たいせつでたいせつで(34)

 胸を揺さぶるような、悲痛な泣き声がする。
 ところどころしゃくりあげるような音の混じるその声には、聞き覚えがあった。クオンは手を伸ばす。
 (泣かないで、キョーコちゃん…)
 「痛」
 背中に走る痛みに意識が浮いた。それで体に力が入ると、右足にもっとひどい痛みを覚える。
 「…っ…」
 目を開くと、かすかに染みのついた素っ気無い天井が見えた。それから白い壁、生成りのカーテン、視界の端にちょろりと黒いシッポ。どうやら病院のベッドにいるらしい。
 (…ん?黒いシッポ?)
 「コーン!」
 名を呼ばれてキョーコの髪だと気付き、彼は身を起こそうとする。小さな手に邪魔された。
 「じっとしてて!背中打った時に筋を痛めてるから、急に動いちゃダメなのよ」
 「ああ…」
 しっかりした声を聞き、クオンはほうと息をついた。どうやら泣いていたのは、自分の夢の中のキョーコだったようだ。
 「目を覚ましたら呼んでって言われてるから、お医者様呼ぶわね?」
 キョーコはナースコールを押してクオンの覚醒を告げる。それからベッドヘッドの角度を調節したりケガ人の背中にそっとクッションを当てたり、テキパキと世話を焼き出した。
 「のどかわいてるかもしれないけど、お水飲んだりするのはお医者さまに聞いてからにしなさいって。少しガマンしてね?」
 「わかったよ、ありがとうキョーコちゃん」
 「あ、それでね、おじ様もさっきまでいたんだけど、おば様が帰って来たからって空港に迎えに行ってるの」
 「母さん?確か今、ミラノだったはず…」
 してみると、仕事で海外に出ていた母にも彼の負傷が知らされたらしい。心配と迷惑をかけてしまったな、とクオンは反省を噛んだ。
 しかし、くるくると動く少女にはケガもなさそうだ。少年は微笑み、用心しいしい手を伸ばしてキョーコの頬に触れようとした。
 そこへ病室のドアが勢いよくスライドし、医師とナースが一人ずつ現れる。
 「やあクオン君、気分はどうかね?私は担当医のモリスンだ」
 差し出された手を、クオンは少々恨みがましく握った。
 「お世話になります。先程まで上々だったのですが」
 「ふむ。吐き気でも?」
 さっとどいたキョーコの頭を撫でて代わりに椅子に腰を下ろし、医師は聴診器を肩から外す。
 「いえ、別に。あちこち痛いけどそれだけです」
 クオンは着せられているパジャマの前を開きながら言った。キョーコが慌てて背を向ける。
 「うん、君はなかなか頑丈だ。背中の打撲も様子は見るが深刻なこともなさそうだし、足もきれいな単純骨折。思い切りのいい相手だったようだね」
 「はあ…」
 「まあ成長期だ、3週間とかからずくっつくさ」
 「3週間…」
 「焦らないことだよ」
 何事か考え込む少年ににかっと笑いかけ、中年の医師は右足のギプスをこんと叩いた。
 「ところで、これはあの子が書いたのかい?中国語…日本語かな?何と書いてある?」
 「え」
 クオンが視線を落とせば、そこにはマジックで書かれた幾つかの日本語。
 『ごめんなさい』
 『ありがとう』
 『早くよくなりますように』
 そして、『だいすき』。
 思わずキョーコを見る。後ろ姿に覗く耳たぶが真っ赤だ。
 「え、え、と…その、日本語で、励ましの言葉が」
 「なるほど。じゃあ、君は食餌制限もないから、以後は好きに…」
 勿体なくて医師には言えない。しかし勝手に零れてしまう笑みに、立ち上がろうとしていたモリスンは固まりその後ろのナースはどさりとクリップボードを落とした。



 「関節が固まらないように、膝や足首を動かすのを手伝ってあげるといいよ」
 「はい!」
 何か自分にできることはないかと聞いたキョーコの頭をもう一度撫で、医師とナースはお大事にと言って出て行く。
 クオンはドアが閉まるのを待ちかねたように、
 「キョーコちゃん、これ」
 と足のギプスを指す。キョーコが後ろ向きのまま肩を縮めた。
 「だって。コーン、私のせいで動けなくなって、怪我して…だからごめんなさいで。でも、助けてくれてありがとうで、早く治って欲しいし…
 「そう、思ったんだもの」
 小さな声でぷつぷつ言うキョーコの髪がゆらゆら揺れている。
 「キョーコちゃん、こっちに来て」
 クオンの言葉に、ぴゃっと跳ねてからそろそろ振り返った。三つ息を入れ、のろく歩き出す。
 「座って」
 少女をベッドサイドの椅子に戻らせ、ケガ人は優しく優しく命じる。魅入られたように従うキョーコの頬に、今度こそ触れた。
 「ごめんね」
 「え」
 「俺のせいで、怖い思いをさせて。でも、ありがとう。助けてくれたのは君の方だ。それに…
 「俺は君の30倍くらい、君が大好きだから」
 「さっさんじゅう…」
 「うん。それくらいは固い」
 真っ赤になって口をぱくぱくさせる少女の前髪を、彼は笑いながらつんと引く。
 「でっでも、あの、コーン。私には、ショーちゃんがね」
 「ダメだってば」
 「ふぇ?」
 「そんな、ろくに連絡もくれない奴のことなんか忘れてもらう」
 「コ、コーン?」
 「クオン」
 「あ。ご、ごめんなさい。えと、クオン。でも…」
 あたふたするキョーコに、クオンはにっこりとっておきの笑顔を向けた。
 「早くもっと大きくなってね、キョーコちゃん」



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 一旦書き上げたのに、操作間違えたらしくいきなり全部消えちまいました…くそ…二回書くのって異様に悔しいです。
 
 今回は、クーパパがいないのに平和ですね~。珍しい(笑)。
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