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おしらせとサンプル

 たいっ……………へん!!お待たせいたしました。
 たいせつ5巻、さきほど入稿を済ませました。何事もなければ、夏コミに間に合うはずです。間に合ってくれ…!(祈)
 通販の方には、同じ頃かちょびっとだけ早くお手元に届くのではないかと思います。
 あと、ダウンロード版のデータはこれから作ります。その前にちょっと眠っていいでしょうか…他の原稿もあって二徹半なのですよぼよぼ。夜か、遅くとも明日には案内を差し上げます~。
 
 夏コミ当日は、友人が預ってくれることになりました。机の上には無理に置かなくてもいいと言ってありますので、ない場合は売り子さんに聞いてみてください。
 ・8/16 東ペ-23a 手妻塾
 ・8/17 東モ-29a 鬼碧庵
 併せて既刊もご希望の場合はご予約をお願いいたします。それ以外の分は預けられませんので、通販で「イベント受取・支払」を選択して、備考欄に受取希望日をご記入ください。通販ページ→http://hanaute.web.fc2.com/sboff.htm
 なお、当日に何か不都合が起き受け取りに来られなかった、という場合はあとから通販への切り替えも可能です。私め、もう体がついて行かずぼちぼちイベント参加はやめて行くつもりでおりますので、機会のあるうちにご利用いただければと思います。

 追記にサンプルを入れておきます。まるまる書き下ろしの章です。


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 「ドウして俺が、君に名前を教えなきゃいけないノ?」
 自分でも予期していなかったほどに冷たい声が出た。少女がひくりと固まる。まずい、泣いてしまうだろうか。自分の不安定さをこんな小さな子に押し付けたのだと自覚のある彼は俄かに狼狽する。
 「ご、ごめんなさい!」
 勢いよく謝られて、狼狽は更に加速した。
 「いや、今のは」
 どうにか取り繕うことはできないか。必死に頭を働かせるが、いかに大人びた感情を持ってい(ると自分で信じてい)ても、彼とていまだ十歳の子供でしかない。即応じるとも行かず空いた間に、意外な言葉が滑り込んだ。
 年下の少女は、妙に真剣にこそりと言う。
 「だいじょうぶ、本当のお名前じゃなくてもいいの。ただ、なんて呼べばいいのか知りたいだけなの」
 「…は?」
 寸時、彼は彼女が何を言っているのか理解できなかった。日本語ムツカシイ。何度も目を瞬いていると、彼女は真剣な面持ちのまま更に声を低める。
 「そうよね、妖精さんとかはおなまえをおしえると相手にしはいされちゃうから、かんたんにおしえたりしないのよね!」
 「ええと」
 ああ、そういう話。
 芝居の勉強のために観たり読んだりする中にはファンタジー作品の類もあるから、真名思想については触れたことがある。名はそのものの本質を指し、従ってそれを他者に掌握されればその意思に従属せざるを得ない。
 しかし意味を把握したところで、理解はまだおぼつかなかった。
 そもそも自分の態度を悪く取られなかったことに、呆れればいいのか安心すればいいのか。本当に善意しか知らない少女なのだと思い、その感慨が胸を再び毒の棘で刺すのを感じた。
 コンナ、コウフクナダケノコ。
 危険だと思った。適当に相手をして適当に追い払ってしまわなければ、黒い毒が全身に回ってしまう。そして自分はそれに操られて、更に彼女に当たるような真似をしてしまうだろう。
 この子を傷つける。幸福と夢にひびを入れて、きらきらと潤む瞳を曇らせて、どうだ現実を見たかと嘲笑う。もしかすると、それで少しは気が晴れることもあるかもしれない。一時は。そのあとは?
