる~。バタバタしててすいません!

 あ。奴隷の相場は1200~2500セステルティウス(約29万~60万円)、「手に職がある」場合はやはり高かったそうな。


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