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フォルトゥナタ(28)

 「厨房?ああ構わんぞ、好きに見て行くといい」
 「ありがとうございます!!」
 なごやかな歓談のうちにクオンティヌスがキョーコの希望を伝えると、ローリアヌス帝はごく気軽に許可を出した。通常比1.2倍がところは瞳を輝かせる娘を、元老院議員一家がほのぼのと見やる。
 「ウルバは仕事熱心だな!だからこそのあの腕か」
 「ほんとにねえ、素晴らしいわ」
 「ほほう」
 ユリウス夫妻の言葉に、“市民の第一人者”は興げに頬を緩めた。
 「なるほど、俺もウルバの味ってヤツを知りたいもんだな。クオンの奴が独占しやがるから機会を逃してたが…ちょうどいい、本人に聞いてみるか」
 「え、はい?」
 「どうだ、嫁になってますます束縛される前に、いっぺん俺んとこに出張してくれんか」
 俺んとこ。その慎ましやかな響きに幻惑されそうだが、皇帝が言うなら意味するところはズバリ王宮だ。キョーコはぱちくり目を見開いたまま固まるが、他にも気になる単語を聞いた気がしてゆっくり首を傾げる。
 「あの…嫁…とは、どういう」
 「結婚はいつだ?」
 上機嫌で問い重ねられ、彼女は瞳を高い天井へうろつかせた。
 「いつ、と言われましても…そんな予定はございませんが」
 「あ?」
 皇帝が目を瞬いた。たしか一年以上経ってねえか…と呟くのへ、クーヤヌスとユリエナがうんうん頷く。
 やがて風雪を刻んだ軍人皇帝の顔は、くるりとクオンティヌスに向けられた。
 「何やってんだお前」
 実に端的な一言が発せられる。
 「ほっといてください…」
 青年騎士が呻くが、もちろん容赦は与えられなかった。
 「そうは行くか。なっさけねえな、レギオンにその名も高き迅速果敢のイリストゥリスが」
 「それとこれとは話が違うでしょう」
 「似たようなモンだよ」
 「あ、あの。ええと、先程は私の結婚問題についてのご下問だったのでは…なのに、皇帝陛下にはなぜクオンティヌス様をお責めになるのでしょうか」
 庇っているようで庇っていないキョーコの発言は逆効果だった。おとなたち三人の眼が白くなり、青年騎士はぺたりと額に手を当てる。
 「俺は、ちゃんとプロポーズしてますよ…」
 思わず、という風に呻き出された言葉に、娘がぽっと顔を赤くした。おや意識はしているのかと一同が視線を集めれば、彼女はコトコト小さくかぶりを振る。
 「そ、それはでもあの、無理がありすぎますし。一時のお気の迷いとか、物珍しさとか…」
 「キ」
 ぱっと顔を上げるクオンティヌスを、皇帝の手が抑えた。
 「ふんむ…」
 ローリアヌスはしきりに顎を撫す。
 「無理ってのは、どこにあるって?」
 正面から尋ねられ、キョーコは戸惑いを浮かべながらも姿勢を正した。
 「それは…私は父母後見人すべてペレグリーヌスという身で、ユリウス家の方々とお近付きになれただけでも望外の幸運と言うべきですし」
 「なんだ、そんなことか」
 拍子抜けした声で皇帝が呟き、傍らに控える奴隷を手招く。よほど心得がいいのか、浅黒い肌の青年奴隷は主にすかさず書板を差し出した。
 ローリアヌスはそれに何かゴリゴリ書き付ける。
 「親父さんの名前は?」
 「あの…存じません」
 一瞬沈黙したあと、彼は元通りの口調で後見人の名前を要求する。答えを得てまた何か書き込み、
 「その後見人に、こいつを持ってバシリア・ウルピアの監察官のところに行くよう伝えなさい」
 びらりと拡げて見せるのは、なんと皇帝勅令書。直筆ホヤホヤの書面には、下記の者にローマ市民権を与える、としてキョーコの後見人即ちショーの父の名が記されている。
 「えっ…あ、ありがとうございます!」
 驚倒一番、キョーコが慌てて跪き押し戴く。
 「なになに」
 にこやかに頷いた皇帝は、今度はクオンティヌスに向き直った。
 「これでウルバは立派なローマ市民の娘ってわけだ。障害がなくなったところで、一層頑張ってくれるんだろうな?」
 「わかってますよ…余計なお世話ですが、彼女のためにお礼を申し上げておきます」
 「ふん、雇い主ふぜいが偉そうに」
 鼻息で吹き飛ばして、キョーコに目を戻す。
 「で、それとは別にな。さっきの話、王宮で出張料理。頼めるかな?」
 「あ、はいっ。あの、クオンティヌス様のご許可があれば、喜んで務めさせて戴きます!」
 「おう、なら大丈夫だ。そいつには君以上に拒否権がない」
 「っ…」
 苦く奥歯を噛む騎士を、その両親が苦笑しつつ見守っている。反応に困るキョーコの目の前で、ローリアヌスがぴこりと人差し指を立てた。
 「それに、そいつのためでもあるからな」
 「え」
 寄り目になるキョーコと、青年騎士と元老院議員夫妻。場の全員の注目を集め、至高者は一転表情を引き締めた。
 「言うなれば壮行晩餐会だ。…東征のための」





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 な…名前の変換がね…ムズカシーです。あう。もー笑っといて。

 “市民の第一人者”はローマ皇帝の…んー、建前的な異称?もちろん実際上は独裁者なわけですが、共和制から帝政へ移行する際に初代皇帝アウグストゥス(一般的にカエサルが初代だと思われがちですが、実は彼は暗殺された際には独裁官であって、死後に後継者であるオクタウィアヌス(=アウグストゥス)によって皇帝に列せられました)が印象を和らげるために名乗ったものです。気ー遣い屋さんだったんですねー。←

 ところで、コロセウムを書きたいんですが、どうもキョコさんが行きたがってくれそうにありません;うう、欲求不満なり。


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