FLAWLESS

 いつものようにキョーコが作った食事を二人で摂り、リビングでコーヒータイムとなった時。
 蓮はものすごくアタリマエくさい口調でほいと告げた。
 「会見、3日後に決まったから」
 「はい?」
 自分のコーヒーにミルクを入れていたキョーコが、ミルクピッチャーを置きながら聞き返す。その左手の薬指に燦然と輝くダイヤモンドリング。先だって蓮から贈られたものだ。
 「何か発表なさるんですか?」
 問いを重ねると、婚約者である俳優はついと長い指を伸ばして彼女の鼻先を押す。
 「発表なさるんですよ」
 「…?」
 意味ありげに笑うのを見上げ、キョーコはじわりと湧く不安を覚えた。何か企んでいる時の顔だ…
 「あの」
 もの問いたげな女優に、俳優はにっこり天上の笑みを投げかけ…
 やはりアタリマエに言った。
 「君もね」



 「えと、えと、えと…こここ交際の切っ掛けはって聞かれたら、ええと…ええと…」
 「キョーコ」
 口の中でぶつぶつ呟き続けているキョーコの手を取り、蓮が苦笑する。
 「そんなに緊張しなくても大丈夫、俺に任せて」
 「はい~、頼りにしてます~…」
 涙目で寄りかかられ、俳優は軽く目を瞠った。素直に自分を頼るキョーコなどという珍しいものが見られるとは、今日はなんといい日なのだろう。
 蓮は所属事務所の社長に感謝した。彼はキョーコとの婚約を報告する蓮に言ったのだ。
 『なに!本当か、それはめでたい!!でかしたぞ蓮!!』
 愛の欠落者第一号を見事射落とすとは天晴れ、とローリィは喜び舞った挙げ句に即時記者会見の準備を整え始めた。
 そうして関係各部署を駆けずり回らせた結果3日後すなわち今日、二人の婚約発表が行われることになったのだった。
 主役の片方は表面上落ち着いているが内心浮かれ放題。もう片方は羞恥と狼狽と不安に縮こまり、屠殺場の扉でも見るように会見場へ続くドアをちらちら気にする、そわそわ指輪をいじる、もぞもぞ座りなおす。
 果てはこっそりひとり予行演習を始めたところで、婚約者に頼もしげな言葉を吐かれて思わずすがりついたのだったが、ここでドアの向こう側からノックの音がして飛び上がった。出て来いの合図だ。
 「ひ!」
 「大丈夫だってば。ほら、おいで」
 蓮はするりとキョーコの腰を抱えて立たせる。
 エスコートされてドアを抜けた瞬間、キョーコはいくつものフラッシュを浴びて目が眩みそうになった。よろけかかるのを蓮がしっかりと支える。
 二人寄り添いあうように雛壇に上り、用意された椅子に向かう。長机の上には気の早いブーケよろしくマイクの林。
 「あっ」
 足がもつれるのか、キョーコが椅子に躓いた。蓮が動いたと思ったら、よろめく華奢な体をさっと掬い上げて椅子に座らせた。いま何か起こったか?と疑わせるような早業に、取材陣は却って静かになる。
 蓮は隅に控えるマネージャー、次いでスタンドマイクの前に立つLMEの広報部長に目を遣った。心得た部長が会見の開始を告げて後方の椅子へ下がる。
 二人揃って綺麗に一礼してから、蓮は不安げなキョーコに瞳を向けた。そこに滴る甘さ、やさしさ。ばさばさとけたたましいのは、当てられた記者たちがメモ帳を取り落とす音だった。
 それも意に介した様子なく、俳優はマイクの上に長身を折る。
 「えー…記者の皆様には、お忙しいところ我々の婚約会見にお運び戴きまして」
 「じゃ、じゃあ本当なんですね敦賀さん!!京子さんとの婚約というのは!」
 何だと思ってここに来たのか、質問を飛ばす女性記者の声はやけに悲痛だ。しかし蓮はにこにこと、
 「勿論です。やっとOKを貰ったのに、嘘にされてはたまりません」
 だだ洩れの本音を気にする様子もなく言い切った。
 「や…やっととは、敦賀さんが京子さんにアプローチしての婚約だということですか!?」
 「そうですよ」
 やはりにこにこ答えるトップ俳優の横で、若い女優が真っ赤になって縮こまっている。
 「昨年末の彼女の誕生日に、私から結婚を申し込みました」
 蓮はいつもの『俺』から一人称を改め、穏やかな、真剣な声で言った。
 「京子さん!プロポーズの言葉は!?」
 「えっ」
