each other(前編)

 怖い。
 「どうして、君は…!」
 低く呻く敦賀さんの顔は蒼白で、そこに乱れかかる黒髪の影が落ちて、なんだか亡霊じみて見える。
 でもどうして?
 敦賀さんが言ったのに。久しぶりに会った途端。
 この頃会えなくて、ほったらかしててごめんなんて謝って下さるから、お仕事なんだから仕方ないですって答えたら。敦賀さんは俺ばっかり…とか何とか呟いて、いきなり言ったのよ。
 『別れよう』って。
 だから頷いたのに…頑張って、笑顔で。辛かったけど、敦賀さんの負担になりたくないから。
 だって当たり前なんだもの。好きです、つきあって下さいって言われた時からわかってたことだもの。私なんかが、この輝かしい人をいつまでも惹きつけておけるわけない。いつかこんな時が来るって知ってたもの。
 なのに、敦賀さんが怒ってるって、それこそどうして!?
 「キョーコ」
 混乱する私の肩を、大きな手がつかむ。近くで目を合わせられた。痛い。怖い。きれいな黒い瞳のまわりに血の色がかかってて、燃えてるみたいに見える。怖い。
 ものも言えずに息を呑むと、敦賀さんの目が一瞬揺らいだ。
 「どうして…そんなに簡単に…っ」
 搾り出されるみたいな声には、ひどく傷ついたひびき。そんなのってない、私こそが傷つけられたはずなのに。簡単なんかじゃないのに。
 だけど…だけど、そう言えなかった。だって敦賀さん、捨てられた子供みたいに見える。もしかしたら小さい頃の私もこんな顔してたのかも、って思ったら、とても言えなくなった。
 「キョーコ」
 もう一度名前を呼ばれて、恐る恐るはいと答えた。そしたら敦賀さんは、
 不意ににっこり笑った。
 嘘つき毒吐き紳士じゃない。神々スマイルでもない。夜の帝王ですらなくて。陰気な…
 ああ、カイン・ヒールが…
 違う。
 敦賀さんの中に潜んでる(気がする)カイン・ヒールのもとになったひと、が。笑うみたいに。
 すごく、怖い…
 敦賀さんは震えてしまった私を見て、ちょっと困った顔をした。
 「君にはすぐわかるんだね、キョーコちゃん」
 え、と端正なお顔を見上げた瞬間、黒い頭がさっと沈む。と思ったら、背中と膝を掬って抱き上げられた。
 「つ、敦賀さん!?」
 何これ、何これ。どうなってるの。別れ話だったじゃない。なんでここでお姫様抱っこ!?
 状況について行けない私に、恋人なのか恋人だったのか、今でも大好きなひとはもう一度微笑む。
 胸が、痛い。怖いのは、失いたくないからなんだ…でも敦賀さんは終わりにしたがってる。
 「…どうして」
 同じ言葉を返そうとしたけど、そうすること自体が簡単じゃなくて喉が詰まった。先に、低い声が落ちてくる。私にそっと頬ずりして、敦賀さんはうっとり呟いた。
 「だからもう、離せない…」
 「え、え?あの」
 どういうこと。だって、別れるって。敦賀さん、なに言って…
 いっそ泣きたいような気持ちで見上げた黒い瞳は、濡れた艶を湛えて寝室のドアに向けられていた。





web拍手 by FC2
 
 


 hana様の花うてデーリクでござるまス。
 「蓮とキョーコは恋人設定・お互いに自信がない・キョーコの気持ちを試すために蓮は別れを切り出すが…(要約)」ですな。


関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

きゃ~

リク実現ありがとうございます!!

読み始めた瞬間『も、もしや…私のリク?』
読み終えて『私だ~!』

っていった感じに、朝から大興奮です!

キョーコちゃんの自分を卑下する感じがイメージ通りでした!
ここから蓮がどうするのか楽しみです!

続きを楽しみにしております♪
検索フォーム
作品一覧
サイト「花うてHP!」トップよりブログ内の作品のリストに飛べます。閲覧者の皆様のアクションに対して加算させて戴く「花うてポイント」の説明・管理もこちらよりどうぞ!

作品リスト(サイトトップ)

アクセス

・メールフォーム

・BBS

リンク

◆リンクページ


◆当ブログへのリンクについて

当ブログはスキビコンテンツをお持ちのサイト様に限りリンクフリーといたします。


ブログ名:花のうてな

管理人名:みなみ なみ

URL:http://hananoutena.blog14.

fc2.com/


 ↓各ジャンルごたまぜの本サイト。

↓スキビの同人誌作品をブログ記事として収載・販売しています。(2014年7月までで更新停止)

 ↓BUD BOY二次です。


  • 管理画面
  • RSSリンクの表示
    QRコード
    QR