Ciao-ciao,Bambina!

 キンコン♪
 ドアチャイムの音に、蓮は飛び立つように玄関へ急いだ。丈高い背中を見送り、キョーコは
 「もしかして」
 小さく呟く。
 果たして、数分も待たずリビングへ戻って来た蓮は両手に巨大な箱を抱えていた。見たところ、大きさの割には軽そうではあるが。
 「…また何か買ったんですか」
 呆れ顔の新妻に、ハリウッド進出(帰還?)を決めてスケジュールの調整に入っているトップ俳優はにっこり笑顔を返す。
 「うん、君の服とか靴とか。アメリカに行っちゃったら、サイズが難しいかもしれないだろう?」
 「ああ、なるほど。ありがとうござ…
 「そんなに!!?」
 微笑みかけたキョーコは、箱の大きさを見直して目玉をひん剥いた。洗濯機くらい楽勝で入りそうなダンボールなのだ。しかし俳優は平気の平左、ご満悦とばかりにこにこしながら言った。
 「最近は、マタニティも可愛いのが沢山あるよね」



 キョーコが自失している間に、ここにいたる経緯をご説明申し上げよう。
 事の始まりを、キョーコの20歳の誕生日に置く。この日彼女は、最前から交際を続けている恋人、敦賀蓮に結婚を申し込まれた。プロポーズの言葉がふるっている。
 『君はもうとっくに俺のものだけど、それをちゃんと形にしたいな』
 独占欲を1ミリたりとも隠そうとしない恋人に、真っ赤になったキョーコは何も言い返せずに頷いた。
 さあ婚約・会見・蓮の実家訪問から正体暴露、更にはハリウッド進出。二人はこれでもかと日本中を騒がせ続ける。
 そうして上を下への大騒ぎの中どうにか華燭の典を挙げ…半年を経たところ、世間は京子の妊娠を知らされた。しかし何しろ真っ当な夫婦である当の本人たちがでろでろに幸せそうだし計算が合わないと言うでもなし、世間様はこのニュースばかりは穏やかに受け入れた。
 そんな次第で現在、新婚夫婦は第一子の誕生を指折り数えるように待って愛と幸福に充ち満ちた生活を繰り広げているところなのだが…
 キョーコにとっては、小さくない問題が一つ。
 新夫(これもにいづまと読む)にしてパパ予備兵となった蓮の、そら恐ろしいほどの甘さ。これである。
 それは、恋人時代いやそれ以前からして兆候は見られた。
 誕生日にイベントに記念日にデートに、また何もなくても。彼は彼女にかける手間も費用も惜しもうとしなかったから、彼女はむしろ居心地が悪い思いをすることすら間々あったのだ。
 しかし…それすら、蓮にしてみれば抑えていたのだと知った結婚後。自身女優として人気実力兼ね備え、それに見合った収入を得るようになってさえ抜けない庶民感覚を有するキョーコは、夫をどうにかしつけ直さねばなるまい、せめて自分のことは抑えてもらうようにと事あるごとに指導を重ねて来た。
 …のだが。彼女の妊娠を機に、ついにすべては無になった。
 ドイツから120万円のベビーベッドを取り寄せて「子供のため」、
 アメリカから知育に役立つと言う触れ込みのガラガラを16万円で購入して「子供のため」、
 女の子だとわかるやイタリアに赤ん坊用のバスタブを、イギリスに最高級のバスグッズを、フランスに可愛くない値段の可愛らしいピンキーリングを注文してさああとはとまだ思案している。
 自分との子をそこまで楽しみにしていてくれると思えばキョーコも文句を言い辛く、諦め顔で受け入れるうちに蓮はすっかり調子を取り戻した。更には、
 「赤ちゃんばっかりで、キョーコが妬くといけないから」
 しれっと言い放つと『妬きません!!』と力説する妻の声を右から左に聞き流し、多忙の身に嬉しいネット通販を利用して贈り物の絨毯爆撃を開始するではないか。しかも蓮の趣味はいちいち高級なのだ。
 かくて、今や敦賀邸の入る高級マンションの前の路上に宅配業者のトラックが停まらない日とてないという有様になっている…



 我に返ると、キョーコは長い息を吐きながら切り出した。
 「…何度も言ってますけど」
 「うん?」
 「無駄遣いをしないで下さい。マタニティウェアなんて、タンスが一本必要になるほど買わなくていいんです」
 「あ、じゃあタンスも」
 「つるがさん?」
 彼女はいまだに夫を苗字で呼ぶ。
 「ハイ」
 剣呑な低い声にちょっと縮む蓮を見据え、彼女はやんわり微笑んだ。
 「お気持ちは、とっても嬉しいんです。でも…」
 聖母のように。
 「経済観念に差がありすぎると、一緒にいるの辛いですよね」
 地獄の獄卒のように。
 蓮がさっと青ざめた。
 「キョ、キョ-コ。脅すのは…」
 「一般論ですけど?」
 「……」
 俳優がそろそろと降参する。
 「今後はセーブします」
 「やめる気はないんですか。…仕方ないですね」
 「じゃあ少しなら」
 「そうですね、ありがたく受け取ります。そして私が、全部自分で片付けます」
 「ええ!?」
 「何ですかその不満そうな声。言っておきますけど、今後一切、私のものは私がこの手で片付けますから。人として当然でしょう?」
 「でも、こんな重いもの…」
 「今度から、重くないんですよね」
 「うっ…」
 絶句する蓮をにこやかに見つめ、新しい生命を身に宿して完全となった女はしみじみ思った。
 結婚前はあんなに大人に見えてたのに、この人って時々変に子供っぽいところがあるみたい。
 …まあ、それも、可愛いんだけど。
 
 
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 はい、キリリク強化週間(笑)です。本日はみなみなみデーに瑞穂様から戴いたリクエスト、「結婚してパパとママになった蓮キョ」をお届けしまっす!
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