 後悔するに決まっている。悪意のかけらも彼に向けていない小さな女の子を感情のままにいじめるなど、最も恥ずべき行為だ。
 彼はどうにか自制に成功し、失点を埋め合わせるべく可能な限り優しく微笑んだ。
 「別に、そういうのじゃナイよ。ごめんね、いやな言い方をして。いきなり話しかけられてびっくりしたから、少し混乱しちゃったんだ」
 我ながら苦しい言い訳ではある。それに、こんな小さな子に混乱などと言って理解できるだろうか。
 危ぶむ彼に、少女はひとつ瞬きをしたあと首をかしげる。
 「そうなの?」
 ちょっと考える顔をしてから、彼女はぺこりと頭を下げた。
 「そうね、しらない人が急に話しかけて来たらびっくりするわよね。ごめんなさい」
 動作がやっと幼児期を終えた年頃とも思えないくらいに綺麗に決まっている。邦画の役者でもこうも身についた感じはしないと思うほどだ。それに、やっぱりきれいな、きちんとした日本語を話す。
 きっと、いい家できちんと躾を受けて育っている子なのだろう。年に比べて聡明でもあるようだ。追加された印象は不快なものではなく、彼女の素直さ律儀さが眩しい。
 初めて会うタイプだなあ、と黒いつむじを見下ろしていると、少女の耳がすこし赤くなっているのに気付いた。じきに上がった顔も同様で、しかも眉と口の端が情けなく下がっている。
 「いや、そんなに気にしないで」
 口が勝手に動いていた。
 「怒ってるわけじゃナイんだ」
 「えっと…」
 キョーコと名乗った少女は、おずおずと伺う視線を持ち上げた。
 「じゃあ、おなまえ、聞いていい?」
 「ぷ」
 クオンはとうとう噴いてしまった。大した粘り強さだ。根性がある、ともう一つ新たなデータが書き加えられた。
 「モチロンいいよ。俺はね、クオンっていうんだ」
 笑いながら差し出した彼の右手に、キョーコはスカートにこすりつけた手でちょこんと触れる。
 「コーン?」
 「え」
 あれ、いま唐突にある穀類の名前を聞かなかったか。
 しかし、いやそうじゃなくてと訂正を入れるよりも早く少女が頷く。
 「コーン、コーンね。おぼえたわ、コーン」
 「あー…う、ん」
 「よろしくね、コーン!」
 あまりに満足そうなので、少年は何も言えなくなってしまった。まあ行きずりでしかないのだし、彼女が覚えやすいならそれでいいかと考え直す。
 「こちらこそ」
 会話を続ける気になったのも、おそらくそれと同じ理由だった。この場だけを適当に繋いで、何か得るところがあってもなくてもそれきり、次はない。それでいい。こんな幸福そうな少女と関わるには、自分はもうひねくれすぎている。
 自嘲半分に考えたところで思い出した。彼女はさっき、泣いたばかりの目をしていたではないか。
 まあどうせ、何か小さなことで親に叱られたとか、友達とたわいのないけんかをしたとか、そんな程度の理由なのだろう。
 ならばちょっと愚痴でも聞いてやって、優しく宥めてやればきわめて平和に友好的にお引き取り願えるに違いない。
 彼はそうした処世術に従って行動した。手を伸ばし、まるい頬に触れる。指先で涙のあとを辿って、そっと微笑んだ。
 「あ、あの。え、と」
 「キョーコは、どうして泣イテタの?」
 「あっ」
 鋭く咎める声が返り、少し驚く。よけいなお世話というものだったろうか。
 しかしキョーコが続けた言葉は、彼の予想や心配から大きく外れたものだった。
 「呼び捨てはだめ」
 「え」
 「キョーコって呼んでいいのは、ショーちゃんと不破のおばさまだけなんだから。コーンは、キョーコちゃんって呼んで」
 「それは…失礼シマシタ」
 クオンは困惑しつつ謝る。彼は母語に『ちゃん』に相当する語彙を持たず、基本フレンドリーな国民性の国、しかも殊更に社交性を必要とされる社会で育っている。感覚的に理解しがたいのだが、いやだというものは仕方ない。
 「キョーコちゃん、ね。じゃあキョーコちゃん、今言ったショーチャンってダレ?トモダチ?」
 おばさまというのは、確か両親の姉妹のことだ。もしくは年かさの女性一般。明らかな個人名の方を尋ねてみると、キョーコがぱあっと笑った。
 「」
 「ショーちゃんはね、私の王子様なの!」
