たいせつでたいせつで(171)

 「お世話になりました」
 頭を下げるキョ-コのつむじを、不破夫妻は複雑そうに見下ろしている。
 「うちら何もしてへんさかい、そない畏まらんでもええのに…」
 柳眉を下げた女将は少時言葉を切り、そやけどと息をついた。
 「ほんまにあちらはんの子ォになってしまうのん?」
 問われて少女は、はにかみながら頷いた。
 「こんな風に望んでもらえるなんて、夢みたいです」
 「ややわ、うちかて昔っからそない言うてるのに…なあ、もういっぺん考え直し?うちでもええやないの、小っさい頃から馴染んどるんやし」
 「そのくらいにしとけよ、オフクロ」
 意外なことに、女将の繰り言を遮ったのはその息子だった。座布団の上に胡坐をかき、水菓子をもちょもちょ食べていて話は聞いていないように見えたが、そうでもなかったらしい。
 女将が恨めしそうに振り返る。
 「何やのん、この子は。アンタかて一緒に止めてくれたらええやろに」
 「何で俺が」
 鼻を鳴らした少年は頑なに幼馴染を見ようとはせず、その隣で長い脚を持て余す黒髪の青年へと視線を流した。
 「可愛げのねーアホキョーコに逃げ込むトコができたってんなら、いーコトじゃねーの?」
 「またアンタは…なんぼ仲のええ子やからゆうたかて、あほ呼ばわりはよし」
 「あーあーあーうっせー。いーじゃねえか、アホはアホだっつの。大体あんな泣き虫、いっこも仲よくなんかねえよ。誰だあの甘ったれ」
 心当たりを覚えるのか、キョーコは胸を押さえて顔を赤くしている。
 「ふーん」
 社に小声で通訳してもらっていたマカナンが、不意にニヤリと笑った。
 「坊主も結構面白い奴だな」
 「って」
 訳す眼鏡の青年の言葉を聞き、今度はショータローがふてくされたように朱をのぼらせる。
 「ちぇっ」
 吐き捨てると彼は、少年らしい細い手足を振って立ち上がり、そのまま座を外してしまった。
 キョーコは首を傾げてマカナンを見ていたが、幼馴染が乱暴に閉めたために弾んで隙間のできた障子に目を移して曖昧に笑った。
 「えっと…そういうわけで、一旦東京に戻って、あさってアメリカに帰ります」
 表情の割にきっぱり言われた言葉に、日本人夫妻は揃って嘆息する。
 「帰る、なァ…」





 「するってーと、何か」
 カウチにゆったりと寝そべり、マケドニアの英雄王は冷酒をちびちび嘗めている。今日の宝田氏は、マカナン監督の旧作『アレクサンダー』をリスペクト中であるらしい。
 「お前は、来日以来のイベントまみれの日々を、ろくなフラグも立てられずにただ自己完結して終わったってんだな」
 呆れきった視線を、対面に座る金髪の少年は乾いたばかりの前髪を気にするふりをしてやりすごした。
 「余計なお世話ですよ。いいじゃないですか、本人が納得してるんだから。大体、フラグってなんですか」
 「そこがヘタレだっつってんだろが…フラグってのは、ラブラブだのフラレエンドだの、ある結末へ進む分岐点、つうかそのきっかけだな」
 恋愛シミュレーションゲームにハマっていたことのある芸能事務所社長はヒラヒラと手を振る。
 「わざわざ解説ありがとうございます。聞きましたけど聞いてません」
 「なんだ、可愛くないな…あのお嬢ちゃん以外にはてんで素直じゃないんだな、お前」
 余計なお世話です、ともう一度言おうとするクオンを、大王はあくまでニヤニヤと眺めている。
 「まあそれも愛か。結構結構」
 「……」
 否定したいような、できないような。少年はむっつり黙り込んだ。どうもこの父の古い知り合いは、リアクションに困る言動をする。
 「で、もう明日帰っちまうんだろ?」
 「ええ、だからマカナン監督は張り切ってお土産探しに行きましたよ。…キョーコちゃんまで巻き込んで」
 「そりゃしょうがねえだろ、お前は髪色戻さなきゃならなかったしな」
 クオンは不満そうに鼻を鳴らした。別に行きたかったわけではない。ただ、キョーコを取られてしまったのが不満なだけだ。用が終わったら、自分が一緒に出かけたかったのに。
 「まあ今回、監督も少しは役に立ったみたいだから我慢するけど…」
 不満の尾を引きながらひとり呟く。彼がだるまや夫妻からキョーコの親権問題を委託されて来てくれたから、彼女のアメリカ永住はほぼ決定的となった。自分には時間が与えられたわけで、あんなでも大人であるということには意味はあるのだと思う。
 「はあ…」
 本当に、早く大人になりたい。年齢的にも、精神的にも。
 思う心を読んだかのように、宝田が笑った。
 「まあ、焦ってもしょうがないだろ」
 「それは、そうなんですけど」
 複雑なのはどうしようもない。さしあたって、帰国後迎える新学期だ。自分は高校に進み、キョーコはまだ中学生。学生と言うのも自由なようで自由がきかないなあと、彼は短く溜め息を落とした。








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 日本編終了です。次から新章~。
 それにしても、クオ坊のマカナン観がひどい(笑)。



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