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妙法蓮華(8)

 「…ほほう」
 横で、初老に差し掛かる頃合の男が低く唸った。
 しかし尚はそれどころでなく、目を瞠ったまま立ち尽くしている。力の抜けた腕組みがスルリと解けた。
 「何だ、これ…!?」
 視線はキョーコの口元へ。確かに、動いている。歌っている。
 喋る時よりも少し低い、けれど豊かに響くキョーコの歌声。ねっとり絡め取ろうとするようなレイノの声を時にさらりとかわし時に寄り添い、絶妙のハーモニーを紡ぐ。
 そして尚は、その調和を生み出しているのがレイノの側であることをプロのミュージシャンとして聞き分けていた。
 意外、と言うよりは…
 衝撃。
 レイノの音楽的素養がこれほどであるとは思っていなかった。
 (売れる)
 と直感した。今の曲が発表されれば、世間の話題を掻っ攫うに違いない。もしかすると、自分たちのユニットよりも…と尚は横目を遣う。
 キョーコ達のスタジオに入る直前、ちょうど来合わせて事情を聞くや待つから同席させろと言い出した坂東ひろしは、妙に嬉しそうにキョーコを見ている。と思ったら、大仰に両手を振り立てた。
 「いいねえ、実にいい!いやー、京子ちゃん歌もいけるんだね!声質も声量も素晴らしいじゃないか。君、この際私の弟子になって歌手デビューしないかね!?」
 「はい!?」
 キョーコがマイクを持ったまま素っ頓狂な声を上げる。
 「ユニットも、富士に変更を申し入れてみよう。坂東ひろし&京子、うん、話題性もばっちりだ。君たちも、不破尚withビー・グールなんて、若い娘さんたちに大受けしそうじゃないか」
 「ちょ、このジ」
 「尚!」
 「あの、一体」
 うろたえるキョーコをよそに、坂東先生はすっかり一人で盛り上がっている。
 「CDの初回プレスはどのくらいになるかな…」
 「せ、先生。そんな無茶な。ユニットはもう発表されてますし、今更変更なんてしたらイメージが悪く」
 マネージャーが泣きを入れてもどこ吹く風、とてとてとブースの中へ入って行ってしまった。
 「あ、ちょっと…」
 さすがに慌て気味の尚が続く。
 「いやあ、私は前から君のファンだったんだがね。今歌を聞いて、ピンと来たんだよ。君の歌には、日本人が失いつつあるド根性がある。ぜひ育ててみたい。そして堕落する日本社会に喝を入れようじゃないか!」
 演歌歌手はキョーコの手を取らんばかりに詰め寄って力説し出した。鼻からぶんぶん空気が洩れている。
 「幼めな容姿もいい。これから花開いていく過渡期の危うさと、前に出る力強い声のアンバランスさが、堪えられない魅力になるだろう。
 「それに君は肌が綺麗で清潔感がある、これも強みだ。たしか京都出身だとか…うん、京女の肌だね」
 手を取り指を撫でるセクハラ親父の前に、キョーコは仲居モードに入ろうとする。何か喚き出そうとして祥子に押さえられる尚の姿は目に入っていない。
 「恐れ入ります。ですが…」
 言い終える前に、隣に影が立った。今日も黒い服を纏ったレイノが、無表情に坂東を見下ろす。
 「何だね、えー、レイノ君?だったか。私は京子ちゃんに話をしてるんだが」
 「……」
 見下ろす。
 「…!?」
 坂東の顔色が変わった。急に周囲の気温が下がったとでも言うように自分をかき抱いてしきりに首を傾げる。それへ、祥子を振り払った尚がまだ荒さの残る声を投げた。
 「坂東先生。行きましょう、今日は俺と打ち合わせに来てくれたんでしょう?俺の方も、話ありますから…」
 「あ、ああ、不破君。そうかね?」
 なにかホッとした顔をして、坂東はブースの入り口に立つ尚を見返る。
 「話とは?」
 一瞬未練がましくキョーコを見てからせかせかブースを出るのを脇へどいて通し、尚は口の端で言った。
 「ええ、俺、先生に曲書こうと思って」
 「ほう!」
 坂東が、急に元気になった。



 「アンタ、何したの」
 演歌歌手ご一行様の消えたドアから、キョーコはレイノに視線を向け変えた。
 「何とは?」
 「とぼけないでよ。あの人アンタが前に立ったら急に様子がおかしくなったじゃない。何か呪いとかそういう…」
 「別に、そんなものじゃない。ちょっと守護霊と話をしただけだ」
 「はあ!?
 「もー、わけわかんない。バカショーはバカショーで妙なこと言ってたし。演歌書くつもりなのかしら」
 「よほど驚いたんだろう」
 ヴォーカリストが喉で笑う。
 「自分より俺の方が、お前をよく活かせると知ってな…」
 「何よそれ、気色悪い…」
 「おい似非天使」
 横から呼ばれて、キョーコはギターに向き直った。
 「いい加減その呼び方やめてよ。何!?」
 「…あー…」
 ギターは歯を食いしばるような引き攣るような珍妙な顔をしている。どうも笑おうとしている様子が見えるが、じきに諦め投げつける勢いで言った。
 「よかったぞっ。まあまあ」
 親指を立てるが、指の先はへこりと折れている。
 「はあ?」
 「こんな歌えると思ってなかった。正直、レイノ君がなんでお前なんかにこだわるのか理解できなかった…って言うか今でもできないけど、まあ、なんだ、
 「…見直した」
 「…え」
 語調に問題があるがどうやら褒めているらしいと悟り、キョーコはほとんど愕然とした。
 「気持ち悪いわねっ、何企んでるのよ!?」
 「ご挨拶だな、キョーコ」
 レイノがすらりと宙を撫でる。
 「うちのメンバーは一人を除いて正直者ばかりだぞ。まあ、正直すぎるのが困り物だが」
 除かれた一人はドラムセットの向こうで『お前も含めてな』と言いたげに肩をすくめている。困惑するキョーコに、ベースがぼよんぼよんと4つの音を出して見せた。
 器用にも、“か”“ん”“げ”“い”と聞こえた。



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 ビー・グールに受け入れられたキョーコ☆次回は本番の予定です。あと2回で終わらせたい…けど…うーん?
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