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フォルトゥナタ(34)

 「じゃあ、よく見てて下さいね」
 キョーコはにっこりと言って、手の中の燧石を並べたグラスの端で打ち合わせた。ぱっと火花が散って走る。と、グラスの上に小さな炎が立った。なんと、文字の形をしている。
 最初にP、そして炎は横に流れて次々と空中に文字を描き出す。R、I、M、O、A、M、I、C、U、S、しめて11文字だ。
 primo amicus、友こそ第一。
 おお、と感嘆の声が上がり、男たちの間に連帯に満ちた笑顔が拡がる。クオンティヌスは炎の消えたグラスをおのおのに取らせ、乾杯のしるしに自分の分を掲げて見せた。
 「Ave Caesar, ROMA aeterna est!(皇帝万歳、ローマよ永遠なれ)」
 いずれもふてぶてしい面構えの百人隊長たちの顔が変わった、とキョーコは感じた。どこかクオンティヌスを舐めた風情だったのが、上官として仰ぐ気持ちになったようだ。唱和が続き、グラスを上げた彼らの視線は広間奥の皇帝へと向けられる。
 皇帝が微笑を浮かべて片手を挙げた。O、Vと指で文字を作る。こちらはoptimi viri、『最上の男たち』を意味する。歓声が弾けた。



 キョーコは盆を抱えて厨房へ戻って行く。
 どうやらクオンティヌスは部下の掌握に成功したようで、それに役立てたのかと思えば自分も嬉しい。ローマ一高名な騎士様の妻として、少しは恥ずかしくない存在になって行けるかもと希望が湧いた。
 ワインに仕込んだ炎の文字はつまみの菓子用に作っておいた高アルコールのガルムペーストだったけれど、あれも思い通りに燃えてくれてよかった、とこちらは料理人としての満足も抱えて、彼女はほくほく廊下を歩く。
 「しかも、燃えたあとの香ばしい香りと甘みがワインに移っておいしくなってるはずなんだから♪」
 急な思いつきにしてはよくできたと自讃して、上機嫌のマギールスはほとんどスキップしながらメイン厨房へ続く通路へ折れようとした。
 回廊の先は両側の庭園を貫いて更に奥の施設へと続く。仕事が終わったらそちらも自由に見ていいクオンティヌスに案内させなさいと皇帝に言われている。望外の好意を思って足が緩んだ。
 そこへ、低い人声が流れて来た。
 「…やはり目障りだな…」
 いかにも苦々しい声に聞き覚えがあり、キョーコはぴたりと歩みを止めた。
 (この前、クオンティヌス様の悪口を言ってた人だ…!)
 まさか、性懲りもなく似たようなことをしているのか。もう少し話を聞けば誰か特定する役に立つかもしれない、と思ったのは、先程の高揚が尾を引いているせいか。彼女はさりげなく柱の陰に入り、全身を耳にして注意を傾けた。
 「さっきの件で、ますます陛下のご歓心を買ったようだぞ。このままでは我々はいずれ、蛮族の下風に立つことになりかねない」
 はじめとは別の声が言った。蛮族、とクオンティヌスも自分で言っていたが、カエサル以来のパトリキ家系ではないか。それを…とキョーコには男たちの偏狭が憤ろしい。
 「ばかな、そんなことが許せるか。我々古い家系の者はただでさえ衰微して来て、今や主だった家は十数家を残すのみなのだ。これ以上よそ者にのさばらせておくわけには行かん」
 最初の声が吐き捨てる。同化政策を採り属国や属州からも人材を用いるローマにも、右傾派というのはやはりいるものなのだ。
 自分などはまさにそのよそ者であって、それがための苦労というものも経験して来ている。キョーコは単にクオンティヌスのためだけでなく腹が立って来た。これは是非とも正体をつかみ、夫にも警告を…と意気込む耳に、次に入って来たのは、やたらに物騒な言葉だった。
 「では、始末するか」





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 ほら来た、花うて名物物騒シチュ。


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