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フォルトゥナタ(45)

 「王宮」
 マイウスはぱかりと口を開いたままになる。
 「そんなとこまで出入りしてんのか…いや、考えてみりゃイリストゥリス様の女だもんな」
 「下品な言い方しないでください。イリストゥリス様は、つ…妻って呼んで下さってるんですからっ」
 呟きに憤然と抗議するキョーコをまじまじ眺め、彼はへんな顔をした。
 「妻、ねえ」
 とても人妻には見えないと言いたげに胸のあたりを見ているので、キョーコはまたかと腹を立てた。
 貧乳はステータスだと言ってやりたかったが、いちいちこだわっていては話が進まない。
 「まあ、好き好きだわな…」
 まだ言うかと思ったのは腹に収め、とにかくと切り出した。
 「要するに、熱の回りが均等になればいいんですよ。王宮では広くスペースを取れるので、大きく作ったかまどに空気の通る穴をあけて熱対流を起こしてたんですけど。おっしゃったように今は旅の途中ですから、毎日移動した先でいちいち大きな、しかも精密なかまど作ってるわけに行きません」
 「うん、まあ…そりゃそうだ」
 だからの話なんだがと思うのだろう、奴隷商人は不得要領に頷く。
 それでもとりあえずキョーコに喋らせてみる気らしいので、彼女はちらと唇を緩めて人差し指をぴこりと立てた。
 「そこで、アレです」
 と指すのは、羊皮に覆われた四角いかたまり。今は馬から外されて車輪を固定されている荷車だ。奴隷運搬用のもので、ものものしく鉄格子の枠に鎧われている。発旅間もないレギオンが戦闘も経ていないのだから、今はまだ中身は空のままだ。
 「アレ、って。アレか?荷車」
 マイウスが何か不安げな声を出す。
 「ええ、それです」
 キョーコはにっこり笑った。
 「あれをどうしようって」
 「ですから、かまどにするんです」
 「はああああ!!?」
 目を剥く奴隷商。空気がびりびり震えるほどの大音声に、周囲の人々がことごとく振り返った。マイウスはそれに何でもないと片手を振り、もう片手で頭を抱えた。
 「なに、言ってんだ、あんたは…あれは俺の商売道具で、全然別の用途に充てるモンだぞ!?かまどになんかなるか」
 「ですから、するんですよ」
 澄まして答えるキョーコに、彼は酸っぱいものを含んだ表情になった。パン屋は構わずに続ける。
 「荷台から降ろした檻を積んだ石の上とかに設置して、外側に大きめに木枠を組むんです。それを更に目の詰んだ厚布で覆って、檻の下で何箇所か火を焚いて。蒸し焼きの形ですね。あ、格子から何本か鉄棒を抜かせて下さいね。平たく打って棚を作りますから。これなら空気を通す穴も設置しやすいですし、外側の木枠は組み立て式にしておけばいいでしょう」
 「いいわけあるか!!」
 ごく大雑把な説明に、奴隷商は顔を真っ赤にして吼えた。
 「何考えてんだあんたは、だからあれはそんな風に使うモンじゃなくてだな!!そもそも鉄格子を壊すことを前提にするな、商売に差し支えるだろうが。あんた、今は俺の雇われ人なんだぞ!?俺の邪魔してどうするんだ。俺は奴隷商で、あの檻は奴隷を運ぶのに使う。そこを間違…」
 「その前にローマ人でしょう!!」
 「…はあ!?」
 遮られて素っ頓狂な声を上げるのへ、キョーコは間を置かず続ける。
 「貴方が、私たち市民が当たり前みたいに商売を営めるのは、ローマという政体、ひいてはローマ軍の守る平和あってこそじゃないですかっ。だったら市民の側だって、そのローマ軍の安寧を守るためにできることをするのに躊躇するべきではありません!!」
 「な、なにムチャクチャなこと…」
 叩きつけるような勢いに度肝を抜かれたのか、商人の目が丸い。
 「それとこれとは別の話」
 「とも言えません」
 キョーコは急に声を低めた。炙られているような焦燥が瞳の底に滲んでいる。
 「クオンティヌス様を狙う人たちは、自分の権力を強めたいからあの人が邪魔なんです。今は抑えられている彼らが、暗殺に成功して勢いづきでもしたら…きっと混乱が起きるでしょう」
 もとが暴力で自分の欲求を叶えようとするやからだ。何を得ようとどんな手段に訴えるか知れたものではない、と娘は主張する。
 彼女は必死だった。
 自分の論旨が根拠において弱いことは理解している。また訴求力にしても、他人の危機感を切実に煽れるほどのものではないのだ。結局市井の人々はたくましい。上の方で混乱が起きたとして、失うものの少ない人々はそれを軽やかに泳ぎ抜けるのだろう。
 そんなことはわかっている、けれど。
 本当は理屈などではない。ただ、死なせたくない。違う。
 死なれたくない、のだ。彼に。
 これは彼女の欲求なのだ、とキョーコは胸の奥に炎を据える。だから、能力の限りを尽くしても自分で戦う。
 さしあたっては、この奴隷商の説得だ。レギオンの支給する食糧は三日分、キョーコもそれに準じ、夫に三日分の食糧を渡してある。それがなくなり次の配給が行われる前に、彼に自分のパンを届けられるルートを獲得したい。できればパンだけでなく、彼の口にするすべてのものを管理したい…
 いや、欲張っている余裕はない。とにかく、できることからだ。
 キョーコは大きく空気を吸い込んだ。






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 かまど内の対流とからへんは大ウソです。もうそういうものなんだって諦めておいて下さい。この辺きちんと書くと却ってボロが出るのではしょらせて戴きました。てへ。
 


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