 「は?」
 一瞬だけ胸に覚えた衝撃に首を傾げる間もなかった。私のオウジサマ=my prince。変換した途端にぎゅうと眉根が寄る。何だろう、何か面白くない。
 「あのねあのね、ショーちゃんはとってもかっこよくって、奇跡みたいにお歌がじょうずなの!ちょっとだけワガママなところもあるけど…それは自信があるからなんですって。じゃあしかたないわよねっ」
 彼のもやもやを勿論知らず、少女は拳を握って力説してくれた。わよね、と同意を求められても反応に困るのだが。
 「ええと…
 「そいつのせいで泣いたノ?そいつが、ワガママだかラ」
 「えっ」
 今度はキョーコが言葉に詰まった。眉が見る見る情けなく下がって行く。同時に光を吸って輝く瞳が水の幕を張るのを見、クオンは驚きに目を瞠った。
 泣かせてしまった。しかも、どうしてなのかわからない。それ以上に。
 美しいと思ったのだ。
 「キョ、ーコちゃん」
 声がかすれる。手を伸ばしかけた時、キョーコはふるふるかぶりを振った。びくりと手が止まる。
 「…ちがうの」
 ぽつりと言った少女は、スカートのポケットに手を突っ込んで俯いた。
 「ちが、うって?」
 クオンはぽろりと言葉を零す。
 尋ねない方がいい、と理性は彼に忠告している。この場限り関わらないつもりなんだろう、そんなに踏み込んでどうするんだ。誰だって自分の責任は結局自分しか持てないのだから、迂闊に深みを探るものじゃない。
 なのにどうしてか、もう彼女に向かってしまっているものがあった。
 「…の…で」
 「え」
 ポケットに入れたままの手がもぞりと動くのに気付いた。何か握っているようだ。
 「塾の、テストで…っ。私、ちゃんと…あんなに勉強したのに、百点取れなかったの…!」
 さっと突き出された手には折り畳まれた紙片がくしゃくしゃに握りこまれていた。
 「え、と…」
 見ていいってことかな?クオンは迷いながらそっとそれを取り、拡げてみた。予想通り、テストの答案用紙だ。塾という単語はぴんと来ないが、米国のアカデミックキャンプ的なものだろうか。(※違います)
 「どうしてこんなにバカなんだろお…っ」
 キョーコは見も世もなく嘆くのだが、用紙の右肩に記されている数字はけして低くはない。
 「バカじゃナイよ。イイ点数なのに」
 「だめ。百点じゃなきゃだめなの。お母さん、私の子なら百点で当たり前だって。それ以外なんて許さないって…」
 「そんな…」
 教育ママとかいうものか。こんな小さなうちから厳しいことを言う。
 「百点じゃないと、絶対褒めてくれナイの?」
 キョーコの方がぴくりと震えた。
 「…ないの」
 「そうか…」
 呟きはほとんど声になっていない。変なことを聞いてしまったと後悔するクオンは、
 「百点でも、褒めてくれない」
 続きの苦さに顔を顰めた。そうだ、キョーコは言った。
 『私の子なら』
 『百点で当たり前』。
 今までの印象を修正する必要を感じた。この子はけして、幸せなだけの子供ではないようだ。もしかしたら、少し似ているのかもしれない。
 『クーの子なら』『できて当たり前』と言われ続けて来た彼自身と。
 だから、こんな風に話し込んでいる?
 同情。傷の舐めあい。そんな言葉が浮かんだ。そんなものなのだったら、そろそろ終わりにしたほうがいい。
 思う彼の目の前、少女はかくのたまった。
 「次は絶対百点取るんだからっ」
 「は?」
 「もっと勉強して、次のテストは百点取るの!!」
 クオンは耳を疑ったが、キョーコは確かにふんぬと小さな拳を握っている。もう泣いてはいない。それどころか雪辱に燃えているさまに、思わず拍手しそうになった。
 彼にもこんな時があった。
 少しくらいうまく行かないからっていちいちくじけてはいられない、と気を取り直し、両親には心配や迷惑をかけたくない、と強がって一人で拳を握った時があった。初めの頃は、そうだったのだ。
 けれど時間の中でそんな気持ちは磨り減って、人を恨み世を拗ね人生を諦めて、どんどんひねくれ、捻じ曲がり始めている。いつまでも子供のまま純真ではいられない。いられなかった。
 彼女も、いつかそんな風に?
