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ただ乞いて(1)

 「お願い、します…」
 と確かに言った。大好きな人に、けれどそう言えない人に。ひと晩だけでも、この人が自分のものになるならと。
 けれど…
 強く抱き寄せられた瞬間、もう後悔していた。
 「あ…」
 思わず逃れようともがきかけると、蓮の腕にはますます力がこもる。
 「敦賀さん…苦しい、です…」
 弱く震える訴えに俳優は耳を貸さず、ただ彼女の耳に囁き入れた。
 「このまま、抱いていい?」
 キョーコがびくりと肩を跳ねさせた。
 「だっ…駄目、嫌です!お、お風呂…お風呂入らせて下さい…!」
 蓮の手が緩んだ。ゆっくりと、名残惜しげにキョーコの肩から腕を伝って離れて行く。
 「…OK、ゲストルームのバスにどうぞ。その間に俺もざっとシャワー浴びるから…俺が待ってられる内に、出て来て。でないと乱入するよ」
 「らっ!?敦賀さ」
 言いも果てず、言葉は乱暴に塞き止められた。
 「んっ」
 男の名前の形に開いたままの唇をそれよりも大きな唇が覆い、彼女の中身を飲んでしまおうとするかのように強く吸い上げる。
 キョーコは苦しげに眉を顰め、つかまれている腕を振り解こうともがいた。びくともしない。
 トップ俳優の自宅の馬鹿げて広いリビングに、くちゅ、ぴちゃ、と淫らな液音が繰り返し響き、彼女は恥ずかしさに泣きたくなった。
 男の腕を叩いても胸を押しても、唇は離れてはまた合わせられる。
 散々に貪られ酸欠を起こしそうになった時、やっと解放された。二人を繋ぐ細い細い銀の糸を引き、へたへたと床に座り込んでしまう。
 浅い呼吸を繰り返す細い肩に手を添えて立たせ、蓮が呟くように言った。
 「…行って。タオルなんかも、置いてあるから…」
 声に含まれる切迫から逃げ出すように、キョーコはゲストルームへと身を翻した。

 

 
 「あ、の…お、お待たせ、しました…バスローブ、お借りして…」
 キョーコがもじもじと寝室に入った時、蓮は巨大なベッドの上、壁に背を預けて目を閉じていた。光量を抑えた室内に、影のように沈んで。
 「敦賀さん?」
 「君の足音を聞いてたんだ…逃げ出すんじゃないかと思って」
 ぽつりと言われ、彼女は小さく息を呑む。ばれてる、と唇が動いたようだった。
 俳優がゆっくりと目を開く。端整な顔に滲み上がる、艶麗な微笑。
 「でも、来てくれた」
 「よ…」
 るの帝王、と言いかけた声こそどうにか飲み込んだものの、キョーコは思わず一歩下がってしまった。蓮は視線だけでそれを追い、するりと右の手を差し伸べる。
 「おいで」
 こくり、とキョーコの喉が鳴った。
 足が震える。唇がわななく。心が、ひどく、痛む。この手を取ることは正解じゃないと叫ぶ。行くな。欲しがるな。
 早く、逃げ出して、もう、二度と      
 大きな瞳に強い感情が走った。
 そんなの無理。もう、とっくに。
 ぎゅうと目を閉じ、開けると。
 いつの間にか、蓮がベッドを降りて目の前に来ていた。
 「つっ」
 「何、考えてた?」
 「え」
 「そんな哀しそうな顔して、誰のこと考えてた?」
 「敦賀さ…ん?」
 怒っているのだろうか、自分がこの期に及んでもまだ迷ったりするから。視線を揺らすキョーコを捉えて引き寄せ、屈み込んだ長身の俳優はほのかに紅の差す耳朶をはぷりと噛んだ。
 「やうっ」
 身を縮めるキョーコに、クスクス笑って言う。
 「レッスン1。駄目だよ、これから抱かれるって相手から気を逸らしたりしちゃ」
 大きな両手が血の色を浮かべる頬を包んだ。
 ちゅ…
 軽やかに合わさる唇。離れてはすぐに戻り、その度接触は深く強くなる。舌が絡め取られる。
 「ん、…ふ…」
 ちいさく呻くキョーコの頭を抱えて少し反らさせ、蓮は首筋へと舌を這わせ始める。
 「あ」
 「いい匂いがする…」
 耳の下を丹念に舐めながら囁かれ、キョーコはこみ上げる羞恥に気が遠くなりそうだった。
 「不思議だね。同じ石鹸が置いてあるはずなのに、君の方がやわらかい、いい匂いになる」
 「そ…そんなこと、ありません。敦賀さんだって…」
 「うん?」
 下から覗き上げられ、ひたりと視線が合った。途端に言葉が喉に張り付いて出てこなくなる。
 なのに男は要求して来る。
 「俺だって?何?」
 「う、あ…」
 「聞きたいな…キョーコ」
 「キョ!?
 「…あ!」
 いきなり呼び捨てにされて一瞬自失すると、蓮にひょいと腰を回された。諸共にベッドに倒れ込む。
 ばうん、と跳ね返る体は男の腕の中。顎を押さえられて身動きが取れなくなる。
 「言わないなら、君を同じ匂いにして自分で嗅いでみようかな」
 言いながら蓮は、伸び上がってキョーコの髪の中に顔をうずめる。何度もキスする度に鼻先を喉仏にくすぐられ、少女は堪えかねてきつく目を瞑る。すこし呂律の怪しい口調で一気に言った。
 「いっいい香りです!敦賀さんは、いい香りがして、近くにいるとなんか安心できて、気持ちよくなるんです!!」
 ぴたりと蓮が停止した。
 我に返り、キョーコは恐る恐る覆いかぶさっている顔を見上げる。目が合った。
 「…そう」
 微笑を湛えた唇が甘く…淫靡な囁きを吐き零す。
 「じゃあ今夜はきっと、最高に気持ちよくなるよ        




18歳以上&エロOKな方→(2)へ
18歳未満&エロ不可な方→(3)へ((2)がなくても読めます)
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 書いてみたら一回目はまだセーフなシーンで終わったので、こっちに移動させました(なんのこっちゃ)。
 次はさすがにK18ですな。
 18歳未満の方もこの話自体は読めるように、間が抜けても読める作りにしますね~。
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非公開コメント

ありがとうございます。

コメありがとうございます。ただコお気に召しましたか、嬉しいです。
うちではちょっと珍し目の話になりそうですが、頑張りますのでよろしくお願いします!
> 蓮サマのセリフたまりません
ありがとうございます、くさいセリフ書くの好きなんですよ(笑)。

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