たいせつでたいせつで(172)

 「ふう…」
 さわつく空気の中に、小さな吐息がこぼされる。
 「疲れた?」
 隣を歩く長身の少年が問うと、キョーコはううんとかぶりを振った。
 「違うの。なんかね、湿度が全然違うから変な感じがして」
 「ああ…確かに、日本て言うかアジアは湿度が高いよね。それで肌がきれいなんだとか言うけど」
 クオンは自国の空港の中を見渡し、確かめるように深く呼吸している。視線を戻したかと思うと、少女の顔を見ながら言った。
 「キョーコちゃんは、アメリカで何年か暮らしてても肌がきれいだね」
 「こっちの人だって、きれいな肌の人はいるじゃない…」
 「長持ちしにくいけどね」
 自分の頬に触れ、俳優でもある少年は次にキョーコの頬をつつく。
 後ろからマカナンの声が飛んで来た。
 「こら坊主、ドサクサに紛れてベタベタしてっと困ったことになるぞ」
 「何ですか人聞きの悪い」
 苦情を申し立てるクオンに、彼はホレと前方を指差す。つられて動かした瞳に映ったのは、
 ぬーん、と眉間に皺を刻んで仁王立ちするだるまや大将だった。その横で、おかみがにこにこと手を振っている。片手にひらひらと持っているのは…封筒、だろうか?
 「おとうさん、おかあさん!」
 キョーコがぱたぱたと駆け寄って行く。
 「ただいま帰りましたっ」
 「お帰り、キョーコ」
 ちゃ、と言いかけたのを敢えて飲み込んだらしい。実際に母となるおかみはにこにこと娘を迎え、封筒を彼女に手渡した。
 「はい、これ。手続きは済ませておいたからね」
 「え、あ」
 キョーコは中身に心当たりがあるらしい。母と寡黙ながらもマカナンと久闊を叙している父、それからクオンの顔までも大きな瞳で見比べた。
 「手続きって」
 問いかける彼女に、おかみはいつものふくふくした笑顔を向ける。
 「おめでとう」
 「…っ!」
 途端に、ぴゃっと跳び上がったキョーコが大慌てで封筒を開いた。さっと目を走らせ、ばっとクオンを振り返る。
 「???」
 わけがわからず首を傾げるが、それで引くほど少年のキョーコバカっぷりはやわではない。嬉しそうなのが嬉しいなあと微笑み、理由を問う。
 「どうしたのキョーコちゃん、いい知らせ?」
 もしや手続きとは養子縁組の件だろうかと思ったが、勢いよく頷いた少女は満面の笑顔で封筒の中身を翳してくれた。
 「新学期からも、よろしくね!」
 え、と小さな手の握る紙を受け取ったクオンは、「入学許可」の文字に目を瞠る。まさか。大急ぎで続く文面を読み下せば、キョーコが進学に必要なクレジットを取得し認められた旨、ために入学を許可する旨がしたためられ。最後に、彼の進む高校の名前と校章。
 「キョーコちゃん…!」
 「うお、すっげ」
 横からマカナンが覗き込んでいる。
 「嬢ちゃん、しめて4学年のスキップか。かしこいなー偉い偉い」
 ぐりぐりキョーコの頭を撫で出すが、今だけはその祝福を許そうと思うクオンだった。だって来月から、キョーコと同じ高校、同じ学年だ!
 「俺は反対してたんだがよ。ガキが無理して背伸びするこたあねえってのに…」
 大将がぼやいているのがチクリと来るが、いやしかし、ことはもう決まっている。
 「いいじゃねえか、娘の努力を認めてやれよ」
 たまにはマカナンもいいことを言うと思いながら、クオンは少女を奪取した。頭上高く抱き上げてくるくる回り出す。
 「すごいよキョーコちゃん、ありがとう!!」
 「ひゃ、ちょ、ちょっとクオン!?」
 「おいおい坊主、浮かれやがって」
 映画監督が苦笑しているのもどうでもいい。初めてキョーコから一緒にいるための働きかけをしてくれたのだ、浮かれずにいられるわけがない。
 「ナニ礼言ってんだ、誰もお前のためとか言ってねえだろよ」
 じゃあ、ほかにどんな理由で親友も置き去りに高校へ上がる?マカナンの揶揄は彼の幸福を引っ掻きもしない。
 「ク、クオン、クオンってば」
 彼は真っ赤になったキョーコをぎゅうぎゅう抱きしめた。少女は口では抵抗しながらも笑っている。それも初めてのことだと、気付いたのは両親と去って行く背中を見送ったあとだった。





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 ちょっと、システム的に進学に際してどういう手続きが要るとか調べきれなかったので、テキトーですがカンベンしてつかーさい。話を書く人間が必要な情報、ってゆーのは調べにくいものなんですよねえ。
 あと、アメリカは州ごとにいろいろ違って来るので、余計に設定しにくいというのもあります。原作に出てない情報ってのも、できるだけ特定したくないですし。ほんとだってば。好き勝手書いてても、そういう気持ちはあるんです~。一応。


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