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フォルトゥナタ(44)

 まだ日は高い。
 しかし一日の行軍ノルマを終えたレギオンは、先遣の測量兵と工兵の選定した用地で野営地の建設を始めた。各地形に合わせて用意された設計図に従って手早く塁壁が作られ、門と通路が作られ、テントが張られて行く。たったひと晩を過ごすだけのためのものでも、手は抜かない。安全な休息こそが士気を保つ秘訣だとばかり。
 「折角ですから」
 その物音が、ここまで響いて来る。奴隷商なぞはその内に入れてもらえるわけもないが、マイウスの商隊もその近くに野営の準備をしていた。こちらのリズムは、軍団に比べてやや調子っ外れではある。
 時々がくりと肩が下がりそうな音を背景に、キョーコはぴょこんと人差し指を立てた。
 「更に商売なんてしてみません?」
 「ふむ」
 マイウスが満更でもない顔で首を傾げる。
 「と言うと?」
 パン職人はひとつ頷き、ちらりと軍団野営地の方角を見やった。
 「レギオンで支給されるパンは、あまり質がよくないって聞いたことがあるんです」
 「ああ、パンって言うか、ありゃ石臼が悪いんだな。小麦粉に砂利が混じるもんだから、歯がボロボロになっちまう兵もいるんだ」
 「うわあ…」
 キョーコはげんなりした顔をした。
 「それは、よくないですよね…奥歯が噛み締められないと、体の力も入りにくいですもの」
 「ああ…そうかも?けど、それが…ってまさか」
 奴隷商は彼女の職業を思い出したようだ。キョーコはにこりと笑った。
 「私の焼いたパンを、売り込んでもらえませんか?」
 「…あー…うん、まあ、気持ちはわかる、けどな。イリストゥリス様の隊だけって訳にゃ行かないだろ?」
 「別に、そんな風に限定しようとは思ってませんよ」
 「はあ?レギオン全体のパンなんか、あんた一人で用意できるわきゃないじゃないか」
 何言ってんだとばかり目を剥くマイウスに、パン屋は軽く肩を竦める。
 「正しいご意見ですね。材料からして足りません」
 「だったら…」
 「だから、お力を借りたいんですよ。軍の食料庫から小麦を出してもらって、ちょっといいパンを焼いて納入したものを各隊に持ち回りで分配…なんて話を持ちかけてみて欲しいんです。軍団の偉い方に」
 「俺が話せる程度じゃ、大して上の方にならないけどな…けど、持ち回りか…」
 奴隷商がほつと呟いた。
 「そんでも、うまいパンが出るとなりゃ楽しみができるし、ちょっとした褒賞に使うってのもありかもしれないし、何より…そうとなりゃ、幹部クラスには毎日そのパンが出されるかもしれない」
 生き馬の目を抜く業界で生きる者の勘ばたらきか、マイウスの思考はつぎつぎと展開して行く。説明の手間が省けたキョーコが逆に気後れしてしまうほどだった。
 「まあ、そんな、何でもかでもうまく行くとは限らないんですけど…とりあえず、何かしたいんですよ」
 中年男が唸った。頷いたようでも、考え込むようでもある。
 「しかし、それにしたってある程度の数が要るぞ。そんな大量のパンを、この旅の空で焼けるのか?」
 ふっ。
 と笑ったパン屋の顔は、やけに不敵な色を帯びていた。
 「ご心配なく。今日、歩きながらずっと考えてました」
 「大量のパンを焼く方法をかい」
 「ええ。と言うか、王宮で見たかまどの簡易な再現方法をです!」
 




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 書いた時点では何の気なしだったことを、あとから伏線みたいに利用できる時は妙に楽しいです。


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