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フォルトゥナタ(37)

 ぴゃっ、とキョーコの頭頂の髪が立ち上がった。そろそろ振り返れば、もちろん金の髪の騎士。入り口の壁に手をかけ、にこにこ立っている。
 「あ、の」
 キョーコは生きた空もなく口ごもった。なんというタイミングで現れるのか。
 「な、何でもないんです。ちょっとその…」
 「君は嘘が下手だね。そういうところも可愛いけど」
 丈高いクオンティヌスはさっさと近付いて来る。硬直しているマギールスと、自分たちを忙しく見比べる皇孫のどちらの視線も優雅に受け流し、パン焼きかまどの少し手前で足を止めた。
 するりとキョーコの手を取る。
 「器用この上ない俺の奥さんの手は、今度は何を作ったのかな?」
 「えっ?」
 「あ、あのその」
 何気ないひとことに小さな少女が目を瞬くが、キョーコはそれを気にするどころではない。わずかに身をずらし、我が背中に件のパンを隠そうと試みる。
 ところが。ついつい揺れ走るその視線を、彼女の夫は鋭敏に悟った。にこりと笑んだクオンティヌスは、妻の手をごく軽く引く。
 腰の引けていたキョーコがバランスを崩すのを、彼は当然のように腕に収めた。すれば、細い肩越しに素焼きのパン皿を見るだろう。
 その中央の、凛然とした立ち姿とともに。
 「………」
 金の髪、細かな造作、衣裳。不足なく彼自身の姿を写した、職人の魂をこめたパンを、騎士は見たはずだ。長い息をつき、彼はもそもそ呟く。
 「器用すぎるよキョーコ…まあ、君に食べられるなら本望だけど」
 「えっ、いえあの、それはマリア様にと…」
 どこまでも正直なマギールスは自らの墓穴を掘り進めた。小首を傾げたクオンティヌスはそれは華やかに(ちくちくと)微笑み、
 「帰ったら、少し話をしようね?」
 優しく優しくのたまった。しかしキョーコはここで、現状の因となった事実を思い出す。
 「の、望むところですっ」
 やや勢いが弱いけれど言い切れば、彼女の顔を見返したクオンティヌスが皇孫へと目を移した。なるほど、一応の話は聞いているらしい。
 「あ」
 気に入りの騎士の視線を受け、マリア・ファウスティナが覚醒した。
 「そうですわ、クオンティヌス様!お身に危…」
 勢い込んで言いかけたところで周囲を見回して言葉を飲む。本当に利発な少女だ。
 「お気遣いありがとうございます、マリア姫」
 クオンティヌスがふわりと微笑んだ。まだ解放されていないキョーコはその腕を脱け出そうと試みるが、逆にもっと引き寄せられてしまう。
 「皇帝陛下も仰っておいででしたが、今の時点では何もできることがありません。今後のことは妻とも話し合って、重々気をつけますので」
 「あの、話し合いはいいんですけど、いい加減に離して戴きた」
 「それでは、妻も疲れているようですのでこれで失礼します。どうぞご機嫌よう」
 「いえ、ですから」
 キョーコはもがきながらしきりにマリアを気にする。少女は大きな瞳に混乱を浮かべてしきりに瞬きしていたが、辞去の挨拶を受けておずおず口を開いた。
 「あ、あの、クオンティヌス様…妻、って」
 「はい」
 騎士が春の微笑を浮かべる。腕の中のもがもがを軽く前へ押し出すようにした。
 「妻のキョーコです。職業上では、ウルバと名乗っていますが」
 マギールスはなんと言っていいかわからず、はいあのキョーコですともそもそ呟いて頭を下げる。そのまま今一度皇孫に挨拶した騎士に、半ば担ぐように厨房から連れ出された。
 ぽつんと残るマリアの白っぽい姿。
 振り返り振り返り、彼女は祈らずにいられなかった。
 精魂こめたあのパンだけは、持ち帰って戴けますようにっ…!
 






 
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 またしても迷走期を迎えています。あーもー、冬の後半から春先は駄目駄目期に入りやすいだワ。


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