 疑って、たかがテストだと思い直す。彼のように、早熟にも生涯の業と決めたものがあるわけではない。
 そんな傲慢な気持ちで、ごく無責任に頑張ってねと言った。
 「うん!」
 キョーコが笑う。彼は目眩を覚えてよろけた。
 「コーン!?」
 びっくりした声に何でもないと答えようとしたのに、ひりつく喉からはかすかな空気だけが洩れる。視界が暗くなり、足に力が入らずに膝が砕ける。
 「どっ、どうしたの!大丈夫!?」
 おろおろと添えられる手に負荷をかけないよう、根性ひとつで踏ん張った。どうにか倒れることだけは回避して、木陰の岩を指す。
 「大丈夫、だけど…チョット、あの辺に座ってイイ、かな」
 今度はかすれてはいても声が出た。キョーコが勢いよくぶんぶん頷く。
 「もちろんよ!座りましょう、今すぐ!」
 「アリガトウ…」
 「お礼なんて」
 岩までは十五歩ほどだ。ともすれば力の抜けそうな脚を叱咤して進む彼の腰に、キョーコが取りついてうんうん補助しようと頑張っている。正直なところあまり助けにはなっていないけれど、気持ちが嬉しくて受け入れた。
 やっとのことで岩にたどり着く。そこへ文字通り尻を落とし、ふうと息をついた。途端にぐるんと目の奥が回る。
 ごろり。戯れを装って岩の上に転がった。ひんやりした感触が気持ちいい。
 「はい、これ」
 キョーコが背中に下げていた麦藁帽子を彼の顔に載せた。でも君が。遠慮する前に、
 「ちょっと待っててね」
 ぴゅうと川へ走って行く。じきに戻って来た彼女は、
 「これも」
 帽子をちょいと上げ、赤いチェックのハンカチを彼の額に載せた。冷たい水で濡らして絞ってある。戯れで寝転んだわけではないと、子供ながら聡明な彼女にはバレバレだったようだ。ちょっと気恥ずかしい。
 キョーコは更に彼の世話を焼く。
 「気分は悪くない?のど渇いてるなら、これ飲んで。あっ日本茶飲める?駄目だったら、好きな飲み物言ってくれれば近くのお店で買って来るわ」
 ごそごそ取り出したのはタオルハンカチで包んだミニサイズのペットボトルだった。用意のいい子だ。
 「アリガトウ。お茶、飲めるよ」
 「そう、よかった。あ、これで首とか拭くと楽かも。それから、ここ虫がいるから虫よけと、日焼け止めも塗った方がいいかしら…コーン白いもの」
 次から次へと出てくる。カバンも持っていないのに、この質量をどうポケットに収めたのか。押し付けられたウェットティッシュを見つめて感心してしまった。
 こういうの何て言うんだっけ。甲斐甲斐しい…うん、それもある。ああ、所帯じみてる?
 考えたことは賢明にも口に出さなかった。
 肘をついて身を起こし、お茶を一口含んだ。凍らせてあったようで、冷たくてほんのり甘い。溶け残りの氷ががろりと動く。日本茶はあまり得意ではないけれど、これは美味しいと思った。ふう、と今度は満足の息を吐く。
 「ゴチソウサマ。ゴメンね、気を遣わせて」
 ペットボトルを返すと少女がかぶりを振る。
 「ううん。きっと、妖精界はずっと春で、夏の暑さなんて初めてなのよね」
 「えーと…」
 クオンは少々混乱した。このファンタジー趣味と現実性の共存はどうやって培われたんだろう。
 「ねえ、日射病とか熱中症だったら大変よ。私、おとなの人呼んで来ましょうか。コーンのお家は近く…ないわよね。あっ、妖精界の道は距離とか関係ないのかしら!?」
 やばい、暴走し始めた。こんな所へ泣きながら一人で来る子だ、行動力のある子だということはわかっている。クオンは慌てて起き上がった。
 「いや、平気だよ。ちょっと暑さ負けしたダケ。って言うか、暑いだけなら問題ナイんだけど、湿度についてけなくて。
 「でも君のおかげでずっと楽になったし、そろそろ一番暑い時間も終わるカラ、もう少し休んでれば大丈夫」
 「そう?」
 「そう」
 「でも無理しちゃだめよ」
 しっかり念を押された。
 敵わないな。思いながらコーンは笑ってしまう。下手をしたら、これはにやけていると言うべきかもしれない。
 「なに笑ってるの、ねえ本当に大丈夫?」
 おっと、心配されてしまった。
 「大丈夫だよ。笑ってるのは、楽しいカラ」
 「え…」
 ますます不安そうな顔をするキョーコに、別に頭がおかしくなったわけじゃないよと苦笑する。
