たいせつでたいせつで(25)

 「うわあ…」
 衣装に着替えたクオンを見て、キョーコは大きな目を更に真ん丸にする。虹が立つのではないかというくらいキラキラと輝く瞳に、少年はやはりこの映画を選んでよかったとしみじみ思った。
 「コー…あ、えと、クオン、かっこいい~ステキステキ、絵本で見たぎんゆうしじんみたい」
 「あたり。俺の役はそれだよ。見習いだけどね」
 「えっそうなの?コ、クオン歌うの!?」
 「うーん、俺はあんまり歌わないなあ。そのかわりハープを弾かなきゃならなくて、習い始めたところなんだ」
 「ハープ!」
 キョーコはもううっとりが過ぎてのぼせそうになっている。そんな様子を眺めながら、クオンはひとまず胸を撫で下ろす思いだった。
 覚醒直後の状態から現実感覚を取り戻すにつれて、キョ-コは自分の置かれている状況に疑問を持ち始めた。
 ここはどこ、帰らなきゃと青ざめる少女に大丈夫だからと宥めても、どこからどこまで説明すべきかせざるべきか迷う彼の言葉には説得力がない。大汗をかいてとにかく俺を信じてと繰り返し、ついには俺の魔法はキョーコちゃんに悪くは働かないんだよと言い出してみた。
 するとキョーコはキスの一件を思い出したらしく、真っ赤になって黙り込む。あれだって君のためだったんだとやや嘘を織り交ぜどうにかこうにかクオンはキョーコの説得に成功したのだが、それには場所柄も一役買っていた。
 少女の気を決定的に逸らしたのは、丁度通りかかった妖精の女王。
 七色に輝く透明な羽を負い、光の滝が流れ落ちるような銀の髪を揺らして城のセットへ向かう女優の姿に釘付けになったキョーコは、勢いづいて彼に尋ねたものだ。
 「あの人、コ、ク、クオンのお母さん!?」
 そう言えば母は妖精界の女王だなどと言ったっけと苦笑し、クオンは首を振る。
 「違うよ、あの人は妖精女王役の女優さん」
 そうだ両親やだるまやの夫婦にもキョーコのことを連絡しなくてはと思いながら、彼はすかさず映画の話をして今日は見学が許されているのだと告げて寄り切った。
 「クオンは、役者さんだったのね」
 感心しながら物珍しげに周囲をキョロキョロ見回す少女の純真さが愛しい。ああキョーコちゃんだと微笑むクオンの姿に、キョーコは首を傾げたが笑顔を返した。
 キョーコちゃんはいつも可愛いけど、意思を持った笑顔は格別だなあなどとキョーコバカ少年は思う。しかしいつまでもそうしている訳にも行かず、少しここで待っててと告げて特急で着替えに行くことにした。ついでに大人たちに連絡を入れよう。
 そうして今、役の衣装を身につけた彼の姿に、キョーコは大喜びしている。
 そこへ、マカナンの声が飛んで来た。
 「おーいチビズリ、出番近ぇぞ~」
 「あ、はい!行きます」
 返事を投げて、クオンはキョーコに向き直った。
 「じゃあ、見ててねキョーコちゃん。俺、頑張るから」
 「うん。私、えいがのさつえい見るのなんて初めて。楽しみ!」
 しっかりと返る言葉と笑顔が幸せで、幸せで。
 クオンは必死に顔を引き締めねばならなかった。今日はシリアスなシーンなのに。



 『今のままじゃ、無理ね』
 『えっ…』
 『英雄は、真実の詩をうたう者の前に現れるのよ』
 『お師匠様が歌ってないって言うのかい!?』
 強い口調で問う少年に、不思議な少女はじわじわとにじみ上るような笑みを向けた。
 『片目を神に捧げたバルドイ。…そうね、今はまだ。でも…可能性がないとは言わないわ。失われた光のありかを見つけられるなら…』
 『…!?』
 ウシュクは疑問と不快と希望とに引き裂かれて棒立ちになる。
 『君の言ってることはさっぱりわからない!どうすればいいって…
 『そもそも、君は何者なんだ!どうして、僕にしか姿が見えない!?』
 『さあ     どうしてかしらね…私にしてみれば、どうしてあなたには私が見えるのか、の方が疑問だけれど』
 メルヴェイユは微笑む。妖しく、哀しく。
 『名を失った私が      
 『え…?名前は、メルヴェイユだって』
 眉を寄せる少年に彼女は答えず、さっと長い黒髪を背へ払った。何かを思い切るように。
 『いずれにせよ、あなたはあなたの名のように、柔軟であり続けなさいな。そうでなければ、流れつづけることはできない』
 『待って!』
 俄かに遠い感じになる少女を、ウシュクは思わず呼び止めていた。手を伸ばす。腕に触れた。
 触れられた。
 その事実に驚いていた。何となく、触れられない夢か幻のように思っていたのに。しかし少女の方もまた、金色の瞳に純粋な驚きを湛えて捉われた自分の腕を見つめている。
 『あなた…私が見えるだけじゃなく、触れるの…!?』
 声には激情があった。彼女は激しく身を捩る。少年の手を振り払い…
 自分から抱きついた。首に両手をかけて引き寄せ、
 『あなたなら…!!』
 噛み付く勢いで唇を重ねた。
 『!?』



 「ほおう…」
 マカナンが唇を歪めた。ちらりと目を流し、隅で見学しているキョーコを見る。
 たちの悪げな笑みが、すこし深まった。



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 次は久しぶりにクーパパ出したいな~。そこまで行けるかな?
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