たいせつでたいせつで(39)

 「キョーコは子供の頃から、よくその…不破家に預けられていたんだって?」
 「あ、はい…」
 何がなし言いにくそうに尋ねるクーに、キョーコは弱い調子で答えた。
 「お、かあさんは、私が、要らなかったから…っ」
 「キョーコちゃん」
 クオンが遮る。両手を伸ばし、震える少女を抱き寄せた。彼女を今捉えているのが幼い頃の記憶なのか、思い出したばかりの惨劇なのか。どちらにしろ、そんなものに渡すわけには行かないと思った。
 少年の庇護を受け入れ、キョーコはそっと目を閉じる。やわらかく自分を囲う、優しい腕。何もかも知った上で自分を受け入れてくれる人がいることに、彼女は初めて気付いた。
 「私たちは、お前がとても大事だぞ。キョーコ」
 運転席からも優しい声が流れて来る。体の震えが止まり、力の抜けた頭はクオンの肩にことんと落ちた。
 少年は柔らかな髪を撫で、少女が息をしやすいように顔の向きを少し変えさせる。するとキョーコは我に返ったらしく、顔を赤くして彼の胸を押した。
 クオンは少なからず残念に思いながら少女を解放する。
 「話を続けて、大丈夫?」
 尋ねるとキョーコが小さく頷いたので、自分に近いほうの手を取って握り、父を促した。
 「続けて、父さん」
 クーがちらりとルームミラーを覗き、小さな息をつく。
 「ああ…
 「不破家ではな、キョーコは自分の家でも娘同然だし、子供の頃から慣れた環境に戻る方がいいだろうと言っているそうだ」
 クオンは絶句した。慣れていると言ったって、いつも寂しがってたのに。と思う一方で、このアメリカでの記憶がそれをも凌駕するほどに重く苦しいものであることが否定できない。
 身勝手だとわかっていたが、なぜ今なのかと腹立たしい。
 キョーコにもう再会してしまったのに。
 自分のせいで危ない目に遭わせた直後に。
 まだ、彼女の気持ちを得ていないのに。
 千々に乱れる心を持て余し、クオンは声も発せられなくなった。
 「時間が必要か?」
 父の問いに、彼はぱっとキョーコを見る。少女はひどく複雑な顔をしていたが、ややあってからぽつんと頷いた。
 「…はい。
 「あの、私…ショーちゃんに会いたいです。日本も懐かしいし…でも、クーパパやジュリママやクオンに会えなくなるの、いやです…そ、それに、学校だって明後日から行くことになってるのに」
 「キョーコ…」
 クーがしみじみ呟いた。
 「わかった。そうだな、よく考えなさい。先方には考える時間が要ると伝えてもらおう」
 「あの、私、自分でお手紙書きます」
 「ああ、それはいいな。向こうも納得するだろう」
 穏やかに頷く父の声を聞きながら、クオンはとりあえずの首がつながったことに安堵し、同時に、
 キョーコが離れがたい人物として一番に名を挙げたのが父であったことに衝撃を受けていた。
 ここでも。
 ここでもまた、譲れないものを張り合う相手は父なのか。
 おのれ父。
 クオンは胸中に炎を覚えた。グレ暗時代の自分がにょっこり顔を出しそうになるのをキョーコの手の感触に意識を集中させて堪え、彼は言葉を飲み込んだ。
 『ひどいよ、キョーコちゃん』
 本当は、キョーコを必要としているのは自分の方だと彼は知っていた。

 
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 ライバルはどこまで行ってもパパ。大変だね(笑)。
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