 「こんな風に人に世話を焼かれるのって、くすぐったくてタノシイんだね。初めて知った」
 「え…」
 苦笑がだんだん本物の笑顔になって行くのが自分でもわかる。見上げたキョーコの顔は一瞬ぽかんと緩んで、それから、一気に血の色を浮かべた。
 「えっ!?」
 「あ、やだ、お顔あつい…だってコーン、ただでさえきれいなのに、笑うとすさまじいんだもの…」
 驚く彼から身を引いて、少女はぱたぱた自分の顔を扇ぐ。
 「スサマジイってどういう意味?」
 残念ながらクオンは日本語のボキャブラリーが乏しい。尋ねるとキョーコは自分でも首を傾げた。
 「えっとね…すっごくすごいこと?」
 「ふうん…?キョーコちゃんは、小さいのに難しいコトバ知ってるんだね」
 褒めたのにいやな顔をされた。
 「小さくないもの。私、もう六才で、小学生なんだからっ」
 これは今日一番の驚きだった。見た目だけなら幼児、口がしっかりしているからもう少し上かと踏んで幼稚園くらいだと思っていたのに。東洋人の年齢はわからないとよく聞くが、子供にも適用されるものだったとは。
 しかしクオンは役者魂にかけて考えたことを顔に出さなかった。
 「それは失礼。でも、六才にも難しいコトバじゃあないの?」
 にっこり尋ねるとキョーコはちょっと首を傾げた。
 「そうかしら…お客さんとか、おとなと話すことが多いせい?」
 お客さん。
 「キョーコちゃんの家は、何かショーバイしてるんだね。ちゃんと手伝ってるんだ、エライなあ」
 「ううん」
 えらくなんてないのよ、と言ったキョーコはひどくおとなびていた。六才だと聞いたばかりで、もっと幼く見えると思っていたのに。
 このアンバランスな少女は何者だろう。
 自分の中でキョーコへの興味が確定するのを感じる。いや、とっくに確定していたものを今やっと認めた。それが正しいに違いない。
 そんな気持ちは忘れていたはずだったとクオンは戸惑いに揺れる。他人に積極的に関わるつもりなんてなかった。
 況して、ここは父のふるさととは言え彼にとってはいっとき訪れただけの異郷だ。キョーコとも、少しの間適当に友好的に相手をして、それきりになることを前提に話をし始めた。
 なのにどうしてだろう。彼女といると、世界にはまだ美しいものが残っているのではないかと思ってしまう。信じたくなってしまう。
 クオンは少し青を緩めた空を見上げた。
 夏の陽も早や傾きかけている。少女はそろそろ家に帰らなくてはいけないのではないだろうか。そう思って、それが寂しくて、そんな自分が不思議で。でも悪い気分ではない。
 「キョーコちゃん、家に帰らなくて大丈夫?もう夕方になっちゃうよ」
 「あ、うん…」
 キョーコも空を見上げ、それから彼の顔とある方向を順に見た。そちらに彼女の家があるのだろうか。
 「でも、コーン」
 「俺ならもうダイジョウブ、すっかり元気だよ。君が帰るなら、ちゃんと送れるくらい」
 「え、そんな。私、一人で平気よ?」
 「だめだめ。女の子なんだから、一人歩きなんてしちゃイケナイよ」
 「でもそしたら、コーンに会えなかったもの」
 「…ナルホド」
 確かにごもっともだ。もう、それが寂しいことを否定する気はない。
 「でもね、昼間と夕方とじゃ条件がチガウし、君が一人でいるってことを俺が知ってるか知らないかでもやっぱり話がチガウんだよ」
 こちとら米国の大人社会で育って来たのだ、エスコートは当然の義務と心得ている。
 食い下がるクオンに、キョーコはぱちぱちと目を瞬く。おかしくて、妙にかわいらしい。噴き出すのをこらえて手を差し出した。
 「さあ」
 「う…でも…」
 今度はちらちらと彼の顔を見ている。あ、と気付いたのはきっと彼も同じ気持ちだったからだ。
 「明日、迎えに行くよ」
 「!
 「うん!あのね、午後なら…二時頃なら大丈夫!」
 「わかった、二時だね」
 また会おうね。子供同士のそんな約束を、彼は初めてしたかもしれない。こんなにわくわくするものだなんて知らなかった。





 クオンとキョーコの出会いって夏休み中っぽいので、塾のテストだったのかなあと思った次第です。

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