たいせつでたいせつで(38)

 切なる願いが天と言うよりも医師に通じ、クオンは10日ほどで退院することになった。折れた足の骨はまだくっついてはいないので注意するようにとは言われたが、なにしろ松葉杖で健常者よりも速く病院内をすったか歩き回るのだから、邪魔にされたというのが真相だ。
 退院の日、彼は担当医の診察と投薬を受け、いつものように朝から来ていたキョーコに手伝ってもらって支度を終えた。うずうず待つうち、約束どおりの時間に父が現れる。
 が、どうも表情が沈んでいる。
 「どうしたの父さん、何かあった?」
 敏い息子に尋ねられ、アクションスターがはたと視線を落としたのはキョーコの方。
 「クーパパ?」
 可愛らしく小首を傾げるのに堪りかねたように抱き上げ頬ずりする。
 「ちょ、父さん!?」
 「可愛いキョーコ、お前に会えなくなるなど私には耐えられん…っ」
 「ええ!!?」
 クオンが仰天した。
 「と、父さん!何言って…どういう意味、それ!?」
 松葉杖をだかだか突いて詰め寄る少年に、クーは少女を床に下ろして溜め息をつく。
 「いや…すまん、先走りすぎた。つい色々考えてしまってな…」
 「ついじゃないよ、早く説明してよ!!」
 「落ち着け、クオン。私が悪かった。ちゃんと説明するから、まず家に帰ろう」
 「……」



 「あー…」
 後部座席からのじっとりした視線に、ハンドルを握るクーは軽く咳払いした。
 「家で、ゆっくり話した方がいいと思うんだが」
 「今聞きたい」
 一人っ子は言い出したら聞かない。見かねてキョーコが口を出した。少女はクオンの隣に乗り込み、カーブなどの度に一生懸命少年の体を支えようとする。実はしがみつかれてクオンには余計な加重がかかっていたわけだが、勿論この役得を捨てるような愚かな真似はしなかった。
 「クオン、クーパパ困らせちゃダメよ」
 「でもキョーコちゃん。父さんが言ったこと、君は気にならないの!?君に…」
 会えなくなる。言葉さえ口にしたくないとクオンは黙り込む。キョーコは小さな声で言った。
 「それは…気になるけど。でも、私、はじめからよその子だし」
 『違う!!』
 父子の声が重なった。
 「お前はうちの子だ!今はちょっと大将のところに預けているだけで、いずれはちゃんと私の娘になるんだからな!!絶対!!」
 クーが言い切れば、
 「そうだよ!君は何年かしたらヒズリを名乗るんだ」
 クオンも同調する。
 キョーコは目を瞬き、それから嬉しそうににっこり笑った。
 「私、クオンの妹になるの?」
 「ちがっ」
 「いざとなったらそれでもいい」
 今度は父子の呼吸は合わなかった。
 「父さん…」
 息子にもっと期待しろと言いたかったが、ルームミラーの中の父の顔が笑っている。精々励めと言われたようで、クオンは脱力したまま話を戻した。
 「…で?」
 「お前はブレないな…」
 クーが嘆息する。
 「仕方ない。じゃあ言うが、落ち着いて聞け?」
 「話によるけど、努力はするよ」
 クオンのやや冷たい声に眉を下げ、俳優は右へハンドルを切りながら口を開いた。
 「午前中に、だるまやの大将から電話があってな」
 「うん?」
 まさかもうキョーコを返せと言って来たのだろうか?自分はやっと退院して、今日からまた一緒に暮らせるのに。
 ついそんなことを思い、クオンは心の中でかぶりを振った。
 (なに利己的なこと考えてるんだ、俺は。そうじゃなくて、キョーコちゃんはまだ酒ビンが怖いかもしれないし…)
 「ほら、孤児院で、キョーコの持ってるハガキを見ただろう」
 クーの言葉に、少年はぴしりと固まった。嬉しい記憶と1セットになってしまっている不快な記憶。“コーン”と“ショーちゃん”と。
 「私のって…もしかして、ショーちゃんからの…?」
 果たして横にいる少女が、彼にとってこの世で最も気分の悪い名前を呟く。
 「…うん、見たね」
 つい鋭利になりそうな目を伏せて隠し、クオンは短く同意した。
 「キョーコを引き取ってすぐ、あれを見たおかみが日本へ手紙を書いたそうなんだ。キョーコの知り合いなら、連絡が取れなくなって心配するといけないと」
 気配りのいいおかみさんらしい、とクオンは思い、どうしても湧き上がろうとする『余計なことを』という思いを抑え込もうとした。まったく、ライバルの名前ひとつで簡単に余裕をなくす自分が信じられない。かつてなかったことだ…
 「聞いてるか?クオン」
 怪訝そうな父の声に、彼は慌てて顔を上げた。
 「聞いてるよ、父さん。続けて」
 「ああ…その手紙は、船便のどこかに紛れ込んだかして、最近になって日本に着いたらしい。それで驚いた先方…差出人でなく、その親だが…からエアメールが来た。
 「そういうことなら、キョーコを引き取りたいと」
 「…!!?」



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 キョーコの前であまりズバズバ言えず発言がやや不明瞭になるクーパパの苦労が忍ばれます。
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