妙法蓮華(5)

 「で、どうだった?赤頭巾ちゃんは」
 「…ああ」
 楽譜から目を離したミロクの問いに、レイノはうすい笑みを返した。
 「思った以上に音域が広いし、リズム感も悪くない。あれなら何でも歌える」
 「…へえ     
 「ホント、あの娘に関しちゃらしくない反応するよな。音楽にそんなマジになるお前が見られるとはね…
 「…いや」
 ヴォーカリストを音楽の道に引き込んだと言うドラムスは皮肉めかして笑う。
 「音楽じゃないな。京子を歌わせることに、か」
 「何か問題があるか?」
 「いーや?お前の本気ってのも珍しくていんじゃね?」
 ばさり。楽譜をレイノに返し、ミロクは今度はもう少し素直な笑い方をした。
 「…いい曲だ」
 「ふん…」




 「はあ…」
 所変わってLME本社。大き目の茶封筒を手に、キョーコは珍しく肩を落として廊下を歩いている。
 「もうほんと、嫌になる…」
 「何が?」
 突然聞こえた声に、ぴゃっと飛びあがった。
 「つっ敦賀さん!!いきなり現れないで下さい」
 「俺が先にここにいたんだけどな。部室に行ったらいなかったから、飲み物買って来たところ」
 と蓮はペットボトルのお茶を一つキョーコに渡す。
 「ありがとうございます。あ、今更ですけどおはようございます」
 「ああ、おはよう。それは?何持ってるの?」
 「え」」
 封筒に目を留めた蓮に尋ねられ、キョーコは並んでラブミー部々室へと向かう足を止めた。
 「事務所宛に届いたそうなんです。バカ男2からで…たぶん、今度歌う曲なんじゃないかと。この前、曲ができたら知らせるとか言ってましたから」
 「…この前?」
 「ええ、ボイトレの時…」
 「最上さん?」
 優しく遮られ、キョーコははっと自分の口を塞いだ。しかし洩れた言葉は戻らない。
 「ボイトレって、何の話」
 蓮は先に部室に辿り着いてドアを開け、そこで彼女を待つ。優雅に室内を指す手が、『ゆっくり聞かせてもらおうかなv』と語っていた。
 少女は語るに落ちた自分の浅はかさを呪い、刑場へ引かれる気分で室内へ入る。
 蓮に促されて隣り合わせに座ると、彼女は半ばヤケのように経緯を語る。
 俳優は表情を動かさず黙って聞いていたが、まとう空気が次第に重くなることをキョーコは敏感に感じ取った。
 「…で、ノコノコ向こうの言うとおりに出かけて、まんまと2人きりになったと」
 腕組みの指先で自分の肩を叩く蓮に視線を返せず、彼女はそわそわと座り直す。
 「でも、べ、別にヘンなことはされませんでしたし。本当に、ボイトレだけして」
 「うん、それが終わった後も俺に連絡くれなかったんだね」
 「いえだって、やはりご迷惑だと…」
 「俺が心配なんだ、って言ってるだろう?大体君は、いつもいつも見当外れな遠慮ばかりするし、危険とわかってる相手に自分から近付くし、どうしてそう俺をやきもきさせるのかな!」
 「え、あの…」
 キョーコがおずおず顔を上げた。
 「どうして敦賀さんがそこまで…」
 「え」
 「敦賀さんって…」
 「…あ、え…」
 覗き込むように前に出るキョーコの上半身から、蓮は今度は自分が目を逸らす。少女はそれを追わず、胸の前で両手を組んだ。
 「本っ当、後輩思いですよね!!」
 やっぱり。そう思いつつもヘコタレずにいられない俳優に、キョーコは尊敬に満ち溢れこぼれ出すような瞳を向けて言う。
 「ただの後輩の身をそこまで案じてくださるなんて!やはりバカ男どもと違って、器の大きさを感じます…!」
 「そ、そう…ありがとう」
 他にしようもなく笑顔を作る蓮に、彼女はぐっと詰め寄った。
 「あの、では折角ですからお言葉に甘えて…ひとつ、お願いをしてもいいでしょうか!?」
 「勿論だよ」
 蓮が過去最大の熱心さで即答する。
 少女タレントは嬉しそうににこー、と笑い、机の上に投げ出していた封筒を掲げて見せた。
 「これをいまから開けますので、ついてて戴きたいんです。だって送り主が送り主ですから、何か危険な呪いとかかかってるかもしれません。でも敦賀さんがいて下さったら、きっとそんなもの無効になります!」
 「俺がいればって…お安い御用だけど…」
 根拠などは尋ねてはいけないんだろうか。一抹の虚しさを湛える蓮の視線の先で、キョーコは鋏を取りシャキシャキと封筒の上部を切る。口が開くと、そのまま鋏で内部をぐるりとなぞった。
 「カミソリなんかは仕込んでないわね…」
 更によく目でも確かめてから手を入れ、中身を引き出す。やはり楽譜だった。最後に歌詞も添えられている。
 「…」
 パラパラと五線紙をめくるキョーコの瞳が驚いたように見開かれる。
 「俺にも見せてくれる?」
 手を出した蓮に譜面を渡し、彼女は小さく息をついた。
 「意外、でした」



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 このまえ買って来た風邪薬、あかん…全っ然アタマが働かへんくなる~…何書いてんだかよーわからんなってえらい時間がかかってしまった;;

 ところで本誌を見てると、レイノは意外に仲間への面倒見がいいですよね。実は世話好き!?疑惑を持っています。
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