 突然水を向けられたキョーコが固まる。反射的に横に座る男の顔を見上げると、構わないよというように頷かれた。しかししかし、あんなことが人前で言えるだろうか。『君はとっくに…』
 ぶるぶる。かぶりを振る女優に集まる記者たちの不思議そうな、蓮の不満そうな視線の中、彼女は震える声を励まして口を開いた。
 「あ、あの…詳しくはその、秘密ですけど。指輪を戴いて、Yesしか聞きたくないって」
 「強引ですね、敦賀さん!」
 記者たちの列から好意的な笑い声が上がる。それに返される、周囲の空気を浄化するような光り輝く微笑。
 「それはもう。絶対に逃したくない人なので、私も不退転の覚悟でした」
 「つっ敦賀さん~」
 羞恥に染まる頬を両手で覆い、キョーコは情けない声を上げる。
 「京子さん、その左手のは婚約指輪ですね!?見せて戴けませんか!」
 飛んで来た声に一瞬左手を見遣り、おずおずと俯いた顔の前に出した。
 「ハ、ハイ…そうです。敦賀さんに、戴きました」
 「ダイヤですか、またよさそうなモノですね…敦賀さんの気合を感じます」
 蓮がにこりと笑う。
 「仰る通りです。両側のは彼女と俺…私の誕生石、メインの石は、私にとっての彼女という意味合いで」
 「と仰いますと?」
 「彼女はフローレス。純粋で、強くて、繊細で。とても眩しい人です。そんな彼女をずっと守って行きたいと願いをこめてこの指輪を贈りました」
 どひゃ~。キョーコを見つめる敦賀蓮のいとおしげな笑みと声に、会見場内の室温が3度は上がったようだった。
 「つ、敦賀さん、もう、京子さんにベタ惚れなご様子ですね…こちらが当てられっぱなしなんですが」
 「すいません」
 蓮がちょっと笑う。
 「今ちょっと、喜びが抑えられなくて…何しろここに至るまで散々苦労して来ましたから。もうね、彼女にはスルーされて逃げられて躱されて曲解されて誤解されて…ほんと、よくめげずに頑張ったと自分で感心するくらいです。ちょっと迫るとすぐ引かれてしまうので、じっくりじっくり時間をかけて、少しずつ気持ちを解すようにして…」
 「天下の敦賀蓮が、そんな手間を!?京子さん、凄いですね!」
 「え、いえ、あのだって。て、天下の敦賀蓮ですから。まさか本気で…」
 「口説かれてるって思ってくれなかったよね。お蔭で、俺がどれだけ悶々としたか」
 「えっえええっ!!?そんな」
 自分たちの世界を作るバカップルを、記者たちは点目で見守っていたが、一人がはっと覚醒した。
 「待って下さい、じっくり時間をかけてって…敦賀さんは、一体いつから京子さんを!?」
 途端にそうだ、そこを詳しく!と同調するいくつもの声。蓮が場内を眺め渡してにんまり笑う。
 「聞いて戴けますか?」
 記者たちは一瞬怯んだがもう遅い。敦賀蓮・京子の婚約会見は、蓮による積年の苦労とのろけの独演会と化したのだった…



 「疲れた…」
 蓮のマンションに入るや、キョーコがぐったりと吐き零した。
 「ああ、個人での会見はキョーコは初めてだっけ?」
 しれっと問う蓮をじとりと睨み、彼女はぶっつり言う。
 「じゃなくて。人前であんな…」
 ブスくれているが頬が赤い。俳優は恥ずかしがりの恋人を引き寄せて唇を重ね、耳もとに囁いた。
 「今まで苦労させられた意趣返し。君だってちょっと困ればいいんだよ」
 「…イジワル…」
 「嫌いになった?」
 くすくす笑う蓮に、キョーコはジト目のままかぶりを振る。
 「有り得ません」
 破顔した俳優は婚約者をさっと抱き上げた。こぼれそうに大きな瞳を見つめ、吐息まじりに呟く。
 「本当に君は…」
 君の気持ちこそが、フローレス。



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 キリリク作品でぃす。
 今回はみなみなみデーにねぼすけ様から戴いたお題「成立後の記者会見、蓮ベタ惚れ・バカップル状態」です。前から持ってたネタを便乗させてしまいました♪
 キリリク連話シリーズの2番目に入ります。

 フローレスは石の品質で、傷や不純物のまったくない純粋結晶のことです。
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