あなたのじかん(前編)

 そんな生活は、考えられない。



 「…大丈夫?」
 「はい…」
 尋ねると、腕の中からかぼそい声が答える。
 控え室のソファの上、蓮は膝の上に横抱きにしているキョーコの体を抱えなおし、腹に当てた手をゆっくり上下させた。青い顔のキョーコがゆっくりと息を吐く。
 「少し楽になりました、ありがとうございます。敦賀さんの手、あったかいですね…」
 半分目を伏せて言い、キョーコは俳優の膝を降りようとした。
 「そろそろお化粧直して、撮影に出ないと」
 「うん…」
 「そんなに心配そうな顔しないで下さい。病気じゃないんですから」
 弱々しく笑う。
 「でも、辛そうだ」
 「女性なら間々あることですよ。私は、いつもこんなに重いわけじゃありませんし。
 「それより…」
 蓮の言葉に、キョーコはそっと微笑んだ。それからじいっと、切なげに俳優の顔に見入るけれど、見つめられた方は照れもせずに甘く囁く。
 「どうしたの?」
 「…いえ…」
 女優は何か飲み込んで首を振り、そろそろと立ち上がった。蓮はそれに、自分も腰を上げながら手を貸す。キョーコがふらつくと、姫抱きに抱え上げて鏡の前に座らせた。
 「メイク、俺がしてあげるよ」
 「え。そんな、何か照れくさいです」
 「いいから」
 俳優は傍らに置いてある化粧道具を引き寄せ、キョーコを前に向き直らせた。
 「ここの撮影が終われば、今日は一緒に帰れるし。頑張って」
 「はい…」
 髪を撫でれば、キョーコは安心したようにしっとり頷く。重い生理痛に悩まされながらも進行を遅らせたくないとドラマの撮りを続ける女優に、婚約者でもある共演者は彼女の前髪をざっとまとめながら諦めたように笑いかけた。
 「いつかと逆みたいだな。
 「俺が人生で初めて風邪をひいた時、仕事に支障を来たさないように必死にサポートしてくれたのは君の方だった」
 「あれは、代マネのお仕事で…今、敦賀さんが私に下さってる無償のものとはちょっと違いますよ?」
 「うーん…」
 感謝の表現なのだろうが、蓮は少し首を傾げた。
 「無償、とも言えないんじゃないかな。俺は、君の気持ちが欲しいんだから」
 「…!
 「そ、そんなの…とっくに持ってるんですから、やっぱり、無償じゃないですか…」
 キョーコの蒼白だった頬に血の色が上る。ドーランのびんを手に取った蓮は、つかえ気味にやっと言う恋人のこめかみに唇をつけた。
 「うん…でも、もっと。もっと欲しい。いつも足りない。全部俺のものにしたい…」
 「つ、敦賀さん…?」
 「ああ、ごめん。君は具合が悪いのに」
 蓮は静かに言って身を離し、びんの蓋を開ける。鏡に映るその表情を見たキョーコが切なげに目を伏せた。小さく息を入れ、彼女は呟くように言う。
 「敦賀さん…私に隠してること、ありますよね」
 
 

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 キリリクシリーズの作品を差し替えたので、足りなくなったネタをこちらに追加。
 今回はぽと吉さまの37373打リク「ひどい生理痛に悩まされながら仕事は頑張るキョーコにハラハラする蓮(後略)」で。少し設定をいじらせて戴いた上で、エピソード追加してます。
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