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たいせつでたいせつで(29)

 「…あ」
 キョーコに触れる直前、クオンは手を止め視線を上げた。同じように手を伸ばしている大将を見つけて、潔く自分は引き下がる。キョーコには親が必要だと言ったのは自分なのだ。そう、彼以外にも彼女を愛している人間がいるのだと悟らせることは、絶対にキョーコのためになる。彼だけがキョーコを独り占めするのは、その後でなくてはならない。
 そう思う一方で、やはり自分だけが彼女のすべてであるというシチュエーションにも憧れずにはいられなかったけれど、クオンは敢えて心に蓋をした。そんな小さな感情に支配される男は、この健気な子にふさわしくない。この子はもっともっと愛されていい子なのだから。
 キョーコの頬を撫でながら脇へずれると、察した大将が窮屈そうに膝を折って義娘の前に屈んだ。口を開いたが言葉が出てこない様子で、やはり不器用な力加減で少女の頭をぐりぐり撫でる。
 少女はキョトンと目を見開き、頑固そうな中年男の顔を見上げた。ほんのり笑う。なにかなつかしげに。
 「おじさん、お料理する人?」
 「え、あ、ああ。そうだが…」
 「手から、お出汁の匂いがする」
 「ああ」
 大将が、片頬に苦笑に近い笑みを載せた。
 「出てくる前、仕込みを始めたところだったからな」
 「うちは…キョーコちゃんの家は、居酒屋なんだよ」
 おかみが後ろから口を添える。キョーコはそちらも見上げ、口の中で
 「私のおうち…」
 ちいさく呟いた。それから、その響きが気に入ったように上気した頬を緩める。
 「私、そこに、いていいの?」
 「…!」
 大人たちとクオンが、一様に胸を突かれて絶句した。なんという…キョーコの質問は謙虚と呼ぶにはあまりに哀しい。
 「…当たり前だ、バカ」
 やっと言ったのは大将だった。
 「ほら、帰るぞ」
 踵を返す耳に血の色。振り返らずに手を差し出した。
 キョーコは一瞬駅を振り返り、震わせまいというように唇を噛んでからその手を取った。大将の耳がますます赤くなる。少女は自分の空いている方の手をちょっと見て、背後の二人を見比べる。クオンが笑って一歩下がって見せると、ごめんね?と謝るように首を傾げ、その手をおかみに差し出した。




 「うわあ、日本にいるみたい」
 通りを一本入り、更に進むうちにキョーコは周囲を見回して歓声を上げた。特に巨大なカニがお気に召したようで、歩きながらいつまでも見入っていたが、危ないからと諭されて赤い顔で前に向き直る。
 「さ、ここだよ」
 だるまやの前に着くと、おかみが鍵を開けて引き戸を開いた。少女は物珍しそうにキョロキョロしながら店内に足を踏み入れ…
 「住居の玄関は、裏側になってるんだけどね。
 「…キョーコちゃん?」
 動かなくなったキョーコに気付き、おかみは不安げに呼びかける。調理場へ進む大将が振り返った。
 「キョーコちゃん」
 クオンも何がなし不安に駆られ、背後から肩を叩いた。それでも少女は振り返らない。
 カタカタと…小さな、何の音がするのかと思ったら、震えるキョーコの歯が鳴っているようだ。
 「キョーコちゃん、一体どうし…」
 明確となった懸念に、クオンは少女の視線を辿る。そこには、
 酒棚に、様々な酒ビンが並んでいる。当然だ、居酒屋なのだから。
 …待て、とクオンは狼狽を浮かべた。孤児院で、あの女性職員は何と言った。
 『それで激昂したミスタ・ラウズは、酒ビンで何度もお母さんを殴って…』
 『酒ビンで、何度も…』
 「キョ…キョーコちゃん……」
 おそるおそる呼びかけるクオンの声に、ぴくりと小さな肩が動いた。手が、のろのろと持ち上がる。頭を抱えた。かきむしるように、キョーコは…
 こまかくかぶりを振る。
 「い…」
 奇妙にブレた声が蒼白な唇を割った。
 「いやあああああああ!!!」
 なす術もなく立ち竦む二人の大人と一人の少年の目の前で、少女は無残な絶叫と共に床に小さくちいさくうずくまった。




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