たいせつでたいせつで(173)

 「するとつまり」
 「俺は日本行き以来、ろくに進展もなしに帰って来たよごめんね」
 もう言われ飽きていたので、クオンは早口で父の先回りをした。
 米国はヒズリ邸の居間。息子の帰国に合わせて早めに帰って来た父は、土産のジャパニーズマンジュウをひょいひょい貪りながら話を聞いていたのだが、子供たちの気になる動向にさしたる変化がないと知って2箱めの蓋に手をかけた。
 …関係ないか。
 「いやまあ、謝ることでもないが…」
 アクションスターが手元の割にスマートに肩を竦めるので、クオンは呆れると同時にふて腐れているのも気恥ずかしくなる。
 「…だって、しょうがないんだよ。とっくに心が決まってるはずなのに、何度でも揺さぶられて掻き乱されて、その度にどうしたらいいかわからなくなるんだ」
 もそもそ呟くのを、クーは黙って聞いている。頬がぱんぱんに膨れているのは気にしないことにして、少年は短く息をついた。
 「キョーコちゃんみたいに、信じられないくらいの重圧を背負ってても泣いたままにならない強さはどこから来るのかな…」
 それから彼は、何か思い出した目をした。
 どうした、と問われ、ほわりと微笑む。
 「父さん、キョーコちゃんの手、綺麗に治ってたよ」
 手を取った時、肌に触れた時。彼はそれに気付いて喜んだものだった。虐待の傷跡なんて、ひとつも残らず消え失せればいい。体からも、心からも…いつかは。
 「そうか」
 父が深く頷く。意味を正確に解したのだろう、その口元にも安堵の微笑がかすめている。
 「まあ、まだ時間はあるんだ。頑張れ」
 クー自身、愛息の想い人としてだけでなくキョーコを気に入っている。励ましには真実味がこもっていて、少年の頬を照れ臭く緩めさせた。
 「わかってる。キョーコちゃんからも時間作ってもらったんだ、頑張らないわけに行かないよ」
 「うん?」
 父が目を瞬いている。そう言えばまだ言ってなかったな、わざとだけど。とクオンは心中で悪戯に笑った。驚かそうとタイミングを計っていたのだ。
 「一緒に高校へ行けることになった」
 「って…おお、もしかしてキョーコはまたスキップしたのか!?」
 少年が頷く。
 「そう、しめて4学年」
 出っ腹の映画監督の言葉を借りれば、アクションスターは諸手を拡げて喜色を表した。
 「おかげで高校生活を同学年で過ごせるわけだ。すごいなキョーコは!」
 二人ともわざわざ口に出しはしなかったけれど、キョーコにはブランク期間もあったのにという思いがある。少女の能力もだが、その努力が素晴らしい。況してそれが自分もしくは愛息の幸福に繋がるとなれば…
 父子の周囲に花と点描が飛ぶのもやむを得まい。
 「新学期が楽しみだな、クオン?」
 「当然だよ」
 わざとらしくつつくように笑うクーに、少年は澄まして頷く。初めて抱擁が受け入れられたことは、勿体ないから秘密にしておいた。





web拍手 by FC2
 
 


 
 もうちょっとでたいせつ~も最終章に入ります。「ロザリオ」があるから、却って締めが難しいぞなもし。


関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

検索フォーム
作品一覧
サイト「花うてHP!」トップよりブログ内の作品のリストに飛べます。閲覧者の皆様のアクションに対して加算させて戴く「花うてポイント」の説明・管理もこちらよりどうぞ!

作品リスト(サイトトップ)

アクセス

・メールフォーム

・BBS

リンク

◆リンクページ


◆当ブログへのリンクについて

当ブログはスキビコンテンツをお持ちのサイト様に限りリンクフリーといたします。


ブログ名:花のうてな

管理人名:みなみ なみ

URL:http://hananoutena.blog14.

fc2.com/


 ↓各ジャンルごたまぜの本サイト。

↓スキビの同人誌作品をブログ記事として収載・販売しています。(2014年7月までで更新停止)

 ↓BUD BOY二次です。


  • 管理画面
  • RSSリンクの表示
    QRコード
    QR