たいせつでたいせつで(176)

 ふう、と。
 自分の部屋に戻ると同時に嘆息し、クオンは頭に手をやった。黒髪のウイッグを毟り取るように引く。
 それをばさりと机の上に投げると、
 「あ」
 小さく声を上げた。キョーコに見せようと持って行った封筒を、差し入れ袋と一緒に置いて来てしまった。中身は彼が7月に日本でした仕事の成果、スチールモデルを務めた雑誌の見本が宝田経由で送られて来たものだ。
 いや、見せるつもりだったのだからいいと言えばいいのだけれど、これでは彼は行かなかったことにしてくれとおかみに頼んだ意味がない。
 はあ。またしても溜め息がこぼれる。
 「何やってんだろ、俺…」
 ベッドにどさりと倒れ込んだ時、窓の外から車のエンジン音がした。父のポルシェだと気付く。
 起き上がって窓から顔を出すと、ちょうど向こうも息子の部屋の窓を見上げて来たところだった。
 目が合い、父はにこりと笑う。
 「ただいま、クオン」
 「お帰り父さん。珍しいね、こんな昼間に」
 「ああ、監督がセットに豪快な駄目出しをしてな。大幅に組み直すから今日は撮影は無理だってことになったんだ。お蔭で半日空いたから、お前もオフなら久しぶりに一緒におやつでも作らないか?」
 クーは上機嫌で尋ねて来るが、クオンはいま大量の食べ物に占拠されたキッチンを見たり甘い匂いの充満した家で過ごしたりする気分にはなれない。
 「それは…遠慮しておくよ。お腹すいてないし」
 むしろ胸がいっぱい、という状態なのだと思う。頭もか。
 「そうか…」
 見る見るしょぼんとする父のつむじを見下ろすと、少し気の毒な気もする。少しくらい構ってやるべきだろうかと思って口を開きかける彼に、アクションスターは何か思いついた顔でぱあっと笑う。
 「そうだクオン、お前、次の誕生日には免許を取るだろう?」
 とポルシェのボンネットを叩くから、運転免許のことだろう。
 「勿論。16になったらすぐ取るつもりだよ」
 答えれば父は満足そうに頷いた。
 「やはり足は必要だからな、キョーコのためにも」
 「そうだね…」
 一瞬、運転席の自分と隣のキョーコという図を思い描き、クオンは俺は馬鹿かと自分の額を押さえた。彼の懊悩には気付かず、クーは来い来いと手を振っている。
 「それなら、少し練習しないか」
 「え」
 それは、父の車を運転させてもらえるということか。公認で。
 「私有地内なら免許は要らないし、私が隣で指導してやろう」
 「今行く!」
 こればかりは断る余地がない。クオンはドアへと身を翻した。




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 短いですがここまでで。ちょっと私、リハビリが必要なようです。参ったな。



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まとめ【たいせつでたいせつで】

 ふう、と。 自分の部屋に戻ると同時に嘆息し、クオンは頭に手をやった。黒髪のウイッグを毟り取るよう

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